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チョコレートの魔法(仙行)* [ 130/196 ]



「…行、チョコレート食うか?」


仙石が緊張した面持ちで箱を近付ける。中には綺麗なチョコレートが10個並んでいる。

ああ、今日はバレンタインだったなと思い出して、だとするとこれは仙石からのチョコレートだろうかと思いながら1つ口に含む。
口内でドロリと溶けたそれがひどく熱く、飲み込むとその熱は一気に体を駆け巡る。

倒れた行に心底驚いた顔付きで仙石が駆け寄ってきたのが見えた。









「――仙石さ…」


ゾクリとする目で見上げられた。熱に浮かされたような、そんな目。仙石はごくりと喉を鳴らしながら行を見る。
チョコレートを食べた途端、これだ。となると原因は自分のチョコレートにあるのだろうか。しかし原因が思い当たらない。たしかにごく普通のチョコレートを買った筈なのだが…

その思考はすぐかき消された。顔を朱色に染めた行が、仙石の首に腕を回したからだ。



「熱…い…」

「行っ!!」



それだけで仙石の思考回路はショートした。同時に理性も焼き切れた。
薄く開いた唇に己のそれを合わせると、そっと舌を入り込ませる。カカオの香りがする口内には甘さというより苦さが感じられた。ビターチョコを買ったからだ、と思い出す。

唇を離せば茶色い色をした唾液が糸を引く。


「行、いいか?」



行は無言で頷いた。










「…ん、…ぁ」



性急に突き立てると苦しそうな声が漏れる。やめようか、と聞きかけたが行は何も言わずに仙石の背に腕を回した。


「大丈夫か?」



行はこくこくと頷きながら仙石を強く強く抱き締めた。


「大丈夫、だから……もっと」



狭い中がキチギチと締め付けて、ひどく熱い。

漏れる吐息も、汗も、その全てが…


(愛しい…)



そんなことを口にするのはこの行為よりずっと恥ずかしい気がして、仙石はただ行に喰らいつくようなキスをした。

壊れてしまうのではないか、と躊躇いがちに引き寄せた腰はちゃんと男のもので、肉はあまりついていないが骨ばっているということでもない。
黒髪を優しく撫で、しかしもう一方の手は行のものへと絡める。



「行……行」

「仙石さん!!」


名前を呼んで同時に果てた。我ながら青いなと思いながら、くったりと意識を失った行の髪をくしゃりと撫でた。











――ちなみにチョコレートは何だったのかというと



「先輩、これ食べてください!」


菊政から差し出された箱から、チョコレートを一粒口にする行。菊政は何かに期待しているように行を見つめていた。


「…俺の顔に何かついてるのか?」

「いえ、別に」



菊政は『おっかしいな〜?』と呟きながら去っていった。

後に残された箱を見ると


「先任伍長のと同じのだ」



行は気付かなかったのだが、それを見ていた仙石が血相を変えて菊政の所へ走っていったとか。



‐end‐





配布期間 2006.3.5〜4.5


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