ダメダメ戦隊 | ナノ
第22話 お友達の名前はちゃんと覚えましょう
この国の人間は学校というものに通っているらしい。全ての人間に等しい教育を受けさせようとする発想にまず驚く。自分たちのところでは考えられなかったことだったから。力のないものはそれだけで知識を手に入れることはできなかった。自分は、幸運だっただけで。そうでない人間なんて山といた。
だから、こうして学生服というものを身につけて、教室というところで大人しく教師とやらの言うことを頭に入れていることが、不思議だった。ここに来る前の自分には考えられなかったことだった。知識を惜しみなく与えられているという事実はどうしようもなく嬉しい。
くだらない知識ばかりではあった。それでも、勉強するという行為を愛している自分には素晴らしい知識であった。そうして黙々とノートという紙の束に書き記していく。
周囲はそうではないという事実が、とても不思議だった。どうしてこの国の人間たちは与えられる知識に喜ばないのだろうか。
「生まれてからずっと恵まれ続けているのだから仕方がないんですよ」
そう言って笑った『猫』を思い出す。それは自分には上手く想像できないことだった。
こうしてすんなりとクラスに溶け込んでいるとよくわからなくなる。自分の目的も。本来の自分も。何もかも。
「よし、今日はこれで解散な」
「先生ばいばーい」
クラスメイトたちがざわざわしながら教室を後にする。彼はそれを眺めながら帰り仕度はしたが、それが終わっても立ち上がらなかった。
お友達の名前はちゃんと覚えましょう
教室の窓から美しい夕日が見える。
それがここに来て素直に良かったと思えることだった。
拓巳がこの学校に入り込んで一週間が過ぎていた。クラスメイトたちは拓巳を『最初からいたもの』として認識している。
転校生として入り込んでも良かったのだが、妙に注目されてしまうのが嫌で、こうした。空気のように、触れられずに生きていられればそれが楽だったから。
教室はすっかり静かになった。クラスメイトたちは皆部活に行ってしまったし、そうでない者は帰宅してしまった。
教室内には彼、拓巳と、もう一人。机に突っ伏して眠る、隣の席の男子生徒。
「起きろよ」
小さく呟くが、起きる気配はない。
隣の席に座っているとはいえ、挨拶以上の会話を交わしたことはない。むしろ、挨拶すら交わしていないかもしれない。隣人の彼は授業中ほとんど眠っているのだから仕方のないことかもしれない。
拓巳が隣人を起こそうとしたのはほんの気まぐれで、いつもなら置いて帰っていた。
それが間違いだったのか、正解だったのかは、わからない。
ただ、その瞬間が大きく、拓巳の運命を変えたのは確かだった。
「ん……――お前、誰?」
眠そうに目を擦りながら彼が、こちらを『認識しなかった』ことに、堂仏拓巳は焦りを隠せなかったのだ。
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