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ひとまず、手を繋いで歩こうか(水火) [ 18/196 ]



ひょんなことから、先輩と付き合うことになった。

先輩、というのはバスケ部の先輩で、同じ性別の、つまり男子生徒。
ひょんなことから、というのは自分がうっかり気持ちを漏らしてしまったことから、ということ。
そう、本当にうっかりと。自然に口から漏れてしまったのだった。

しまったと口元を手で押さえ、顔を真っ赤にしている自分に、水戸部は頷いた。
その意味を汲み取れず首を傾げていると短く自分も好きだと告げられた。


それから、1ヶ月――











「で、黒子のヤツが――」


クラスであったことを話しながら、並んで歩く。
今日はどこかに寄りたいとどちらも言い出さないから、いつもの分かれ道で別れることになるだろう。
一応『お付き合い』というヤツをしているのだけれど、どうにも進展しない。
別に進展しなくちゃいけないと焦っている訳でもないのだが、何もないという状況は少しだけ不安に似た感情を生む。


キスくらい、したい。


水戸部がどう思っているのか、知りたい。
もしかしたら、水戸部は優しいから、本当は好きじゃないけれど自分を受け入れてくれたのかもしれない。
そういえばデートらしきものもしたことがない。

いよいよ不安になって水戸部の顔を見る。いつも通りの表情。だけど、不安は変わらない。
こんな、ぐずぐずしているのは自分らしくない。こんな、怖がっているのは自分らしくない。
黙り込んだ火神を心配そうに水戸部が見ていた。


「センパイ」
「?」
「俺――」


ああ、ダメだ。恐ろしくて涙が滲みそうになる。
男が泣くなんて気持ち悪いだろう。必死に堪えようとするけれど、ツンと鼻が痛くなる。

アスファルトの地面が濡れた。
涙が零れたのだろうか。けれどまだギリギリのところで堪えているつもりだったのだが。
また、濡れる。今度は水戸部の足元が。
驚いて涙なんて引っ込んだ。水戸部の顔を見たが、泣いているようには見えない。

頭上に冷たい何かが触れる。
と、ザァアアアアと音を立てて「それ」が降ってきた。
雨だ。それも、急すぎる土砂降り。
どこか屋根のあるところへ行くべきだろう。と、火神が辺りを見回す前に、手を強く掴まれた。

「センパイ?」

「こっちだ」と言うように水戸部が歩き出す。火神がついてくることを確認すると少しずつペースを上げていく。
土砂降りの中を走るのは思った以上に苦しい。溺れているような錯覚をしながら、火神は水戸部の後に続く。
手を繋ぐのは初めてだ。心臓の鼓動が五月蝿いのは雨の中走っているせいだけじゃなかった。




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