ふたりぼし
「それじゃあ、留守番頼んだぞ?」
「任せて。2人もちゃんと旅行楽しんできてよね!」
「わかってるべ!」
「悟飯、シュエと喧嘩すんなよ?」
「しませんよ。僕たち仲良しですから!」
そう言って腕に抱き着いてきた悟飯と「ねー」と顔を見合わせる。喧嘩したのは片手で数えれるほどですとも、私たち。仲良し姉弟ですから。
どやぁ、とお父さんとおお母さんを見るとなんだかおかしそうに笑っていた。うーん…別段面白いことは何もしてないんだけど。まぁいいか。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「気を付けてくださいね」
「おう、行ってくるな!」
「シュエちゃん、家のことは任せたぞ」
「任されました」
お父さんは金斗雲を呼び寄せると、お母さんと2人それに乗ってあっという間に見えなくなってしまった。うあぁ…やっぱ早いなぁ金斗雲。ぽけぇっと青空に残る金色の軌跡を眺めていると、不意にくんッと腕を引かれ、体が後ろに傾いた。ぎゃッ、だなんて女子とあるまじき声が出てしまったのは致し方ないと思う。
そして傾く私の体が地面にぶつかるよりもはるかに前に、ぽすりと柔らかいものに受け止められた。
…ま、まさか
「やっと、本当の2人っきりになれた」
ぎゅぅう、と痛いくらいに私を抱きしめる悟飯の腕に恥ずかしさ半分冷や汗半分である。ちょ、首に悟飯の息がかかってすっごいこそばゆいんだけど…!身動きした私の意図が分かったのか、悟飯は私が動けないようにさらに腕に力を入れ、耳に息を吹きかけてきた。
「ひぃいい…!!」
「…そんなに僕と2人になるのが嫌?」
「い、嫌じゃないよ?ただ何というかその…気恥ずかしいというかまだ早いというかごにょごにょ…」
「…ずっと、こういう時が来ればいいって思ってた。今までも2人になることはできても、2人っきりになることはできなかったから。だからね、お姉ちゃんと…ううん、シュエと2人になれて嬉しい」
「ッ…」
ぶわッと顔から火が出そうなくらいに顔面が熱くなった。あ、あんなこと男の子に言われたの初めてで、くっそ恥ずかしい…!何これ何これ何これ…!!なんか、ドキドキしすぎて口から心臓でそう…!しかもッ…!名前…!!
あー、だかうーだかどっちとも言えないような唸り声を出す私だけど、腹を括って思い切って体を反転させて、真正面から悟飯の胸に飛び込んだ。
「わッ」
「………たしも」
「え?」
「わ、たしも…嬉しい…その…うまく言えないけど…」
「…顔真っ赤。シュエ可愛い」
「うぅ…」
弟とあるまじきこのセリフ。前からずっと思ってたけど、本当にどこでそんなの覚えてくるの、この子は。…でもまぁ、そんなことでさえ好きの気持ちの前では割かしどうでもよくなってくるんだけどね。服の上からじゃ分らない意外に逞しい胸に顔を埋めた私は、ゆったりと髪を梳く悟飯の手に目を閉じた。
「あ、そう言えばお昼ご飯は何が食べたい?」
「…………お姉ちゃん、今このタイミングでそれ聞く?」
「え?」
「…はぁ………」
なんか、悟飯にため息つかれたんだけど。何、何なの。
至近距離で見える悟飯の大きな目玉をじっとりと睨めつけていると、それに気付いたらしい彼はむ、と唇を尖らせた。なんやねん。
「なんで僕がそんな顔されなくちゃならないの」
「賢い悟飯くんならわかると思って」
「嫌味ったらしい…」
「どうとでも」
「…というより、僕がお姉ちゃんの事でわからないことなんてないよ」
「え"……ッ、…って、ちょっと!」
「ごちそーさま。…なーんてね!」
触れるだけのキスを突然かましてきた悟飯に私の顔面は噴火寸前である。
ほんと、まじでそういうの急にすんなって!!
足を踏んずけてやろうと振り上げたものの、それよりも早く悟飯が私に足払いをかけて姫抱きしてきた。
ちょ、あろうことか足払いだなんてなんて小癪なッ…!!
今度こそ半目で悟飯を睨み付けた。
「ほら、すぐそーいう顔する」
「弟にここまでしてやられるなんて悔しいぃい…!!」
「そんな弟に惚れ込んでしまったのはどこのお姉ちゃん?」
「ぐぬぬッ…」
なんか、最近悟飯がベジータさんみたいになってきてるんだけど!!あーやだやだ!!
「ね、お昼作ってくれるんでしょ?僕オムライス食べたい。中身チキンライスじゃないやつ」
「あぁ、バターの方?随分こってりだなぁ」
「お姉ちゃんのせいでね」
「い、意味がわからんぞ…!」
なんにせよ、波乱の3日間の予感…!!
付けっぱなしにしていたテレビが、何兆年に1度見られる惑星の現象の話をしていたような気がした。
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