ダメダメ戦隊 | ナノ 第12話 悪役の決意






そういえば自分は受験生だったわけで。なので、その近さから第一志望の候補としていた大学を見学しようと思いついた。
何を唐突に、と思うだろうが、まあこれが相原橙悟が大学見学を決めた理由だった。

そのことを友人(という言葉で表すのはあまり好ましくないが、他に良い表現が思い浮かばなかったので仕方なくこう表してみた)の榊玄也に告げれば、よく分からない答えが返ってきた。


「わかった……だがくれぐれも無茶はするなよ」
「何が」

どうしてこんなやつに説明しなければならないのかというと、普段放課後はアンチ5人で集まっているからで。大学見学はその放課後に行く予定だからである。
アンチというのは……説明する気も起きない、まあ馬鹿馬鹿しい集団のことである。


「何かあったらすぐ駆けつけるからな!」
「だから何が」

この男に日本語が通じないのはいつものことだったので後はお守役(金子士郎)に任せることにした。



   悪役の決意



「大学見学?」
「そ、浜谷は行かないわけ?」
「そっか、たしかにいいかげん行かないとね。相原君はK大だっけ。近くていいね」
「まあまだ決めてないけどね」
「大学かあ……今度灰那誘って行くかなー」

浜谷紫杏は仲間たちの中で一番の常識人だと、橙悟は理解していた。
その親友である山口灰那の方はというと……あまり相性の良い方ではないだろうと思っている。まあ嫌いではないが敵にはしたくないしすごく仲良くしたいとかそんなことも思わない。

「でも平日の何でもない日にできるものなの?」
「ああ、電話したら図書館とか案内してくれるって」
「へー」

彼女は自分が見学するわけではないのに楽しそうにしている。
が、急に暗くなると、


「でも……相原君がいないと、…………常識人が減るのよね」
「…………ごめん」


とりあえず、彼女の平和な放課後を願っておいた。



   ***



ということで、K大学。
案内といってもそれほど長い時間を拘束されるものではなく、後は勝手に見ていいよ、なんてあっさり解放されてしまったわけで。仕方なく周囲を見回してみる。

やはり高校とは違うな、なんて思いながら歩いていると道行く大学生たちが自分を見ていることに気づく。
……ああ、学校帰りに来たから制服のままだったな。


「可愛いー中学生かな?」


すれ違った女子生徒が呟く。
その声に、反応した。

誰が中学生だって? 口にしたかった言葉はもちろん飲み込んで、にこりと笑いかける。
女子生徒は「可愛い」と黄色い悲鳴を上げた。


……思ったよりも子供の多い大学だな、なんて考える。
近いだけで選んだのだがそれは失敗だったらしい。年相応な人間なら我慢できるが自分よりも明らかに精神年齢の低い人間がはびこっているのであればそれはとても疲れる。

第一志望は別の大学に変えようかな、と思いながら歩いていると、ベンチに一人の青年が座っているのが目に入った。


長い髪をひとつに束ね、視線は手元の本に。
男の自分が見てもかっこいいと思える、整った顔立ち。
何の本を読んでいるんだろう。そう思った時、友人らしき青年が、彼に話しかけた。


「よ、福島」
「何」
「いや、その……英語のノート見せてください」
「いいけど」

青年は特に嫌がる様子もなくノートを渡す。

「サンキュ。やっぱお前にノート借りると出来るような気がするんだわ」
「気のせいだろ」
「だってさーお前T大にも受かるだろうって言われてたのに『近いから』って理由でうち受けたんだろ」
「……どこで聞いた」

ああ、この人も失敗した口か、なんて思う。やっぱり近いからってだけでこんなところを受けるものではない。もうちょっとレベルに合ったところを受けるべきなんだなあ。
それにしてもT大からここって……レベル落としすぎじゃないか?

そんなことを考えていると青年の友人がこちらに気づいたらしく、「中学生かな?」というあの嫌な言葉を口にした。他人にノートを頼るような人には言われたくない言葉。


「高校生だろ」


青年の声が鼓膜を振動させた瞬間、ああ、この人だと思った。
この人のようになりたい。周囲の人間をものともせず、ただ自分を貫けるような、ひょうひょうとすり抜けてしまうような。

この人のようになりたい。


(福島さん、か)


4年生ってわけじゃなさそうだし、ここに入学したら会えるだろうか?
一目惚れにも似た憧れが、橙悟を突き動かそうとしていた。













(W大A判定出したことあるってだけなのに噂に尾ひれがついてる……)

(ま、いっか。説明するのも面倒だし)


こんな面倒くさがりの「福島さん」はそういないが……。
これは自称正義と自称悪は切っても切れない関係であるということの証明、なのだろうか。



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