憂な鬱と君のこと
「あぁ…鬱だ…」
今日も今日とて塾。明日も塾。明後日も塾。塾、塾、塾…
「もう嫌だぁああああー!!」
「何言ってんのよ」
机に突っ伏する私の頭をぺしんッとはたいたエマは盛大な溜息を吐いて私を見下した。ちょ、絶対零度の視線とかマジやめてつらたん…
クラスメイトの喧騒を片耳に入れながら鉛筆を転がしていると、エマは傍らにしゃがみこんで私の顔を覗き込んできた。
「何がそんなに鬱なの?」
「だって、毎日毎日塾ばっか。正直飽きたよ私は…。勉強も大事だと思うけど、体を動かしたい」
「あなた、いつから脳筋になったの?」
「脳筋!?脳筋ってあの、運動バカで脳みそまで筋肉になってしまった人のことを指すあの脳筋!?私脳筋なの!?」
「今の発言を捉えるとね」
「ぎゃああああああ!!私はお父さんやベジータさんみたいになりたくないいいいいいいい!!」
心底2人に失礼だと思うけど察してほしい。ただでさえ普通の女子とは程遠い身体能力を持っているのに脳みそまで筋肉になってしまったら私はもう女として終わりだ。
…まぁ、セルとバトった時点で人間終わってるけども。
「ねぇシュエ」
めそめそと嘆いていると、頬杖をついたエマが優しく私の頭をなでながら話しかけてきた。…エマのこういう優しいところ好き。
「なんだよぅ…」
「この後少し時間ある?もしよかったらまたあのケーキ屋さんに行かない?」
あの喫茶店、とは先日エマが見つけたオシャンティーなケーキ屋さんのことだ。すっかりあそこのケーキのとりこになってしまった私たちは塾帰りによく通うようになり、すっかりあのケーキ屋さんの顔なじみとなってしまったのだ。
「えッ、行きたい!行こう行こう!」
「ふふ、相変わらず食い意地は張ってるのね」
「ぬぬぬ…し、しょうがないよ、お父さんの娘だからね」
悲しいことにサイヤ人の血は抗えないのだ。なんて、エマにはそんなこと言えないけども。
「それじゃああと1時間、授業頑張りましょ」
「うぃー」
「おーいシュエ、お客さんだぞー」
授業の後片付けをしているときだった。教室の入り口から私を呼ぶナガトを振り返った。
「お客さん?誰?」
「お前の弟くんだよ」
そういうナガトの背後からひょっこり、と顔を出したのはわが弟悟飯ちゃんであった。悟飯はきょとり、と私を見上げると次第に眉をハの字に垂れさせていった。
「もしかしてまだ授業残ってた…?」
「いんや?私んとこはもうおしまい。悟飯のとこももう終わったの?」
「うん。先生が風邪ひいちゃったみたいで、各自自習になっちゃったんだ」
「へぇ、そんなこともあるもんなんだねぇ」
まぁ、私んとこの担任は一生風邪なんて引かないだろうね。元気が取り柄だから、あの人。
「シュエ、支度はできたの…って、あら、悟飯くん」
「こんにちは、エマさん」
「あ、そうだ。ねぇエマ、悟飯も一緒に連れて行っちゃダメかな?」
「え、い、一緒に?」
「うん。ダメ?」
「…いいえ、ダメじゃないわ。人数が多いほど楽しいもの」
「ほんと?やったね悟飯、みんなでケーキ食べに行こう!」
「前にお姉ちゃんが言ってた?」
「そ!すっげーおいしいんだよー」
「えー、シュエ俺はー?」
「大人しくお留守番してなさい」
「なんでだよー!」
なんかナガトがギャンギャン言ってるけどまああれは放置しててもいいだろう。手早く荷物をまとめた私はエマと悟飯の手を掴んで颯爽と教室を飛び出した。
「お、お姉ちゃん廊下は走ったら危ないよ!」
「へーきへーき!」
「こらシュエ!!廊下は走るなッ!!」
「すんませぇーん!」
「、………」
この時のエマがいったいどんな顔をしていたかなんて、浮かれている私にはわかるはずもなかったのだ。
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