ダメダメ戦隊 | ナノ
第7話 海は広いな大きいな
青く、青く、どこまでも続く
海、である。
福島蒼は砂浜近くにあるコンクリートでできた階段に腰掛けながら本を読んでいた。
平和だ。
先日の自称悪の戦隊とのわけのわからない戦いが嘘のようである。
もちろんこの平和が長く続かないことを蒼は理解していた。何故なら彼はEコレンジャーのメンバーで海に来ていたからだ。
海は広いな大きいな
風が強く、少し肌寒い。泳ぐには適さない気温だ。
面倒ではあったがそのことは先ほどしっかりと2人に教えておいた。2人というのはもちろん津田紅と藤村太陽である。なんせ彼らは放っておけば真冬の海でさえも躊躇せず飛び込もうとする人間だ。
――実際にそういった状況に遭遇したことはないが、おそらくそうだろう。
まあもう嫌になるくらい説明はしたからやつらが勝手に海に飛び込んで風邪を引こうが肺炎になろうが俺に胸を痛める理由はあるまい。そんなことを思いながらも波打ち際で遊んでいる4人が心配でちらちらと様子を見てしまうあたり自分はなんてお人好しなんだろうか。
いや、本当は彼らがまた面白いことをしないかと気にしているだけなのだが。
「行ったぞ、藤村!」
紅が叫ぶ。どうやらさっそく何かを始めていたらしい。
「おう!」
答えながら太陽は走る速度を上げる。よく砂浜でそんなに速く走れるものだ。
ちなみに綾小路碧と草島桃介は仲良く――といえば烈火の如く怒りだすのだろうけれど――パラソルの下である。
「日焼けはお肌の敵」なんて声を揃えて言っていた。
そんなわけで『それ』を追うのは紅と太陽の2人だけだった。
『それ』は青灰色な翼を広げ、優雅に飛んでいる。つまり、まあ、カモメである。
どうして、とかそんなことを彼らに聞いたところでまともな答えが返ってこないのは明白である。だからほぼ諦めながら叫んでみる。
「何でかもめ追いかけてるんだ!」
少し間をおいて紅の「水兵さんだからだ!!」という声が聞こえてくる。なるほど、わからない。わからないがそういったところが彼ららしいといえば彼ららしい。
紅はどうやら「カモメは水兵さんだから」保護しようと考えているらしい。しかし蒼は、それが本当に保護する必要のある動物ならお前が気づく前にとっくに保護されているだろうよなんてことは決して言わなかった。なんて友達思いなんだろう俺。
……すこし空しい。
そんなことを考えている間にも2人はがんばってかもめを追いかけ続けている。これって動物虐待にならないんだろうか。
「……まあ頑張れよ」
それが紅たちに対しての言葉なのか、それとも逃げるカモメに対しての言葉なのかは、言っている蒼自身にもよくわからなかった。
※ ※ ※
紅たちの声も聞こえないくらい読書に集中し始めて数十分。
小説があと数ページで終わるのを少し残念そうに確かめている蒼の耳に、ざぷんという水音が聞こえた。
(まさか……)
いやいや、やつらにはしっかりと耳にタコができるどころか言っているこっちの口にもタコができるんじゃないかというくらいくどくどと聞かせたはずだ。当社比だが。
とにかく、いくら彼らが底なしのバカと言っても忘れるなんてそんなことは……
あった
ざぷんという音は紅が海に飛び込んだ音で、その後どぷんという音を立てて太陽も飛び込んだ。
どうやらカモメを追いかけて飛び込んでしまったらしい。何故だ。何故そうなった。
たっぷりと海水を吸った服のまま砂浜へ上がり、再びカモメを追いかける2人を見ながら蒼はため息を吐いた。
あのまま乾いたら塩だらけになるんじゃないだろうな。
風が吹く。やはり肌寒い。あのままでは風邪をひくのではないだろうか。そう思ったが、やはりやつらにそんなことはないだろうと思いなおす。
だって馬鹿は風邪ひかないっていうじゃないか。
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