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金木犀(ガッシュ・サン清) [ 154/196 ]


それはどこかで嗅いだことのある
優しい香りだった





サンビームさんと会った。
雨が降っていて、俺は傘を忘れたから走っていた。髪が濡れ、シャツが肌にはりついて気持ち悪い。それから、寒い。

ガチガチと歯を鳴らして、一刻も早く帰ろうとしていた。そんな時、サンビームさんが現れたのだ。
彼は驚いた顔をしておれを傘に招き入れた。



「……大丈夫か?」



心配そうに俺の顔を見る。
同じ傘の中にいて、いつもより近くにサンビームさんを感じる。呼吸が聞こえる。心音が聞こえる。雨の音がそれを消していく。静かに、激しく、雨が傘を打ちつける。

「…はい」
「それはよかった」


突然
香る
甘い、優しい匂い

「…サンビームさんからいい匂いがする」
「ん?」

懐かしい、どこかで嗅いだことのある匂い。柔らかな匂い。
サンビームさんは首を傾げて、それから「ああ」と自分の服に鼻を近づけた。


「キンモクセイだ」
「キンモクセイ?」
「いい匂いだろう?…リラックスできるらしいから、花びらを集めていたんだ」

言って、サンビームさんは小さな袋を手にして、俺の鼻に近づける。
さっきより強い香りが現れる。


「君に、あげようと思ってね」



だから、俺の帰り道で待っていたのだという。
優しさが、胸の奥にジンと染み渡る。





「サンビームさん」
「ん?」
「ありがと」



金木犀の匂いが、二人を包み込んでいた。





─end─



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