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こんこんと





夜よ こんこんと深くいにしえの

淡き現世のさざれ雨

星を隠し 空を隠し

小さな赤子はさめざめ泣く

ハイムは語る 常しえと

星が笑い 宇宙(そら)は歌い

そして我らは 語り紡ぐ





「…それ、何の歌?」


ある日の塾の帰り道、ぽつりと唐突に口ずさんだエマの旋律に思わず聞き入った私は問いかけた。


「、…え?」

「今歌ってたやつだよ」

「歌…?」

「え、もしかして無意識?」


きょとん、と目を瞬かせるエマは割と本気で無意識だったらしい。やばいよそれ、アルツハイマーになりかけてるよきっと。若年性の。そう溢すとべしん、と頭をはたかれた。痛ひ。


「失礼ね、別に記憶が飛んでるとかじゃないから」

「でもさっき理解してなかったじゃんよ…」

「シュエがいきなり話しかけるからでしょ?」

「私のせいなの!?」


まじか、シュエたんもびっくりの新事実。
まぁそれはさておき、こほん、とわざとらしく咳払いして脱線した話題を悟飯が元に戻してくれた。


「それって童謡か何かですか?」

「ううん、違うよ。小さい頃にね、眠れない私に母がよく聞かせてくれた子守歌なの。なーんか頭に残ってて…よく無意識に口ずさんでるときがあるのよ」

「へぇー、そうなんだぁ」

「そういえば、お姉ちゃんもよく僕に子守歌歌ってくれてたよね?覚えてる?」

「えー?どんなんだっけ?」

「忘れたの?」


あれほど散々歌ってたのに!?とぷりぷり怒り出した悟飯に若干引く。そ、そんなに怒ることなの…?お姉ちゃんわかんないわぁ…
たじたじと悟飯を宥める私がそれほど面白かったのか、エマは小さく吹き出すとけらけら笑い出した。どこがおもしろかったの!?


「ふふふッ…ご、悟飯くん安心して。シュエのどうだったっけはしらばっくれてるのよ」

「お姉ちゃん?」

「ちょ、そんな地雷を踏むようなことを平然と…!!」


案の定顔に影を落とした悟飯は超絶怖い。怖すぎるよ悟飯わが弟ながらちびりそうなくらいには。悟飯が説教を始めようと口を開く前に慌てて話題をそらす。これをすれば跡が怖いけど背に腹は代えられない…!友達の前で弟に説教されるお姉ちゃんってどうよ。


「そそそそう言えばさ!エマは小さい頃そうやって子守歌聞いてたんだよね?今は聞いたりしないの?」

「…えぇ、そうね。今は両親と一緒に暮らしていないの」

「あ、そうだったよね…確か親戚のお姉さんと一緒に住んでるんだっけ?」

「そうよ」


そう呟いたエマの目は、どことなく悲しさを含んでいるように見えて私は思わず口を噤んでしまう。
…今思えば、私のあの言葉は軽率だったかもしれない。よくよく考えてみれば小さい頃から同じ塾に通っているのにも関わらず私はエマのことをちょこっとしか知らない。エマが子守歌を無意識に口ずさんでしまうことも初めて知ったし、そういえばおうちにお邪魔したこともない。あ、逆はあるよ。私がエマを引っ張って行くからね。

あ、そうだ。

私はぽん、と拳を手のひらに打ち付けた。


「ねぇねぇ、エマ!明日うちにお泊りにおいでよ!!」

「え?」

「お、お姉ちゃん…?」

「だって明日からから塾夏休みだよ?念願のッ!夏休みッ!お泊り会しよう!なんならその親戚のお姉さんも呼んでさ。部屋なら余ってるし」

「…い、いいの?」

「いつも遊びに来てるじゃん。きっとお母さんも喜んでくれるよ」

「そ、そうかしら…?ふふ、シュエのお母さんと会うの久しぶりだなぁ」

「ねー。何か月ぶりだろ?」


きゃらきゃらと明日について花咲かせる私たちは、明日の夕方にパオズ山の麓で待ち合わせの約束をして別れたのだった。今から明日が楽しみだよ!うちに友達が来るのって、セルゲームの時にナガトが来て以来だよねぇ。うふふ、楽しみだなぁ。
エマが来たらやりたいこととかお話ししたい事たくさんあるんだよねぇ。普段塾やその帰り道で話せないこととか。所謂女子トークってのをしたいんだよぉー!!だってだって、今までフリーザとかセルとかナメック星に宇宙飛行とかその他もろもろ…!!なんっっっにもッ!!!!したことないんだからあああああああああああ!!!!!

舞空術で帰路を辿りながら頭を抱える。お、思い出せば思い出すほど今まで生きてきた中で女の子らしいことなんてしたことないや…


「ただいま」

「ただいま…」

「おー、おけぇり。…て、シュエ?どうしたんだ、そんなしょんぼりしてよ」

「目の前に突き付けられた現実に打ちひしがれていたんだよ」

「お、おう…?」


果てしない疑問符が頭上に舞っているお父さんを横目に台所に立つお母さんの元へ向かう。


「悟飯ちゃん、シュエちゃんおかえり。もうすぐ夕飯できるべ?さ!これ運んでけれ!」

「わかった。…あ、それとねお母さん。明日エマがお泊りに来るんだけど…いい?」

「エマ…?あぁ!おめーと同じ塾の女の子だべ?構わねぇだよ!」

「ほんと?」

「…と、言いてぇところだども…」


そう言って目をそらすお母さんに今度は私が疑問符を浮かべる番だった。だども…何?


「実はな、スーパーの福引で温泉旅行のペアチケットが当たってな、それが明日から2泊3日なんだ」

「えー…」

「できれば悟飯ちゃんとお留守番しててほしんだども…」


そ、そんな…まさかまさかのここにきて温泉旅行…だと…?しかも2泊3日。まじか。まじなのかお母さん。そこをどうにかできませんでしょうかお母さん。一応私、家事とか料理とかできるよ。
こっそりと主張してみた。


「仕方ないよ、お姉ちゃん。親が留守の時にお泊り会だなんてダメだよ。お母さんたちが帰って来てからでもお泊り会はできるでしょ?だって塾の夏休みは3週間もあるんだから」


何やら悟飯が素敵な笑顔で主張してきた。何、何なの。あんたなんでそんな嬉しそうなの?お姉ちゃんちょっとわかんない…
よよよ…と泣き真似をすると露骨にあわあわとしだしたお父さん。ちょ、そんな慌てないでよ、泣き真似なんだから…


「な、なぁシュエ…?泣くほどお泊り会したかったのけ?」

「いや、泣いてないよお父さん。見て、ほら。涙ちょちょ切れてないから」


おちゃめか。
あーぁ、温泉旅行だったら仕方ないか…。普段いろんなことで迷惑をかけてしまってるお母さんに、少しでもゆっくりしてほしいしね。それに、なんだかんだお父さんだってナメック星に残って激戦したり修行だのなんだの言って家にいないことが多かったもんね。こういう時くらい夫婦水入らずで過ごしてほしいのも事実だ。

…それにお泊り会は絶対に明日じゃないとできないわけじゃないしね。


「お父さん、お母さん、温泉旅行行っておいでよ。私、悟飯とお留守番してるからさ」

「いいのけ?おめぇ、エマちゃん来るの楽しみにしてたべ?」

「いいのいいの!だってお父さん、死んだりナメック星行ったりセルとバトったりで忙しなかったじゃん。たまには2人でゆっくりしてきなよ」

「そ、そうけ?シュエちゃんがそこまで言うなら…なぁ、悟空さ?」

「んー?オラはうまいもんが食えればそれで…」

「お父さん?」

「行くかチチ!さ、早いとこ準備しちまおうぜ!」


そう言ってそそくさといなくなったお父さん。チョロい。チョロすぎるぞわが父ながら…!それでいいのかお父さん!娘の圧に負けて目をそらしてもいいのか…!!
まぁ、面白いからやめないけど。


「…あ、そうだ。エマに電話しないと」






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