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世界に二人だけ(仙行仙) [ 131/196 ]
凍えそうな風というのはこういった風を言うのだろう。筆を持つ指先が冷たく震えて上手く動かない。手袋を持ってくるのを忘れたのが悔やまれる。
むしろ、場所が悪かった。冬の海。たいして綺麗でもないそれを砂浜に座り込んで眺めている物好きなんて自分を含めて二人しか存在しない。
海の絵を描きたいと言い出したのはどちらだろう。
何もこんな寒い中描かなくてもいいし、今日でなくてもいい。だけどどちらもが描きたいと思って、どちらかが口にした。
吐き出した息は白い。耳が冷たくなりすぎて痛い。
隣を見る。コートが砂だらけになるのも構わず砂浜に座り込んだ青年は、表情一つ変えずに海を見ていた。
それを見て、冬の海を描きたいと思った理由を思い出す。
「……なあ」
「…………」
無言で、けれど顔がこちらを向く。
「世界に二人、みたいだな」
青年の顔が、赤くなった。
END
年賀状企画でリクエストいただきました、仙行。
相変わらずの偽物っぷりですね。ごめんなさい。
2010年 年賀状企画
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