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イヴの再会(茂九) [ 44/196 ]




いつも、サンタクロースに願っていたことがある。

男に生まれたかったとか、本当は女の子らしくなりたいとか、対極にあるようなこと。



でも本当は……










――クリスマスイヴ。


浮足立つ恋人達を眺めながら、柳生九兵衛は妙に渡された買い物メモに目を落とした。


『夕飯は腕によりをかけて作らせるからね』


そう微笑んだ妙は今でも九兵衛の憧れの人だった。

うっとりとするような笑顔も、どこか男らしい言動も、時折女の子なんだと思い出させる弱い一面を見せることも。


きっと自分が男だったり、彼女が男だったならば、今度こそ本当に恋していた。そう思えるくらい魅力的な人間だった。
少なくとも今の自分は彼女が大好きで、それが恋だろうと恋でなかろうとどうでもよかった。



(さて、あとはケーキを…――ん?)


ケーキを予約してある店に行こうと道を曲がりかけた時、視界の外れにどこかで見たような何かが目に入る。





「……上様?」





まさか、と思った。

こんなところに将軍が護衛も付けずに一人でいるなんて。そんなこと誰が許すだろうか。



しかし九兵衛の声にしっかりと目の前の男――徳川茂茂は反応を示したのだった。




















「いるみねーしょんというやつが見たくてな」


表情の変化はあまり見せずに、それでもわくわくしたように、彼が言う。
一人で居れば危険だ。そう言うけれど聞き入れる様子もない。

この男には将軍としての自覚がないのだろうか。


「囚われの姫、というのもつまらないだろ?」

悪戯っぽく笑った茂茂は光の渦に目を向ける。九兵衛もそれに倣う。
それらは空から星が零れ落ちたような輝きを見せ、辺りの雰囲気をいつもと違ったものにしている。



「綺麗、だ」



ぽかんと開いた口からはそんな言葉しか生まれなかった。
妙にも見せたいなんて思ったけれど、彼女は夜を生きる女性だからこんなもの見慣れているかもしれない。



「待っているだけでは何も変わらない。だから、人は行動するのだ」


「……上様?」


「また、遊ぼう」



茂茂の手が、九兵衛の髪に触れる。そっと撫でるその手を振り払うことはどうしてかできなかった。



(『また』)


その『また』がいつ訪れるのかはわからないが、きっとその時も茂茂は護衛もつけずに1人でふらりと現れるのだろう。













本当は、サンタクロースに頼むようなことではないとわかっていた。

自分で変わることなのだ、と。


行動するのだ。行動しなければ、何も変わらない。
でも何をすればいい?



(ケーキ、取りに行こう)


九兵衛はゆっくりと歩き出した。


歩きながら、ふと思う。

自分が男なら、茂茂の護衛ができるかもしれない。
けれど女のままでも不可能ではないだろう。


だから、そう、次に会った時にも彼が1人だったら――



‐END‐

1年前に書いた話だったりしますが加筆修正してUPすることに。
茂九は萌えます。


2008.11.10

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