ダメダメ戦隊 | ナノ 第14話 悪役の秘密-2-




「『ム、ムリに決まっるだろ!』『じゃあこのまま、な』『う…』士郎の言う通り、指をそこに近づけていく自分に玄也は死にたいと思っ――」

「って何してるのよアンタ!!」


――スパーン


浜谷紫杏のハリセンが、山口灰那を打つ。


「何よ、紫杏。良いトコロだったのにー」
「『良いトコロだったのにー』じゃなぁあああああああああい!!!」


ここは灰那の部屋。女の子らしいぬいぐるみやインテリアなんてものは存在しない。その代わり本棚がそびえ立っている。
本棚の中には、ピンク色な本がぎっしりと詰まっていることを紫杏は知っていた。知っていたが、理解したら負けだと思っていた。

そう、山口灰那は腐女子である。
まあ紫杏とて腐女子全てを敵に回すつもりはない。けれど、けれどだ。いくら紫杏だって知り合いをそんな破廉恥な小説のネタにされて黙っていられるほど無関心じゃない。妄想は個人の自由かもしれないけれど、聞かされた紫杏はたまったものじゃない。


「だいたい灰那が『買い物に行きたい』っていうから迎えに来たのに何してんのよアンタは!」
「私ね、妄想はすぐ形にすると決めてるの。ポリシーなの」
「そんなポリシーすぐ捨てて!!」

紫杏は灰那を無理やりパソコンから引きはがし、なんとかして買い物に行くことにした。




   ※※※



「……さて、ここで、浜谷紫杏より読者の皆様へ大切なお知らせです。
 先ほどまでの破廉恥な文章は全て山口灰那の妄想であり、創作であり、したがって実在する人物――榊玄也と金子士郎の2人とは一切関係ありません。
 今後、2人が出てきてもそういう目では見ないであげて下さい」

「紫杏、誰かいるの?」

「ちょとフォローをね……」

「ふーん、あ、降りるわよ」

「はいはい…」


電車が止まる。ホームへ降りようとする灰那の後に続き、電車から降りる。
人が多い。まあ、東京まで来たんだから当然か。
そういえばここは東京のどこなんだろう。嫌な予感がしつつも顔を上げる。

『秋葉原』

…………帰ろうかな。


「メイドカフェ行くわよ」

「ヤダ」

「じゃあ紫杏が私の専属メイドに……」

「ならないわよ」


それでもこうして付き合ってあげる私ってなんて友達思いなんだろう。そう思いながら、紫杏はフラフラと歩いて行く灰那の後について行く。
どうやら何度か来たことがあるらしく、あまり迷ったりしない。そんな彼女を眺めながら、そっと周囲の人間に視線を移す。

アキバ系、なんてよく言われるような格好をした人はそんなにいなかった。むしろかっこいい人とかもいるし…
こんなイケメンがなんでアニ●イトに行くんだろうなんて思ってじっと見つめていると気付かれそうになったので慌てて前を向く。
いつの間にか灰那は数メートル先を歩いていて、慌てて小走りになろうとして、
――ぶつかった



何に?
それはもう、人に、に決まっている。

社会人だろう相手は、完璧にスーツを着こなしている。嫌みっぽくなくて、かっこいい。
長身で、少し長めの髪は1つに結わかれている。軟派な印象はなく、むしろ硬派な印象を抱かせる。冷たい瞳で見つめられ、心臓が跳ねる。

「あ、あ……ごめんなさいっ!」

怒られる、と目を閉じる。
けれど、彼は怒鳴りもせず、優しく紫杏の頭を撫でた。

「ごめん、よそ見してた。怪我はない?」「……はい」
「そうか、よかった。ごめんね」

彼は微笑むと、駅の方へ歩き出した。

……かっこよかった。

桃色の髪がちりりと目に焼き付いて離れない。

これって恋?


高鳴る心臓。へなへなと座り込みたくなったところを、ようやく紫杏がいないことに気がついた灰那が引き返してくる。


その後、心ここにあらず、な紫杏をここぞとばかりにメイドカフェに連れて行く灰那がいたという。









おまけ


その晩、灰那のホームページにこんなコメントが寄せられたという。

『こんばんは。いつも更新ペースの早さに驚かされます。本日UPされた士郎×玄也小説ですが素敵過ぎてにやけが止まりませんでした!橙悟君の黒さがすごく好みで、今度は是非灰かぶり様の書かれる士郎×玄也前提橙悟×玄也が読みたいです』



「あ、いいわねこれ」
「…………だからどうして身近な人ばっかりターゲットにするのよ…」


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