版権 | ナノ
七夕(シオライ) [ 97/196 ]
その日は
あいにくの曇り空で、空はどんよりとした雲に覆われていた。
職務に追われながらもその手を止め、シオンは空を見あげた。
「フィオル、曇りだ」
「本当ですね」
「残念だな」
「ホント。王様が休んでくれればすぐ晴れると思いますが?」
「雨が降るのがオチだよ」
その日が
七夕だなんて忘れてた
「今日は城でも笹が飾ってありますよ?」
「時間がないよ」
「書くくらいならありますよ? あとで持っていきますから」
「だが……」
「王様だって願い事くらいしてもいいんですよ」
願い事
確かに在ったような気がするのだけれど
「……そうだな」
*****
「ライナ。願いはあるか」
いつものように無表情な相棒がそう言うと、ライナは気怠そうに口を開いた。
「願い?…そりゃ、昼寝――じゃないですごめんなさい」
「ん。無論私の願いは世界中のだんごを制覇することだ」
「……そうか」
「どうした?」
「いや、俺には願いなんて…」
夢も、何もないのだと気づかされて
ひどくもの悲しい気分に陥る
「お前とて、人並みに願いくらい在るだろう?」
「さあな…」
「まあいい。気が向いたら書いておけ」
渡された短冊を見て、ライナは微笑みを浮かべた。
願い事
一つだけ、在った。
「……我が儘だよな」
わかってはいたけれど
願うだけならいいのではないか
想うだけなら
「「アイツと居られたら」」
あとは、何もいらない
そう呟いたらそれに答えるかのように空が明るみだした
end
[*prev] [next#]
TOPへ