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戻れない(シオライ) [ 86/196 ]



 どこで道を間違えたのだろう。もう、あのときには戻れない。



「――ン」



 あの声が、自分を呼ぶことはない。



「―オン」



 あの眼が自分を見ることもない。



「シオン!!」










 目が覚めるとそこは懐かしいベッドの上。

 ローランド帝国王立軍事特殊学院。ここはそれだった。



「………ライナ?」



 ベッドから起きあがると椅子に腰掛けているライナが目に入る。


「お前、風邪引いたんだって? 今、うなされてたぞ」


 ライナが楽しそうに聞く。



「ああ、ちょっと嫌な夢見て、な」




 夢の内容は覚えていない。ただ、ライナを見るとひどく安堵する。



「まあいいや。早く治せよ」



 ライナが立ち上がりかけたのを、とめた。



「何だよ? ママー恋しいよー、とか?」




 からかうライナ。でも、シオンは何も言えなかった。


「お前、本当にライナか?」










 ぐるりと世界がゆれた。










「シオン、どうしたんだ?」


 心配そうに自分を見下ろすクラウ。場所は執務室。


 ああ、今のは全て夢だったのか。



「なんでもない」








 何でもないようなことが幸せだった。

 ライナの眠そうな欠伸とか、ふとした瞬間に見せるぞっとするほど綺麗な顔とか。


 笑って、怒られて、笑いあって。




 もう、戻るとのできない過去。





 ならば






 また、未来を作ればいい。








「今行くぞ、ライナ」








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