ダメダメ戦隊 | ナノ 第16話 悪役の復讐-3-



無言のままマンションのエレベーターに乗る。隣だから、無言だろうとなんだろうと一緒に居ざるを得ない。
玄也が口を閉ざしている限り、士郎には何も言うことができない。そう、思った。

ただ、1つを除いて。


「玄也」


鍵穴に鍵をねじ込む玄也に声をかける。


「…………」

「俺はお前を迷惑だなんて思わない。それに、お前はやればできる。わからないことがあったらすぐ聞け」

「…………うん」



それから、お前が離れていったら寂しいと思う。
……これは口には出さずにおく。


玄也が部屋に戻ったのを確認すると、士郎は玄也の部屋にくるりと背を向けた。
自室には戻らず、そのままエレベーターに戻る。


1つ、今日中に片付けておきたいことがあった。





   ***




『君さ、頭悪いくせに金子に迷惑かけてんじゃないよ』

『…………』

『金子は君に合わせて大学のレベル落とす気みたいだけど、もっと上が狙えるんだよ?それなのに君みたいな馬鹿のために自分の勉強時間削って……』

『…………』

『ちょっとぉ、聞いてるの?』

 




  ***




「金子!」


家の前で待っていると、目的の人物は10分ほどで現れた。士郎の姿を確認すると驚きと喜びの入り混じった目をしてこちらに近付いてくる。

「どうしたの?僕に何か用?」


期待混じりの視線が士郎を捉える。
その声を聞いて確信する。やはりこの男で間違いない。

この男は――トイレで玄也に嫌味を言っていた塾生で、士郎のクラスメイトだった。
そもそもこの男、士郎の何が気に入ったのか教室にいるとしょっちゅう話し掛けてくるのが常だった。
玄也がいない時はやたらと士郎の隣にいたが、玄也がいる時は近付いてもこなかった。
うっとうしいとは思っていたが、害はないと思い放っておいたのだが――どうやら士郎の目に届かないところで、玄也に嫌味を言っていたらしい。



士郎が玄也を構うことは好きでしていることだ。大学を玄也に合わせようと考えたのは玄也と一緒にいたかったからだし、別に上を目指す気なんてなかったからだ。
お前に俺の何がわかる、とは口にしない。わかってもらいたいとも思わない。

ただ――



「玄也にいらん事吹き込んでじゃねぇよ」


玄也を変えてしまうのは、ダメだ。玄也に成長してほしいと思わないわけではない。けれど、成長すれば玄也は離れていく。そうすれば自分だけが取り残される。

玄也が変わるのは怖い。手放しでは喜べない。


普段と明らかに様子の違う士郎に、男は怯えたように体を震わせる。


「か、金子……僕は金子のためを思って――」

「俺のため?」


玄也が隣にいないことが自身の幸福に繋がると他人が言うなら、そんな幸福クソくらえだ。


「――ならお返しにお前のためになることを忠告する。二度と俺達の前に現れるな」




   ***





『………………だからっ』

『ん?』

『だから、もう、自分でやるって決めたんだよ!!』





そう玄也が叫んだから、自分ができることなんて何もないことに気付いた。
自分ができることなんてせいぜい復讐代行と言い訳してのやつあたりくらいで。ただ玄也がいなくなることに怯えているのだ。
玄也は成長していく。士郎を置いて。
ただ士郎だけが幼い頃のまま、玄也を追い掛ける。


どうしたら、玄也は自分から離れて行かないだろう。


悩んで悩んで、答えの出ないまま夜が明けた。






翌日――


「しろー、やっぱ1人じゃ無理だ!!」

「…………3日坊主になるくらいは頑張れ。まだ1日も経ってないだろ」


呆れながらも嬉しいと思ったのは、秘密ということで。



‐END‐






『玄也にいらん事吹き込んでじゃねぇよ』は緋呂ちゃんに考えてもらいました。

その前に考えていた台詞とラストはあくまで士郎がオカンだったのですが、
この台詞をもらったら急に士郎の玄也依存症が酷くなりました。


そんなわけでラストも変わり、こんな感じに。緋呂ちゃんご協力感謝です。

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