ダメダメ戦隊 | ナノ
第21話 好き嫌いはやめましょう
それまで担当の英語教師は若い女性で、既婚者とはいえクラスの男子の癒しだった。それが産休に入ってしまったため、男子生徒たちはつまらなそうにため息を吐く。代理でやってきたのが若いイケメンで、女子生徒たちが喜んでいるのも原因の1つだっただろう。
しかし自分たちは高校3年生で。受験生で。たかがそのくらいのことで勉強をないがしろにするのは馬鹿のすることだ。
ざわざわとしている教室内を見回して、相原橙悟はため息を吐いた。
そもそも、授業中に話すってどうなのだろうか。福島さんならそんなことは絶対しないだろうに。
榊玄也の方を見れば、黙ってこそいたが、すやすやと眠りについているところだった。これでは後で幼馴染みに怒られるだろうなあと思ったが、まあ、自分には関係ないことだし、静かな方がいいので放っておく。
そもそもこいつに行ける大学はあるのだろうか。金子が意地でも合格させるだろうけれど。
好き嫌いはやめましょう
「榊君、放課後補習だからね」
「は? 何でですか」
「俺の授業で寝るなんていい度胸だな、ってこと」
「思わず教師を見る。と、その男の顔が、どこかで見たことのあるものだと気付く。そうだ、昨夜会ったあの野郎に違いない。男が玄也に気付いているのかどうかまではわからなかったが、それでも関わりたくはなかった。なんとしてでもこのイベントを避けなければな……」
「はいはいストップ」
放っておくといつまでも続けそうだった山口灰那に、浜谷紫杏がハリセンを振りおろす。
「あんたそろそろ身近な人で妄想する癖どうにかしなさいよ」
「そんなこと言ったって妄想は勝手に湧いてくるものだし……」
「せめて口に出さないようにしなさい」
「えー」
二人がそんなことを言い合っている中、昼食。
屋上で食べる弁当はそれなりに楽しいと思う。こんなやつらと食べているからではなくて、空が近いから。
「玄也、お前授業中寝てたのか?」
「ね、寝てねーって」
「榊なら寝てたよ」
「相原!?」
「そうか、玄也。昼休みはなしだ。英語やるぞ」
「横暴だ!!」
などと、予想通りの展開。
「あ、金子」
「何だ」
「僕もちょっと英語で聞きたいことがあるんだけど」
「? めずらしーな。相原いつも先生に質問してたのに」
妙に勘の良い玄也に首を傾げられて、思わず舌打ちする。
「堂仏だっけ? あれ、なんか胡散臭いんだよね」
「あー、だから授業中も問題集やってたのか」
「……榊って妙なとこ見てるよね」
男らしさも身長も、橙悟の欲しいものを持っていながら、性格は橙悟の一番嫌いなタイプだった。軽い。それはもう、風船のように、軽い。
そんな教師に質問などしにいく気にもなれず、というか授業を聞くのもあまり楽しくなかった。適当に板書をノートに写し、持っていた問題集を開いていたのもそのためだ。一般入試を考えている生徒たちにはそういう者も多く、橙悟だけというわけではなかったが、あまり他の授業ではしてこなかったことだった。
「相原って結構好き嫌い多いよなー」
お前も嫌いな部類に入るけど、とは口にせず。
とりあえず次からあの堂仏 狼(ろう)というふざけた教師の授業の時はどうやって過ごそうかと悩む橙悟だった。
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