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お前が全部悪い(忍たま・タカ久々) [ 162/196 ]
「お前が全部悪い」
そんなこと、有り得ないと知りながらも俺は君に全ての責任を押し付ける。
「うん、俺が悪いよね、先輩の言う通りだ」
だって君があまりに優しいから、俺は甘えてしまうんだ。
「先輩」
最近懐かれた後輩は同じ火薬委員会で、髪結いなんてものをしている。結構なカリスマらしいと知ったのはくのいちの噂からだった。
見えない大きな尻尾を振りながら金髪が駆け寄ってくる。それに違和感を感じなくなったのはいつからだっただろうか。
本当は兵助より一つ上。忍術どころか忍者としての常識すら殆ど知らないタカ丸が実年齢より下の学年に編入したのは仕方のないことだろう。が、四年というのにも無理があるのではないだろうか。いっそ一年生に編入すべきだったのではないか。
「何だ」
「火薬の事なんだけど……」
猫のような目で聞いてくるタカ丸の手には筆記用具。勉強熱心ではあるよなあと思いながら質問に答えてやる。
授業であったわからない言葉も最初は委員会の後で土井に聞いていたのだが、一度兵助が押し付けられて教えて以来、ずっとこの調子である。
「お前、他の先輩とか、同級生に聞けば?平とか居たろ」
「うーん、まあそうなんだけど」
「これとかなら綾部が得意だし。それに俺より三郎の方が成績優秀だし……」
「久々知先輩がいいんですよう」
「………ふーん?」
「だって先輩じゃないと聞く意味ないし」
「………?」
「だってさあ、」
気が付けば、タカ丸の顔が目の前にあった。
「………さ、いとう?」
「わ、先輩睫毛長いね」
「そ…そうか?」
「うん。女の子みたい」
「馬鹿にしてんのか」
「違う。先輩は女の子っぽくないもん。男らしいしね。女の子っぽいのは睫毛と目だけ」
髪だってちょっと痛んでるし、と微笑みながら続ける。
「でも、俺、先輩が好きだな」
これが年上の技か、と思わせるくらい甘くて優しい声が兵助を包み込む。
「…………そりゃ…ありがと」
そこに込められた意味に気付いてはいけない。そう思いながら兵助はタカ丸から目をそらした。
「好き、」
唇に、柔らかな何かが触れた。
「俺は、兵助が好きだ」
狡い、大人びた男だ。こんな時だけ『先輩』と呼ばないだなんて。
「………」
いや、兵助自身も狡いと言えただろう。その空気に耐え切れなくなってタカ丸を突き飛ばし、一目散に長屋へと走り出したのだから。
「………好きって…………接吻って…何なんだよ」
指でなぞるように触れた唇は、不思議な熱を持っていた。
「──兵助、大丈夫?」
「うわっ!………なんだ三郎か」
上の空で歩いていたからだろうか。三郎の気配に気付かなかったため兵助は素っ頓狂な声をあげてしまった。
「……ううむ、腑抜けた兵助すら騙せないとは…」
「腑抜けたって……だいたい騙すって何さ」
「お前だけなんだよな。どうして見破れるんだ?そのばかでかい目か?睫毛か?睫毛なんだな?引っこ抜いてやる」
「……………いや、別に睫毛のせいじゃないし……それより俺腑抜けてた?」
「ああ」
三郎はつまらなそうに頷いた。
「上の空なんだもんな、伝子さんで話し掛けても」
「伝子さん!?」
まったく気が付かなかった、と軽く落ち込んでしまう。あれほど強烈な印象を与える姿で話し掛けられても気付かないとは忍者として問題である。
それもこれも、と思い出しかけた姿を首を振って忘れようとする。
「なあ、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ」
三郎だってらしくもないね、と微笑めば苦い顔をされた。
顔が頭から離れない。
──好きだな
後輩のくせに。後輩のくせに。後輩のくせに。
──兵助
「お前が全部悪い」
ひとりでに漏れたのはそんな言葉。
タカ丸が悪い。全部全部タカ丸が悪い。
何が悪いのかとかどうして悪いのかとかそんなこともわからずただただ呟いた。呟くことしかできなかった。
「うん、俺が悪いよね、先輩の言う通りだ」
何処かから返ってきた声に、兵助は甘やかすなと思った。
「俺が全部悪くて構わない。だから、堕ちてよ」
─了─
自分でも意味がわからないブツが出来上がりました。
消化不良もいいところ。寧ろ食べられないだろう、という話。
タカ久々が書きたかっただけです
裏設定を敢えて言うなら鉢→久々と綾→久々
別にそこは気にしなければ問題ありません。鉢屋さんのあれはただの友情にしか見えないし、単に久々知と綾部は知り合いだった程度にしか見えないし。
ただ久々知はあまり人に責任を押し付ける子であって欲しくないんですよね…(え)
昨日と今日の狭間
台詞×10
01お前が全部悪い
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