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強く、強く(はじめての甲子園・柳竜) [ 163/196 ]

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あいしてるなんてたった一言で表せるような単純な想いじゃないから何も言えずにいるんだって、言い訳して、言い訳して、言い訳して

でもそれが精一杯の自己防衛で
でも彼の隣に自分以外の誰かが居たらきっと死にたくなるって知っていて
でも怖くて踏み出せない



(こんなに、すきなのに)





   強く、強く






人を好きになったらどんなことでもできるって思ってた。空を飛ぶこともできるんだって。

でも現実はどうだろう。変化を恐れて何も言えないちっぽけな自分。



でも、君は恋しているのに強いよね。
















「……竜君は、怖くないんですか」


ぽつりと呟いた言葉に彼は「何が?」と振り返った。


「好きでしょう。一色さんのこと。嫌われたらどうしようとか、そんな風に考えたりしませんか?」


ああ、と、その一瞬の間におそらくは彼女のことを思い浮かべ、それから僕の言った「好きでしょう」という言葉が耳に届き、ゆっくりとその意味を理解していく。
本当に可愛い。耳まで赤くなっている。


「し、師匠……なんで…」

「見てればわかります。で、怖くないんですか?」


妬ける、なんて思いながら彼の表情を脳裏に焼き付ける。
彼が僕のことで赤くなってくれるのならそれはどれだけ幸せだろうか。きっと幸福すぎて顔が緩みきってしまうのに。


彼はしばらく言葉を探すように、何かに迷っていた。

けれどすぐにこう呟いた。



「アイツは俺に惚れてるから、問題ない」







「………」



ああ、彼が馬鹿なのを忘れていた。










「……いや、でも…そういうんじゃなくて………たしかに怖いけど、勇気とかぶっ飛ばして何か違う力に引っ張られるっつーか…」

「引っ張られる?」

「……『勇気を出す』とか『やるか!』って思う前に、カッコ悪いとか気付かないで突っ走るモンなんじゃねーの?
 ……俺なんてカッコ悪ぃとこ見せてばっかだしよ」



カッコ悪い、か。

たしかに、本当に好きなら何も考えられない。
本当に好きならなりふり構ってなんていられない。



ただ、ぶつかることを恐れているのはそれは本当の好きではないということになるんだ。







「……竜君もたまには良いこと言いますね」

「?」




だから、僕は、


彼の体を抱き寄せ、その頬にキスをした。

(唇にしたらきっと彼は怒るだろうから、とりあえずこれで我慢)






「僕は、君が好きです――君が一色さんを好きなのと同じように」





今度は僕のせいで赤くなった彼に満足して、僕は彼に背を向けると寮へ歩き出した。



やっぱり恋は強い力を持っているような気がした。




‐END‐


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