ダメダメ戦隊 | ナノ
第16話 悪役の復讐-2-
士郎と玄也が塾に通っているのは、2人が高校3年生――つまり受験生だからだ。
といっても士郎の学力と目標校を考えると塾に通う必要はあまりない。それに誰かに教わるよりも自分で参考書などを見る方が士郎には合っていた。
ならば何故一緒に通うのかといえば、玄也の母に頼まれたからに他ならない。
『ごめんね、士郎君。玄也がちゃんと塾に行くよう見張ってやってくれない?』
もちろん、彼女の言葉に『一緒の塾に行ってほしい』なんてことは含まれていなかった。ただサボりそうになったら止めてほしいというくらいの言葉だ。
だからこれは士郎の独断である。
ちなみに塾で授業を受けた後は、すぐに家で復習することにしている。
玄也は少し馬鹿なところもあるが、悲劇的なまでに勉強する力がないわけではない。ただ部活に勤しみすぎて高校で習ったことをあまり覚えていなかったりすることが多いが……世間一般の高校生の平均値をたたき出すくらいの学力は持っている。
ただ、2人の通う高校は平均より少し上に位置するから、校内での彼は少しだけ平均に届かないだけだ。
士郎はぼんやりと、このまま同じ大学に行くんだろうと考える。合格させてみせるつもりだ。玄也の面倒を見きれるのなんて自分くらいだから。
ああ、きっと依存しているのだなと思いながら今日も同い年の我が子の面倒を見る。
「しろー、わかんない」
授業中に聞いてきたので、講師の説明を無視して玄也に授業する。
最初のうちこそ怒られた。しかし玄也は自分が教えても理解を示そうとしないこと、士郎は自分が教える必要もないくらいちゃんと理解してることに気付き、今では見なかったことにして授業を続けるようになった講師である。
「おお、なるほどー」
やがて理解したらしい玄也が嬉しそうに笑う。それを見て、士郎も微笑んだ。
しかし、玄也は何かを思い出したように笑顔を凍らせ、それからめったに見せない真剣な目で士郎を見た。
「士郎」
「どうした?」
心配になり、玄也の目を見る。
「俺、大丈夫だから、士郎は自分の勉強してろよ」
……いつ親離れなんて覚えたんだ?
少し、寂しくなった。
授業が終わり、いつものように2人で帰ることにする。
さっきあんなことを言った玄也は、普段とどこか違うそわそわした態度だった。
「ちょっとトイレ行ってくる」
そして塾にある男子トイレに逃げ込むように入っていってしまった。……さすがに追い掛けるのはしつこいからやめておいた方がいいだろう。
仕方なくぼんやりと廊下で待つことにする。そのうち数人の人間が出てきて、また数人の人間が入っていく。
やがて、中から玄也の声が聞こえてきた。
……何を話してるんだ?
しばらくすると、トイレから玄也が出てきた。
士郎は泣きそうに歪んだ顔を見て見ぬフリをしてやると、「行くぞ」と声をかけた。
「士郎」
「何だ」
「俺、今日から自分で頑張る」
「…………」
「士郎に頼るのやめる」
「…………」
「だから…今日も『復習』いいからさ……お前は帰って自分のことしろよ」
それっきり、玄也は口を開かなかった。
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