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悪夢を見た話(化ギン) [ 172/196 ]

「お前が死ぬ夢を見たよ」



「……勝手に殺すな」
「ああ悪かった。吃驚(びっくり)して飛び起きたよ」
化野は苦笑いしながら夢の詳細を語ってみせた。ギンコが死んだ。ある山奥で、誰にも見付からず一人で死んだ。化野はいつもと何ら変わりない日常を生き、一寸だけギンコが訪れないことについて考える。明日は来るだろうか。明日はきっと来るだろう。ならば明日まで待とう。そう思いながら、生きていた。

「……別に驚いて起きたようには聞こえないな」
「いや、自分の暢気さに驚いた」

いくら待てども来る筈がないというのに。一人冷たくなっているギンコを探しに行こうともしない。気付きもしない。とことん愚かな、自分。
そんな未来が訪れるのは嫌だと思った。
「だから――」
「医者がいなくなったらこの村はどうなる」
ついて行くと音に成るよりも先にギンコが言う。
「お前は此処に居ろ」
「……だが、」
「俺は必ず此処に帰ってくる。死ぬ時も」

だからその夢は現実には成り得ない。


「……そうか」
「そうだ」

ならばそうなるだろう。確証などどこにもないのにそう信じられる。
ギンコはきっと此処で死ぬだろう。そして化野はギンコの死を看取ることが出来るだろう。
ならば、旅立つ必要はない。ギンコの帰る「家」であり続けよう。


「そうだ、美味い茶を貰ったんだ。煎れてやろう」



そして悪夢を飲み干してしまおう。



   END



年賀状企画でいただきましたリクエスト、化ギンでした。
「やばいよ蟲師読んだのだいぶ前だよ」と慌てつつ、ニセモノな二人を生み出してしまいました。

とりあえず化ギンは夫婦でいいと思います


2010年 年賀状企画





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