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煙はたたない(血界戦線・ザプレオ)
2020/05/21 02:38


レオナルド・ウォッチという名前は有名だ。

といっても、彼自身に有名になる要素はほとんどない。くだらないほどにありふれた、平凡な人間である。陰毛みたいな天然パーマと、本当に見えているのか不思議なほど細い目を除けば、彼の個性なんて見えてこない。
では何故彼が有名になってしまったのか。それは隣にいる自分の存在が原因だろう。と、ザップ・レンフロは自覚していた。
そのせいでレオナルドがどちらかというと風評被害ばかり被っていることもきちんと自覚していた。ありもしない適当な噂がひとり歩きしすぎているのだ。それはもう、ザップやレオナルドが聞いたら笑うどころか時が止まりそうなおかしな噂たちが。

自分が隣にいるからだと自覚しているくせに、ザップはレオナルドの隣を離れるつもりはなかった。
それに、まあ、レオナルドもなんだかんだいって隣にいるのだし。


レオナルドにまつわる噂は色々ととんでもない。火のないところに煙はたたないと言うが、火の気がないのに煙どころか火事までおこしたような、そんな残念さである。
たとえば、とてつもなく強いだとか。強さのレベルは様々だ。ザップを越えると噂するものもいれば、ザップの子分にすぎないというやつもいる。ただ通常よりは強いことには間違いないだろう、と。何故か結論づけられている。
おかげでカツアゲが減ったと感謝すべき事態なのに、レオナルドときたらいまだに「ありがとう」の一言もない。

それから、あの目を開くと、『神々の義眼』とかいうトンデモ厨二設定の目が現れる、という噂。これは何度聞いてもひどい。厨二すぎるし。義眼じゃないし。
でもまあ、レオナルドの開眼したところなんてそう見られるものでもない。だからそんなトンデモ設定な噂が流れたのだろう。つまり、これはザップのせいではないはずだ。

あと笑えるのが、女遊び激しいとかいうやつ。あれが一番信憑性が低いはずなのに、何故か一部では真実と思われている。
レオナルドはすごく嫌がるが、ザップはこの噂が一番好きだ。レオナルドが嫌がるのは楽しいし、明らかに真実とは異なるそのでたらめは馬鹿らしいほどに笑える。
そうして本当は童貞である彼をからかい、時折まじる下ネタからか怒りからか、上気した肌を目で楽しむ。


ザップは、思う。
レオナルドにまつわる噂が、その実像から遠く遠く離れていけばいいと。
そうして本物のレオナルドの隣にいるのがザップだけになってしまえばいい。
そんな、彼の噂よりも馬鹿げたことを、時折心の底から思うのだ。


「で、お前妬いたの?」

口元がにやける。
あっさりとザップを女の争いに放り込んだレオナルド。その理由はだいたい想像がつく。
だいたい、そうでなければ困るのだ。なんのためにわざわざレオナルドに女の話をするのか。

「妬くわけないでしょ。あんたも俺も男だし」

「レオナルド」

こういう時はいつものように愛称では呼ばない。

「別に女に妬いたとか、そんなこと言ってねーけど?」

ザップに嫉妬するという選択肢もあって、それこそが普通だとも思うのだが。

ばつが悪そうに視線をそらすレオナルドの顎に手を添えて、視線を合わせてやる。


――お前、まるで俺のこと好きみたいだな



そう告げれば泣きそうなくらいに目を見開いて。そうだ自分は、めったに開かれない彼のこの泣きそうな目が好きだと改めて思う。わずかに濡れた目尻にキスをしながら、ザップはただ少年の答えを待った。





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