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若返り(オーフェン・キーオー) [ 143/196 ]



「おはようございます黒魔術士殿」


「我放つ光の白刃!」


 ごお、と音を立てて巨大な爆発音が聞こえる。この魔術はオーフェンがもっとも得意とするものだ。音声魔術の基本と言ったところだ。オーフェンほどの使い手ともなればそこいらの奴、この魔術一つで十分である。問題は一度もこの馬鹿を仕留めたことがないということだった。

「危ない愛情表現ですねえ。相変わらず」

 殺そうとしているんだけどなあ、とオーフェンは眉をひそめる。よりにもよって愛情表現とは……

「さあて、朝の日課も終わりましたし、ボニー様の朝食でも毒味しますか」

 いや、絶対全部食べる気だ。そう思ったが口には出さないでおく。

「それではまた」
「もう二度と来んな」

 颯爽と去っていくキースの背中に向かって呪うように呟いた。



 バグアップが偶に親切心で食事の残りを出してくれることがある。それも最近はめっきりなかったのでオーフェンは絶食三日目だった。

「腹減った」

 バグアップの前でこれ見よがしに倒れていると、彼は怖いくらいの笑顔で豪華な食事を出してくれた。
 絶対何かある。普段の彼なら明らかに警戒していただろう。だが、今のオーフェンはかなりせっぱ詰まっていた。さっきキースに向かって魔術を放ったのがおおよその原因である。

「いただきまーす」

 だから何の警戒も持たなかった。それが大きな間違いだったと気付く前に皿の上は空になっていた。



 くらりと立ち眩みがした。天井が揺れる。頭がふらふらして上手く立っていられない。
「悪いな、オーフェン」
 どこか遠くでバグアップの声が響いていた。




 ぼんやりとした意識が霧が晴れるようにはっきりとしていく。
 
「あれ、父さん? も〜、どこ行ったんだよ!」

 マジクの声が聞こえる。

「……? 君、どうしたの?」


 何をふざけているんだ。そう思ってマジクを見る。
(なんか、大きくないか?)
 気のせいではなかった。たしかにマジクは大きかった。というかオーフェンが縮んだのだ。
(俺は普通の洗剤で洗ったセーターか!)
 そう言えばバグアップが『悪いな、オーフェン』と言っていた。もしかしてバグアップが犯人なのかもしれない。とにかくオーフェンは『塔』を出たころの姿−−つまりは子供の姿に戻っているのだ。

「おい! バグアップはどこだ!」

 マジクはのんびりと答えた。
「どっか行っちゃったみたい」
 ………
 犯人には心当たりがあった。オーフェンはひとまずそいつの所に殴り込みに行こう、と心に決めた。




「キース!」
 
 がらんとした屋敷内にオーフェンの声が響く。その声もやはり幼いころの−−キリランシェロの声だった。その声と鏡に映った容姿にはなにか彷彿とさせるものがあって、オーフェンは一刻も早く元に戻りたかった。

「おや、黒魔術士殿。どうかいたしましたか」

「どうかいたしましたか、じゃねえ! どうせてめえの仕業だろ」
「ああ、効いたようですね。薬」
「やっぱりお前か! とっとと戻せ!」
「嫌ですよ。もったいない」
「何がもったいないだ! 早く戻せ!」
「いや、それがですね」
 キースははあとため息を吐いて

「解毒剤がないんですよ」

「我放つ光の白刃」
 オーフェンの放った魔術は一瞬にして屋敷を崩壊させたが、そこには傷一つ負わず飄々と立っているキースがいた。
 キリランシェロに戻ったからか威力がいつもより強い。オーフェンはおもむろに構成を編んだ。
「我は砕く原始の静寂」
「なんの」
「我は呼ぶ破裂の姉妹」
「まったく」
「あーもう! とにかく死ねえええええええええええ!!!!!!!!!」
「効きませんな」

「わ」

 突然の目眩にオーフェンは倒れ込んだ。
「まあ、据え膳食わぬは男の恥といいますし」
「それとこれとにどういう関係が……」
「折しもここは寝室ですから」
「何しやがる」
「ナニです」

 三時間後。薬の効力が切れ元に戻ったオーフェンが、キースを追いかけて町を壊滅状態に追い込みかけるのはいうまでもない。

―END―


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