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十人十色の告白模様(ルークラ、学園物) [ 111/196 ]




好きじゃない。

たとえばアイツは絶対に腹黒い。
どうも利用されているというか、いいように操られているような気がしてくる。事実、そうなのだろう。気に入らない。
何を考えているのかわからない。けれど他の人間よりはアイツのことをわかっていると思う。腐れ縁ともいうべきか、付き合いだけは無駄に長い。
そもそも気に入らない相手だからこそわかってしまうということもあるのだろう。上辺だけに惑わされることもない。本当はただニコニコしてるだけのヤツじゃないと知っている。笑顔の裏に何かがあることを知っている。それが何なのかがよくわからないだけのことだ。



けど、嫌いじゃない。

面倒見が良いのは本当だし、一緒にいて嫌なことしかないということもない。楽しい時はあるし、この関係は楽といえば楽だ。
周囲の人間に対して微笑むことで壁を作っているようなアイツに、その「特別扱い」をされないことはどこか心地良くも思えた。



けど、好きじゃない。

好きという言葉は確かな愛しさと共に使われるもので、こんな風に嫌いと紙一重なものではないのだ。
それに、夏休みのほんの1ヶ月半の間に1度でも会いたいと思うような存在じゃない。
会わなければそれでいいし、会ってしまえばそれでいい。ただ特別会いたいと思ったり、避けたりしない。それだけだ。



そう思っていた。




   「好きじゃないけど嫌いじゃないけど好きじゃない」





夏休みももう残り半分になった頃。蝉の声に耳を傾けながら、クラウは腐れ縁のクラスメイトのことを思い出していた。
例年、春休みや冬休みもそうだが、ルークと会う約束をしたことはない。だが、偶然会うことは多かった。
こうして道を歩いていると向こうから歩いてくる、なんてこともあった。友人と行った海にいた、なんてことも。

しかし今年は……そういったことがない。

それが自然なのであって、別に会いたいということもない。会いたい訳ではないけれど、いつもと違うことがなんとなく……そう、なんとなく、調子が狂うような気がした。

たとえば、時々通る道に煙草の販売機があったとする。それが久しぶりに通ってみたらなくなっていたような、そんな違和感。


……ただの言い訳にしか聞こえない。


そう、こんな風にぐずぐず考えているけれど、それはただの言い訳だった。
本当は単純な一言で足りる。
『声が聞きたい』、だ。






「……よう、生きてるか?」


そんな喧嘩を売っているような言葉に、携帯電話からノイズの混じった声が答える。


『この通り、生きてますけど?』

「……いや、全然見かけないから、死んだのかと思ってだな…」


クスリと笑った音が聞こえた。


「……何だよ」

『いえ、じゃあ今度一緒に遊園地でも行きましょうか。タダ券貰ったんです』

「男2人でか?」

『あなたの好きなジェットコースターもありますよ』

「行く」

『本当に好きですね』


笑いながら言うルークが、クラウはなんとなく面白くない。

本当に……好き?
まさか。お前のことなんて好きじゃない。けど、嫌いじゃない。けど、好きじゃない。
「好きでも嫌いでもない」


そう、そういうことでいいんだ。






   * * *




『じゃあ明日。8時に駅、な』

「……こちらの予定くらい聞いてくれません?」

『どうせ暇だろ』

「まあ、そうですけど」


本当は明日は同窓会があるのだが、まあいいだろう。キャンセルすれば済むことだ。
つくづく、自分はこの幼なじみ(と呼ぶべきか少々悩む)には甘い。

それにしても、クラウの方から電話してくるとは……珍しい。


今年は思いの外忙しかったため、偶然を装ってクラウと鉢合わせする、なんてこともできなかった。
無理すればできないこともなかったが、こちらが頑張ったところでクラウは気付かないのだ。それが何だか悔しくなって、やめた。


せっかく距離を置いてやろうというのにこの男は……
「好き、だな」

『……?』

「ジェットコースターのことです」





この距離感は、嫌いじゃないが、本当はもっと近ければ良いと思っているのだ。






‐END‐


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