瀬戸際の淵
ロゼさんが言ってた緑の獅子がこんなにでかいだなんて聞いてない。
「時は満ちた。今こそ命の楔を解き放ち、万象黙示録を完成させる。故に、世界の終わりが加速する!」
「何言ってんのか、全っ然わからんっつーの!!!」
散画龍・双を緑の獅子にぶち当てる。けれどどういう原理が働いているのか、エマを閉じ込めている球体同様、私の気が瞬く間に分解されていく。
「なんっで効かないかなぁ…!」
「効かないだろうさ!ただの人間に錬金術の叡智など到底理解できないのだからな!」
ということはつまり、私の攻撃が全部分解されるのは錬金術を使って何かしらの結界とかバリア的なものをあの緑の獅子全体に施しているってことだよね。
解除方法…ダメだ、全然思いつかない。こんなんならもうちっと錬金術とか勉強してから来るんだった!
「正面、もう君に構っている暇はないんだよ。もうすぐ7つの惑星が一直線に連なる。7つの惑星と7つの音階が譜面を描き、エマのプラネットスケールが革命の戦慄を奏でるのだ!」
「…さっきから聞いてりゃ人の親友を道具扱いしやがって…!!」
「知るものか!さぁエマ、歌え!星の歌を…偉大なる叡智を人間どもに知らしめるのだ!」
ぱかり。緑の獅子の口が開く。そして耳に飛び込んできたのは、悲しくて悲鳴にも似た寂寞の歌声だった。
『〜♪〜〜♪…♪〜』
詩も言葉もない、ただの旋律。けれどエマの歌声に呼応するように緑の獅子が明滅する。
そして…
「さぁ、来い!星の輝きよ!」
ついに重なった惑星たちを貫くようにに光が降ってくる。それは一直線に緑の獅子に向かっていて、緑の獅子は光を飲み込むように口を開いた。
眩いほどの発光。星のエネルギーを食んだ緑の獅子は正面へと顔を向け直し、もう一度大きく口を開いた。
「放て!!」
地平線へと飛ばされる緑の光。目を覆うほどの鋭い光の向こうで、確かに大陸が跡形もなく消え去るのを見た。
「はは…ははは…!!やった…!やったぞ!ついに手に入れた!錬金術の叡智、それすなわち、神の力!」
高笑いしているレブルをよそに私は今の光景を見てただただ絶句していた。
あんな馬鹿みたいな膨大なエネルギー…止めれるわけがない…
惑星が重なる前にケリを付けないといけなかったのに、結局手間取ってレブルの思い通りにさせて、緑の獅子も完全に起動させちゃって、エマも助けられず…
「私じゃ、無理だ…」
かくん。急に膝から力が抜けて地面に座り込む。
私じゃあれを止めれない。止めることができない。突飛すぎて、未知の力の前に頭が全然回らない。打開策も何もない。あんなの、お父さんでしか…
「一体どうすれば…!」
腹立たしいほどにレブルの笑い声がリプカの廃国に響き渡る。
ふと、その笑い声に混じって微かにエマの声が聞こえたような気がした。
『ー♪ーー……♪、♪』
「エマ…?」
悲しげに、苦しげに、滅びたリプカの国に響くエマの歌。
ーーたすけて
「…!!」
はっきりと、エマの声が聞こえた。助けてって…。他の誰でもない、私に、助けてって言ってる。
そこでふと思い出した。
お父さんは、いつだってどんな状況だって、決して諦めたりなんてしなかった。
「……ごめん、エマ。ごめん、お父さん…」
簡単に諦めるのが私の悪い癖だった。
震える膝を叱咤し、立ち上がる。
目線はしっかり真っ直ぐ。緑の獅子。
いつだって、どうしようもない時に世界の運命をお父さんや悟飯だけに預けるのは嫌だった。
なのに、そんな私がまた全部を投げ出そうとして、馬鹿だ。
ーばちぃいんッ!!
思いっきり両頬を両手で叩きつける。めちゃくちゃ痛い。
「ッ…てぇー…!!けど、頭は冴えた!」
もう諦めない。もう迷わない。私は親友を助けるためにここにいる。
今までだって絶対に叶わないようなやつら相手にしたきたじゃん!それが生身から機械に変わっただけマシってわけだ!
「まずはその分厚い外装を引っペがしてやるよ!!」
さて、第2ラウンドと洒落こみましょうか!
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