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サンタクロースに手紙を(伝勇伝・リーライ)
2020/05/21 02:34

12月24日。クリスマスイヴ。
それが『クリスマスの前日』という意味だというのは隣に住んでるリーレから教えてもらった。
流石、小学1年生のライナよりずっと大人の5年生。
リーレの両親は共働きで、今夜はライナの家におとまりクリスマスとなっている。

リーレのおかげで、今年のライナは色々と準備ができた。枕元には靴下を片方。サンタクロースへの手紙だって用意してある。なのでクリスマスに招待したのはそのお礼みたいなものだ。
ちょうどこちらはリューラが仕事で不在。イルナと二人よりリーレがいた方がいいに決まってる。


そういえばサンタクロースへの手紙はどういうわけかリューラが見たがったので今日まで肌身離さず持っていた。 カンニングして自分も同じような事を書く気なのだろうか。こっそりイルナに告げ口すれば『大人気ないわね』と笑っていた。
母さんはどんな手紙を書いたの、と聞きたかったけどそれでは父さんと同じだなと思ってやめた。



9時にもなればさすがに眠たくなってきてライナは大きなあくびをした。
「そろそろ寝る?」
イルナがライナの眠たげな目をのぞき込む。
「ん」
寝る。
でも、まだ、ひとつ。

「ぎゅーにゅーと、クッキー」
「そうだった」

枕元に牛乳とクッキーを置いておくのだそうだ。これは去年はやらなかったこと。
目を閉じてしまいそうになりながらイルナと共に用意をし、ベッドにダイブ。

「……かあさん」
「なあに?」
「さんたさんくるかな」
「もちろん」

その微笑みに安心して、ゆっくりと目を閉じる。






赤。それから水色。
髪を撫でるなにか。

――君が望むなら、幸せは続くよ

幸せな夢を見たような気がした。








24日と25日。どちらがクリスマスイヴでどちらがクリスマスなのかわからない、と真剣な面持ちでこぼした少年がいた。それからサンタクロースはどっちに来るのかも。
教えてあげると嬉しそうに笑うものだから、聞いていないことまでたくさん教えてしまった。
リーレはしたことがなかったのだけれど、枕元に牛乳とクッキーを置いておくのだとか。手紙を書いたらどうかとか。その1つ1つに真剣に頷いて、驚いて、喜んでくれるのだから。
なんだか自分までサンタクロースを信じる頃に戻ったような気がして。楽しかったのだ。

だから、その子のクリスマスパーティーへ招待されたわけなのだが。

「本当は僕がやりたいんだけどね、どうしても仕事が入ってしまって。本当は僕がやりたいんだけどね」

何故か、リューラからサンタクロース役を押し付けられた。
いや、押し付けられたといっても、本当は彼がやりたくてたまらないことだというのはよくわかる。

「本当は僕が……」

ほら、また。

ライナを大人にしたらこうなるのだろう見た目で、ライナより子供らしく唇をとがらせる。よほど悔しいのだろう。

「私がやってもいいんだけどね。いつもライナと寝るから、一緒じゃないとバレちゃうかなぁ」

楽しそうに笑うのはイルナ。ライナと同じ綺麗な黒髪が笑う度にサラリと揺れる。
そんな二人の愛情を受けてライナは育っているのだなと思うと、なんだかそれだけで嬉しく思えて。

リーレとて両親の愛情を感じていないわけではない。仕事が忙しすぎるだけで、リーレのことを気にかけてくれていることもよくわかっている。
ただ、少し、羨ましいと思えた。

「わかりました」

だから、今夜は彼のサンタクロースになろうと思った。







リーレがすること。
ライナと一緒にクリスマスパーティー。
ライナが眠くなった頃、一度自宅に忘れ物を取りに行くフリをする。その間にサンタクロースの服に着替える。
ライナが眠ったことを確認すると、枕元の靴下に、リューラが用意したプレゼントを入れる。
牛乳を飲んで、クッキーを食べることも忘れない。

それから、もう一つ。

――見せてもらえなかったんだよね

サンタクロースへの手紙を確認。プレゼント内容に齟齬が発生した場合は『今回こちらの品物しかご用意できませんでした』とリューラが書いておいた手紙も付け加える。
頑なに、誰にも見せなかったというその手紙にはどんなことが書かれているのか。

すやすやと寝息を立てて眠るライナと、今なら大丈夫と手を振るイルナ。
プレゼントも、牛乳も、クッキーも難なくクリア。最後にそっと手紙を開く。

それは、リーレの予想とは随分違っていた。


『さんたさんへ。ずっとかぞく3にんでいたい』

いつまでも一緒になんていられないよとか、そういうことじゃなくて。
この両親の愛情はきちんと子どもに届いていて。
この瞬間を何よりも幸せに、何よりも欲していて。


そっと、眠るライナの髪を撫でる。

「君が望むなら、幸せは続くよ」

ああ、起こしてしまってないか。慌ててライナの顔を覗き込む。
たぶん、大丈夫。

イルナがリーレの方を見て、微笑む。

……手紙なんか読まなくても、彼女にはライナの欲しい物がわかっていたのかもしれない。
だから、リーレはリューラの用意した手紙は握りつぶして。明日起きたライナにサンタクロースからの伝言があると教えてやろう。
『プレゼントはサンタクロースが用意しなくてもずっとそこにあるから、別のものを持ってきたんだ』と。





***


「と、いうことが昔ありましたよ」
「ぜんっぜん覚えてない」

12月24日。クリスマスイヴ。
小さかった子どもたちは高校生と大学生に。
いつの間にか家族とは過ごさなくなったクリスマスイヴ。恋人たちの日。
それを、この2人が一緒に過ごすようになるなんて誰が想像できただろう?

家族3人ずっと、なんて無理だけど。だって今となっては家族以外に大事な人ができて。
だけど、ライナにはその頃の自分の気持ちも残っているような気がした。

「別に切り捨てる必要はないんですよ」

リーレがライナの髪を撫でる。
……なんだか懐かしい気持ちになる。



「大事なものが1つ増えただけで、その1つだけを大事にしなきゃいけないわけじゃないんです」

安心したような、本当にそれでいいのか、いつか1つを選ばなきゃならない時が来るのではないのか。

でも、

今はそれでもいいのかもしれない。





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