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火のないところに(血界戦線・ザプレオ)
2020/05/21 02:35


※ザプレオ学パロ的ななにか



   火のないところに




ザップ・レンフロという名前は有名だ。

たとえばすごく強い。喧嘩をして負けたという話はほとんど聞かない。例外があるとすればそれは三学年のラインヘルツやスターフェイズで。前者にはよく喧嘩をふっかけて一瞬でのされ、後者には冷たい笑みを向けられてビビって逃げる。そんな様子を見るからに、本当は弱いんじゃないのなんて噂されなくもないのだけれど。あの人たちはあり得ないくらい強いし、ザップ・レンフロは肩を並べてそこに立つ存在らしい。

それから女好き。校内の美女から他校の生徒。女教師や社会人のお姉さままで。どちらかというと年上が好みなのではなく、後腐れない人間を選んでいるようにも思う。が、修羅場はしょっちゅうである。
特定の誰かを選んで縛られるつもりはないらしく、同時に複数の女性と関係を持ち、何度も修羅場にまでなった。

やればできる子、なんて教師の頭を悩ませる、
天才。
普段の言動はバカすぎるのにテストになれば高得点を叩き出す。勉強のできる猿とはこういう人間のことを言うのだろう。



「SS先輩」

銀色のクソ。シルバーシット。
さすがにこんな風に彼を呼べる後輩は自分くらいなものだろうな、とレオナルド・ウォッチは自負していた。

「何だよ陰毛」

近頃は頭が省略されてただの陰毛呼びになってきた先輩への仕返しに、わざとゆっくり言ってやる。

「三年のエリー先輩が」
「おお」
「ザップさんの」
「なんだよ」
「昨日抱いたっていうミラ先輩と修羅場です」
「は」

フリーズするザップを笑いたくなるのをぐっとこらえて。

「そんでザップ呼んできなさいってさきほど言われました」
「俺はいない」
「そう言うと思ってもう呼んであります」

レオナルドの言葉と共に屋上の扉が勢いよく開く。
向こう側には、犯罪者も裸足で逃げ出しそうな表情をした、女子生徒が二人。

「「ザップ……」」

それを見て裸足で逃げ出したSS先輩は「覚えてろよクソ陰毛!」なんて吐き捨てて。





なんていうか、噂で知るザップさんと、僕が知るザップさんには大きなズレがあるんだよなあ、とレオナルドは思う。
たしかに、人の噂というものは実に当てにならない。ザップと絡むようになったレオナルドの噂の散々なこと。
実は喧嘩がすごく強いだとか(おかげでカツアゲされなくなった)、糸のように細い目を開くと『神々の義眼』というトンデモ厨二病な眼があって他人の視界を支配できるだとか、童貞臭いが百戦錬磨の女好きだとか。
どう考えてもザップのせいだし、カツアゲに遭わなくなった以外は何のメリットもない。風評被害だらけで、そろそろ銀色クソ野郎とは距離を置きたいと思い始めていた。

だいたい自分はただの後輩だし。それ以上でもなければそれ以下に近い気がする。後輩っていうよりパシリだし。焼きそばパン買ってこい、お前のおごりで、なんていうジャイアニズム満載な先輩だ。
陰毛なんて呼ばれるし、便利なパシリとしか認識されてないのだろう。



すごく強いのは、知ってる。だって守られたことがある。
女好きなのも知ってる。現に今だって。あの人はどうしようもないクズだって。知っている。


「いつか女の人に刺されるんだろうな、クズだし」

ありありと浮かぶ未来を口に出すと、隣から不機嫌な声が聞こえてきた。

「誰がクズだ」
「あ、ザップさん。逃げてたんじゃないんすか」

いつの間にか先ほどまで消えていたザップが隣には居て。

……隣っていうか、近い。

「言っただろ、覚えてろって」

吐息が唇に触れそうなほど、近い。
くすぐったさと圧迫感に離れようとするが、気がつけばもう彼の腕の中にいた。







レオナルドにまつわる噂はもう一つ。
「ザップの本命」である、という噂。

はたしてそれは他の風評被害のように根も葉もない、火のないところにたった煙なのか。
それとも火があったからこそ生まれた噂なのか。

それは今のところ当人たちしか知らない。





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