じゅういち
「伏せて!」
すっかり服が乾いた頃、僅かだけど殺気を感じ、咄嗟にナオさんを抱え込んで後ろに飛んだ。
さっきまで私たちがいたところに気弾が当たり、土煙をあげる。エマが防御結界を張ってくれたおかげで大した怪我はしなかったのだけど、問題はそれじゃない。
「みーつけた」
怖……なんのホラーだよ…
ガラガラと崩れる瓦礫の向こうから、学校の怪談よろしくゆらり、と姿を現したベジットさんに心臓が縮み上がった。
「誤認結界施してたはずなのに、なんで…」
「エマはバカだなぁ。俺がシュエを見つけられないはずないじゃねぇか。どこにいたって、例え地獄の果てにまで隠れようが必ず見つけてみせる」
「ヒェッ…」
正直な話、ベジットさんにここが見つかるとは思っていなかったから完全に想定外である。そしてもっと言えば…
「あぁ、見つけたんですか」
「言ったろ?心当たりがあるって」
悟飯までもが参戦してしまった事だろうか。
全盛期であった少女時代の時はともかく、今の私の実力であの2人を相手どれる自信がない。
あぁ見えて、悟飯もベジットさんもクソ強いのだ。
「シュエ、そいつを渡してくれないか?」
「…嫌だと言ったら?」
背後に隠したナオさんが私の服の裾を握った感覚がした。
「俺はシュエを傷付けたくない。だってこれはぜーんぶシュエのためなんだから。そいつがいなくなれば、シュエはまた俺を見てくれるだろ?無意味に傷付くこともないし、全てが丸く収まる。なぁ、頼むよ、いい子だから…」
「私は、そんなこと言うベジットさんは嫌いだよ」
「え……」
「悟飯も、何考えてんの?」
「姉さん、僕はただ姉さんのために…」
「私のため…?ふざけとんのか!私は!誰かを踏みにじって得た物なんていらない!誰かを蹴落としてもらった幸せなんていらない!そんな浅はかなお前らなんて…!大っ嫌いだッ!!」
「だい…」
「きらい…」
愕然と目を見開く2人。ちょっと言い過ぎたかもしれない、なんて後悔し始めた時、2人は顔面を蒼白にさせて崩れ落ちた。
え……
「なんで…なんでだよシュエ…!俺はただ、お前に…!俺を見てほしかっただけで…!お前の視線を一身に受けるそいつが憎くて…!お前に嫌われたら、俺は…!」
「姉さんごめん、もうしないから、僕を嫌いにならないで…姉さんに嫌われたら生きていけない…」
………………ついカッとなって言っちゃったけど、私、とんでもなく厄介なスイッチを押しちゃったんじゃなかろうか。
てか、いい加減私がナオさん大好き説改めろよ。まずはそこからだ。
地面に膝をつき、最強と言われた男とかつて最強と謳われた弟の見るかげもない姿に口元が引き攣った。
ちらり、エマを見る。彼女は諦めたように首を振った。
「…ナオさん、この世界はきっとナオさんの知っているドラゴンボールの世界じゃないよ」
「……」
「そもそも私がいる時点で正しい世界とはかけ離れているんだ。…私さ、今回の件が理由でナオさんにドラゴンボールを嫌いになってほしくないんだ。ずっと好きだったものを嫌いになるのって、すごく悲しいことだよ。だから、正直に答えてほしい」
「このまま間違った世界で偶像を求めるか、元の世界に帰って夢だと割り切るか、今ここで選んで」
半分ナオさんを追い出すような形になってしまうけれど、きっともう時間がない。
ナオさん本人は気付いていない。私も、何となくしか理解できていない。けど、わかる。
ナオさんがこのままこの世界にい続けると、二度と元の世界に帰れなくなる。
だから今しかない。せっかく来た異世界で、ずっと好きだったキャラに会えてきっと喜んだと思う。
けど、ちゃんと帰る場所があるなら、そこに行った方がいい。
それは、前世で私がさんざん後悔した事だから。
「私は………ーーー」
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