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さみしんぼ(PM・南土) [ 164/196 ]

素振りは見せないようにしてきた筈だ
何でもない顔をして、いつも通りに振る舞って
総司にだって
近藤さんにだって
誰にも気づかれなかった
なのに

どうしてバレたのだろうか


   ***


おはよう、と
にこやかに言われた。
ああ、と短く返した。
ただ、それだけで……

「何をしてるんだ、君は!!」

にこやかだった顔が子どもを叱るようなそれに変わった。手を掴まれて、自室まで連れていかれる。
さっさと布団を敷いて、抵抗する間もなく寝かされた。上にはかけ布団を乗せられる。
そこでようやく額に手を当てられた。そして顔をしかめる。

「随分高い熱だ…」
「別に平気だ。それより近藤さんに用が…」
「駄目だ。寝ていなさい」

子ども扱いされているようで苛立つ筈なのに、何故か何も感じない。ただ、視界が歪むのだ。目がいやに熱くて悲しくもないのに涙が出てくる。頬が熱い。顔全体が熱い。
病人と自覚すると同時に、それまで息を潜めていた症状が一斉に出たらしい。
山南は心配したように顔を歪め、立ち上がった。

「医者を呼んでくる」

離れてしまう、と。
嫌な不安が襲ってくる。
いつの間にか山南の服を掴んで引き留めていた。山南は驚いたように動きを止め、そっと顔を近づけてきた。

「すぐ帰ってくるから」

良い子にしていなさい、なんて。駄々っ子に言い聞かせるように微笑まれる。
だけど、どうしてもその手を放せなかった。

「『怖い』んだ」

熱で意識が朦朧として、言わなくてもいいことを口走る。
これじゃあ、本当に餓鬼だ。

「『怖い』?」
「……怖い」
「ああ、大丈夫。注射でなく薬にしてもら…」
「どんだけ餓鬼扱いしやがる」

でも
大差ないかもしれない。

「一人になるのが怖いんだ」





目を閉じると、現れるのは闇。光の一つもない闇。
その真ん中に立って、近づいてくる血のにおい。
──死者が、呼んでいる


一人でいるのは怖かった。闇の底へ引きずり込まれてしまいそうに思えた。

「土方くん」

山南はふわりと微笑んで、裾にすがりついていた手を取った。出ていってしまうのかと身構えると、その手をぎゅっと包み込まれ、口づけられる。何が起こったかわからず固まっていると山南は隣に座り込んだ。手は繋いだまま。

「ずっと、ここにいるよ」

本当に?
見上げた笑顔に嘘はなく、安堵として瞳を閉じた。
らしくもない。こんな、弱気になるのは嫌なはずなのに。

「山南さ…」

言葉を紡ぎかけて、やわらかな唇が触れる。
舌が唇に触れ、口内に入り込み、存分にかき回したかと思うと出ていった。

「熱があると口の中も熱い…」

囁くように言われて体にぞくりとした震えが走る。悪寒などではない。
腰のあたりがむず痒くて、風邪のせいだけでない熱にうかされる。とろけた瞳を山南に向けると、山南は黒い微笑を浮かべていた。
いつの間にか覆いかぶさる様にして山南の顔が目前にある。

「俗説だが、汗をかくと治ると聞いたことがある」
「……あんたはどうしてそう…」
「試してみるかい?」


楽しそうに言われて、どういう訳か抵抗する気など起きなかった。



─end─










事を終え、土方は山南に服を着せられていた。

「…自分で着れる」
「君が着るとはだけさせすぎる。だから風邪なんてひいたんじゃないかい?」

何故か責められている気がして、土方は山南から目を逸らした。
と──


「土方さん、風邪ひいたんですって?」
「ススム連れてきました!!」
「副長、薬持ってきました」

突然部屋に入ってきた三人。順に、沖田、市村、山崎である。
三人とも土方のことを心配して来たようで、土方は不覚にも胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

「土方さんは注射は怖いでしょうから薬を用意したんですよ」
「馬鹿にしてんのかお前」
「副長、俺が昨日副長に水ぶっかけちゃったせいですか!?」
「…別にお前のせいじゃ」
「副長、薬です」

山崎が無表情で薬を渡す。土方はそれを受け取ると早速飲もうとした。
が……


「土方さん、それ座薬ですよ?」
「……っ!?」

口に含もうとしたところで沖田に言われて気づく。
沖田はにこにこと笑いながら土方の手から座薬を奪い、

「誰に入れてほしいですか?」






結局、沖田以下三名(市村、山崎、山南)に追いかけられ、走り回っているうちに熱も下がり、風邪など何処かへ吹き飛んでしまったとか。



─end─





だからどうして飾る前にあげちゃうのさ私

偽者な土方さんですみません(汗)

気がつけばサイトも19000HIT(これUPしてる時点で19929HIT)です。早いような…


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