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たった1人の奪還戦争






憎らしいほど煌めく星空の下を猛スピードで飛ぶ。合間に空をよく見てみれば、周りの星たちと比べて一際強く輝いている4つの星が縦に並ぼうとしていた。

あれが重なるのに、そう時間はない。私はロゼさんの言葉を思い出していた。





* * *


「惑星直列は今夜…。それまでになんとしても緑の獅子を破壊してください」

「そんなのでいいの?」


ロゼさんに手当を施したあと、私は彼女から緑の獅子について概要を聞いていた。


「緑の獅子は、文字通り獅子を模した緑の機械です。壊してしまえば二度と復元は出来ないでしょう。…ただ、レブルが簡単にそれをやらせてくれるかは別ですが…。レブルは、地球上に巡る龍脈に緑の獅子のエネルギーを流し込み、世界を分解するつもりだと思います。そして、ここから一番近い龍脈はパオズ山です」

「ぱ、パオズ山!?」


なんということでしょう。まさかの事実にお口が塞がりません。
疑問符を頭上に大量発生させながらロゼさんをガン見していると、彼女はなんだか申し訳なさそうに眉を垂らした。


「本当、申し訳ありません…」

「いや、まぁ…ロゼさんが謝ることないし、なんにせよ、その緑の獅子をぶっ飛ばせばエマを助けられるってことだね」

「はい。…シュエさんの脳に、リプカの正確な位置座標を転送、複写します。少し目が回るかもしれませんが、すぐに治まります」


ふわり、目元にロゼさんの手が翳される。淡く赤色に発光した彼女の手。直後、ぐるり、世界が高速で回ったような感覚に襲われた。


「う、…」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「ん…へーき」


ロゼさんの言う通り、目眩はすぐに治まった。ゆっくり目を開く。


「…すごい、地図も何も見てないのに、場所がわかる…」

「…本当はこれは、脳への負担が大きいからあまり使いたくはなかったのですが、緊急を要しますので…。ごめんなさい」

「大丈夫ダイジョーブ!…じゃ、行ってくる」

「…ちゃんと、帰ってきてね」

「わかってる。今度こそちゃんと悟飯のところに帰ってくるから。待っててね」

「…うん」


家に悟飯とロゼさんを残し、私は暗闇を翔けた。





* * *


「あれだ」


飛ぶこと数十分。ロゼさんに複写してもらった座標を元に辿り着いたのは、高い山々に囲われ、隠れるようにして存在する廃国だった。
そして、国の半分ほどが不自然にぽっかりとあいた大きな穴。

相手が錬金術師とはいえ、気を感知できるかもわからない今、むやみに飛んで近付かない方がいいだろう。

国の入口で降り立ち、できるだけ気を発しないよう抑えながら今度は地面を蹴った。


「……何?この音」


半壊しているお城を目指して走っていると、不意にカタカタッと音が飛び込んできた。咄嗟に瓦礫の影に体を滑り込ませ、息を潜める。
すると、ネジを巻くような音を響かせながら目の前の通りを、人型の人形が通って行った。


「何あれ…人形…?」


まるで作りかけの、それこそ土台だけのフランス人形が、よくよく周りを見回してみたらそこらじゅうを徘徊していた。ネジ巻きの音を響かせるもの、オルゴールのような涼しい音を響かせるもの。三者三様の音を奏でながら歩き回る人形たちはどうやらこのあたり一帯を巡回している警備人形のようだった。


「まいったな…これじゃ迂闊に移動でき……ッ!」


反射的に大きく背後に飛ぶ。さっきまで私がいたところに大きな鎌のように変形した人形の腕が、地面に深々と突き刺さっていた。

あっぶねぇえー!!!


「ハイ、ジョ…侵ニュウシャ…排ジョ、しマス」

「!!」


途端にけたたましく人形から警報が発せられた。すると音に釣られてあちこちを歩き回っていた人形たちが私がいるところに向かって駆け出してきた。


「め、面倒なことになった…!」


できることなら余計な戦闘とか避けたかったんだけどなぁあああ!!
ずらり。360度私を囲う人形たちを横目にため息をひとつ。しゃーない、かぁ…


「レブルをぶっ飛ばす前にこいつらぶっ飛ばすか…」


両手に気弾を作り、まずは正面にいる人形たちをぶっ飛ばした。まるでボーリングピンのように弾け飛ぶ人形の間を低姿勢のまま走り抜け、前方に立ちはだかろうものなら気円斬及び気弾を飛ばしまくった。


「おわッ!!」


時々、炎やら金属、氷の塊、風などを飛ばしてくる人形がいた。
ロゼさんの言葉を借りるのなら、4つの元素をベースに作られた人形…ってところだろうか。

見つかって襲撃を受けている今、恐らく向こう側には私の存在が知られているはず。なら、こそこそと隠れて移動するより堂々と正面切って突入してやろうじゃんよ。

瓦礫を飛び越え、襲いくる人形たちをぶちのめしながらひたすらに廃墟の合間を走る。国の半分が消滅したって聞いてたけど、存外お城まで距離はある。目視ではわりと近くに感じるけれど、一向に辿り着けそうな気がしないんだけどどゆこと。


「あー、もお!!次から次へと鬱陶しい!!はぁあ!!」


1度思いっきり気を拭きあげて周囲の人形を吹っ飛ばす。そして舞空術で飛び上がって真っ直ぐにお城へ飛んだ。


「こうなるんだったら最初っから空飛んどけばよかった…」


心底後悔の念に駆られるわ。
空に飛び上がってからは、あれほど遠くに感じたお城にあっという間に辿り着き、展望台を探す。


「展望台はどれだ……あ、いた!」


お城の背後に位置する一際高く大きな塔。そのてっぺんに赤い半透明の球体に入れられたエマと、その近くでなにやら機械を操作している長身の男を見つけた。


「はぁああ!!」


緑の獅子とやらが見当たらないのが気がかりだけど、まずはエマが入れられているあの球体を壊さないことにはどうしようもない。
大きめの気弾を球体目掛けて飛ばす。…が、当たった瞬間から分解されて瞬く間に消え失せてしまった。


「全然効いてないって、まじか…!」


そして今の攻撃で長身の男(恐らく彼がレブルだろう)の視線が私に向けられた。
うわ、完全に敵に認知されたわ。仕方ない、とりあえず降りよう。

ゆっくりと下降し、地面に足をつける。


「……君、風の元素を使ってもいないのに空を飛べるのかい?」

「何のことかさっぱりだけど、とりあえず言うと私は錬金術師ではないよ」

「これは驚いた。ならどういう原理で空を飛んでいるんだい?」

「どういう、原理…?」


考えたことなかったな…。気?気をコントロールして体を浮かせてる…?でもどうやって…?
うんうんと考えを巡らせていると、ふと私が相手のペースに完全に飲まれていることに気付いた。

わ、私としたことが…

ごっほん。咳払いをひとつ。


「舞空術については後で考えるとして…。エマを返してもらおうか」

「残念。君とはいい議論ができそんな気がしたんだが…」

「かなり気になる議題ではあるけど、私の目的はそれじゃないんだよね…」


ちらり、視線を横にずらす。球体の中でエマはぐったりと項垂れていた。何か薬でも盛られたか、あるいはよくわからない術で眠らされているか…


「ぅおッ…!」


唐突に飛んできた複数の風の刃を跳躍することで避ける。けれど、避けた先避けた先に水弾やら風の刃やらが次々と飛んでくるため少しずつエマから離されていく。


「ちッ。おらぁ!!」


どかん!
迫り来る元素たちに気弾をぶつけまくる。そうしているといつの間にか廃墟で相手をしていた人形たちが展望台にたくさん来ていて、もはやレブルが放っているのか人形たちが放っているのかわからなくなったきた。

ちらっと空を確認すると、惑星直列までもうほとんど時間がない。


「くそッ…!こんなん相手にしてる場合じゃないのに、鬱陶しいなぁ!」


一体どこからこんな量の人形が出てくるんだよ!
マジでキリがないんだけど…!!


「こうなったら散画龍で……ッ、うぇえ…!?」


散画龍の構えをとった時、展望台が大きく揺れた。何事かと目を白黒させていると、さっきまでエマとレブルがいた場所がボコボコと隆起していた。展望台の下から、というより、展望台自体が物質変換を起こしているみたいに盛り上がっていく。


「おっとっと…!」


雪崩てくる人形たちを避けながら宙に浮いた。そして宙に浮いたからこそ一層状況がわかる。
さっきまでいた展望台がまるでトランスフォーマーの如くガタガタと、それこそ物質変換を起こしエマを飲み込みながら組み上がっていく。
収納され、隆起し、そうして姿を表したのは巨大な緑の獅子だった。






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