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とあるAさんのお話



※モブっ子視点




こんにちは。私はしがないモブの女子Aです。モブの女子A、とはいささか長い気もしなくはないので、どうぞ気軽に”Aさん”とお呼びください。
この度は僭越ながら、私が語り手を務めさせていただきます。

さっきも言いましたが、私はしがないモブA。もっと詳しく言うのであれば、シュエちゃんという女の子と同じ塾のクラスメイトです。

彼女と私は小さいころからずっと同じ塾で同じクラスでした。本が好きで、それでいて人とお話しするのがすこぶる苦手、とても地味で目立たない私と違って、シュエちゃんは明るくて元気で笑顔が素敵で、それこそ私と正反対な可愛い女の子なのです。

シュエちゃんはとても頭がいいのです。まだ8歳だった頃、塾の先生が面白半分で出した高校生の問題を、ものの数秒で解いてしまったことがあります。あの時は誰もが驚き、前もって彼女が答えを見ていたのではと疑いましたが、なんとシュエちゃんは、なんてことないような顔をしてこと細やかにその問題の解説をしてくれたのです。先生よりもはるかにわかりやすいその説明に、ほかのクラスメイトたち、主にナガトくんを筆頭に休み時間になる度に彼女のもとに群がり、一緒に問題を解いてる姿をよく見かけるようになりました。
私ですか…?すみません、私はみなさんのように傍には行っていないのです。みなさんの勢いがあまりにもすごいから、どうしても怖気づいてしまうのです。本当はシュエちゃんの隣で、みなさんと同じように彼女の話を聞きたいのですが、いかんせんこういう性格ですから…。私は隅の方で1人、本を読んでいます。

ですが、活字を目で追いつつもちゃんと聞き耳は立てていたりします。行きづらい、と言ってもやっぱり話は気になりますから。
ちらっと聞いたのですが、シュエちゃんには2歳下の弟さんがいるみたいです。なるほど、だから彼女は教えるのが上手なんですね、と感心した記憶があります。


年を追うごとにつれ、シュエちゃんは塾に来なくなりました。先生は家の用事だとか、そう言った当たり障りないことばかり言いますが、何か月も来なければだんだんと心配になってくるのであって。ずっとシュエちゃんと仲が良かったナガトくんも、時折心配そうな顔をしてシュエちゃんの席を見つめていることもあります。なんとなく、教室がどんよりと重苦しく感じるのはきっと気のせいではないと思います。シュエちゃんが来ないだけで教室の空気がこんなにも変わるだなんて、思ってもみませんでした。


それから、テレビのニュースで”セル”という化け物の報道がよくされるようになりました。ちょくちょく休んだり登校したりするようになったシュエちゃんに、最初こそみんながみんな「どうしたの?」やら「どこか悪かったの?」やらいろいろ聞いていましたが、シュエちゃんはすべてを語らず、それでいて酷く曖昧に答えました。クラスメイトたちは巧みに言葉を操るシュエちゃんの曖昧な答えに気付いてはいませんでしたが、彼女の親友であるナガトくんだけは何かを悟ったような表情をしてうつむいていたのをよく覚えています。


セルゲームの事件から早数か月後、少しずつ人々の心の傷が癒えだした頃、本当に久しぶりにシュエちゃんが塾に登校してきました。懐かしい彼女の姿にナガトくんは大号泣、ほかのクラスメイトも目尻に涙をためながらも彼女の復帰を喜びました。どうして彼女が塾を休んでいたのかはわかりませんが、それでも長いこと同じクラスだった友達が再び教室に姿を現したことに喜ばない人はいませんでした。
久しぶりに見たシュエちゃんは、長かった髪をばっさり切ったらしく、きれいな黒髪は肩につくくらいの長さになっていました。おさげも可愛かったのですが、短い髪もよく似合っています。素直に可愛い、と思いました。ナガトくんだけは、髪がいじれないと嘆いていましたが。そういえば彼はよくシュエちゃんの髪を器用にアレンジしたりして遊んでいました。


「んで、これはこっちの式を代入。これを移行して、こうすればほら。解けるでしょ?」

「おぉ…!すっげ、解けた!やばい!俺天才かもしんねぇ!」

「あんたが天才なんじゃなくて、シュエが頭いいからでしょ。図に乗んな」

「ひどい!」


今日もシュエちゃんの周りには人がたくさんいます。シュエちゃんは頭が良くて、笑顔が素敵で、割かし何でもできる器用な子なのです。ですが、彼女は決してそれを鼻にかけたりはしません。誰よりも努力家で、塾が終わった後も備え付けの図書室で勉強をしている姿を遠目から見かけたりします。

疎ましいとか、羨ましいとか、そういった感情を彼女に向けたりすることはありません。彼女はいつだって私たちの中心で、純粋に尊敬に値する人物だと思っています。


「そうだ!なぁシュエ、この前有名な監督のホラー映画の続編DVD借りたんだけどよ、一緒に見ようぜ!」

「絶対嫌無理断固拒否。見るならナガト1人で見れば?」

「そう言わずに頼む!さすがに俺もこれを1人で見るのは嫌なんだよ…」

「じゃあなんで借りたのさ」

「父さんが一緒に見ようっていうから…なのに肝心な父さんってば、急に仕事が入ったとかで見れないって言うんだよ。なぁ頼む!!このとーり!!一生のお願い!!」

「い・や・だ」

「後生だからあああああああ!!」


シュエちゃんは意外と心霊とか、そう言ったものが苦手らしい。そしてナガトくん、情けない声を出さないでください。割と迷惑です。なんて、口には出しませんが心の中では声を大にして叫びます。


「あら、シュエさん。こんなところでお話だなんて、ずいぶん余裕じゃない」


唐突に聞こえた声に全員がドアを振り返りました。そこにはザ・お嬢様の雰囲気を醸し出す隣のクラスの女の子、カレンちゃんがいました。彼女はとある財閥の令嬢さんらしく、彼女のお父さんがカプセルコーポレーションの社長さんと知り合いだとかなんとか。カレンちゃんがたまたまカプセルコーポにお父さんと一緒に行ったところ、シュエちゃんを見かけたことからなぜかシュエちゃんに対抗心を燃やし、こうやって時々私たちのクラスまで取り巻きとともにシュエちゃんに絡みにやってくるのです。


「余裕って何のこと?なんかあったっけ?」

「さぁ…?」

「とぼけるのも大概になさい!今度の定期テスト、次こそは私があなたに勝って見せるわ!この前はケアレスミスで私が負けましたが、次はそうはいきませんわよ!」

「あー…テストとかそんなんあったねぇ。私も勉強しないと。カレンさん、お互い頑張ろうね」

「なッ…!あああ握手なんて求めるんじゃないわよッ!!バカッ!!」


ぴゃーッ!!と脱兎のごとく去っていったカレンちゃんを私以外のクラスメイトは呆然と見送る。当の本人は「…握手、嫌だったのかな」なんて見当違いなところに観点を置いていて、ナガトくんが「え、そこ?そこなの?もっとあっただろいろいろさぁ」と突っ込みを入れています。
実を言うと、みなさんには見えていないのですが私の座る位置からはばっちり見えていたのです。何が、ですか?ふふ。去り際のカレンちゃんの真っ赤な顔、とかですかね。
カレンちゃんが実はとてもわかりづらいツンデレさんなことも、本当は対抗心とかじゃなくてただシュエちゃんとお話ししたいだけだとか、私にはお見通しなのです。人間観察、好きですから。
ですが、彼女特有のわかりにくいツンデレのせいで、この教室の生徒からはあまりよく思われていないみたいです。ツンデレすぎるのも困りものですよね。


「何、あいつ…。シュエ、別にあんなの気にしなくていいんだからね?きっと嫉妬してるだけなんだから」

「え、私別に何とも思ってないけど。てゆーか、あそこまで露骨だと逆に可愛いよね」

「はぁ?あの自慢しぃのどこが可愛いわけ?感性おかしいんじゃないの?」

「ちょ、相変わらず辛辣…シュエたん胸が痛い」

「なでてやろうか?」

「沈め」


大きなたんこぶをこさえた男子生徒を横目に手元の本に視線を落とす。まぁ、彼に関しては当然の制裁ですよね。胸を触るだなんてそんな破廉恥な。恥を知りなさい。

それで私は今、口元が緩まないよう必死でした。なぜかって?

シュエちゃんが案外目敏いことが面白くて。

ちらっとシュエちゃんの方を見ると、バチッと彼女と目があいました。少しの間見つめあい、私がちょいちょいとドアの方を指さして苦笑いすると、意味が分かったらしいシュエちゃんも私と同じように苦笑したのだった。


「おら、席につけよー。授業始めんぞ」





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モブ子ちゃんから見た夢主の印象というか、そんな感じのことを書きたかったのですが予想以上に長くなってしまいました…

結局何が書きたかったのか支離滅裂になったという。オリキャラ続出大変失礼いたします。






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