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バレンタインデー(シオライ) [ 99/196 ]


チョコレートなんかより何よりも

上辺だけでない自分を見てくれる人が欲しかった。




   バレンタインデー





「やっぱシオンのチョコはすげーな」



どこか棒読みな口調で言ったのは、おそらく今まさに寝ようとしている状態だからだろうか。トロンとした目がシオンを捉え、また目を閉じる。
それを許すシオンではなく、にっこり笑って囁いた。




「マダムキラーには餓鬼のチョコは範疇外なのかな?」

「だからマダムキラーじゃないっての」




餓鬼のチョコ、とシオンが言ったのは包みの山だ。綺麗なラッピングのそれは全て彼に当てられたものだ。
ちなみに、ライナのチョコレートはキファからの一個。


だからといってシオンは優越感を感じたりなどしなかったが。



何故なら、キファからのチョコレートには本当の気持ちが込もっているから。



――アスタール君




顔を赤らめて、
『好きです』と


上辺だけの自分に告げる声。





「…で、これ全部俺にくれるの?」

「ああ」

「女の敵」

「お前が言わなきゃバレないよ」



「……でもさ、一口ずつは食えよ」




何で、と口を開きかけるとチョコレートが一欠片放り込まれる。




「表面だけじゃない、中身も好きなやつだっているかもしれないだろ?それに、要らないんだったら初めから受け取らなきゃ良い。で、腹黒なシオンさまを植え付けろよ」



どうしてお前には俺の悩みがわかるのかな。


口にしたチョコレートは、ほんの少し苦かった。






本当の俺を理解してくれて
隣にいてくれて
損得抜きに仲間だという



上辺だけでない、本当の自分を見てくれる人




「……お前か」

「?」

「なあ、これお前からのチョコってことでいいよな?」




食わせてくれたんだから、と続ければ盛大に顔をしかめられた。



「馬鹿か」

「一ヶ月後を楽しみにしておくように」



とりあえずライバルはキファか、と心中で呟いた。



‐end‐

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