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じゅう




「な、に…やってんだよぉおおー!!!」


ベジットさんの気弾がナオさんに当たる寸前、どうにか体を2人の間に滑り込ませた私は渾身の力を込めて散画龍を放った。
最強を誇るベジットさんの気弾を、完全に打ち消すとまでは行かなくとも多少相殺できれば御の字だった。


「エマ!」

「任せて!」


周囲に爆風が吹き荒れる。その隙をついて、未だに放心しているナオさんを抱えてエマを殿に再び空を飛んだ。


「な…え…!?シュエちゃん…!?なんで…」

「悟天たちが教えてくれたの!ナオさんが危ないって、助けてあげてほしいって!」

「け、けど…!私はあんたにひどい事して…!」

「いいから口閉じてなさい!舌噛むわよ!」


エマが放った銃弾が地面に着弾すると同時に炎がベジットさんの前に広がる。それを煙幕替わりに私たちは必死に空を駆けた。

そうして辿り着いたところは私のお気に入りの場所であるパオズ山の湖。けれど本当の私のお気に入りはここじゃない。


「ナオさん、思いっきり息吸って!潜るよ!」

「ちょ、ちょっと!?潜るって、まさかあの中に!?嫌よ!濡れちゃうじゃない!」

「ならそのへんに転がってあいつに殺されれば?私はそれでもいいけど」

「ぅ…」

「エマ、脅さないでよ!…いい、ナオさん、今は揉めてる時間なんてないの。私はあなたを殺させないし、ベジットさんにもあなたを殺させやしない。絶対だよ」

「……」


黙りこくったナオさんを了承と捉え、エマが私の肩を掴んだのを確認してからそのままの勢いで湖に飛び込んだ。





「あーぁ、逃げられちった」


燃え盛る炎を吹き消すように気を放ったベジットは残念そうに、けど心底落胆した様子を見せずに空を仰いだ。
そこには彼が焦がれてやまないシュエの姿どころか、気さえも感じられない。ただただ晴天が広がるのみ。けれど、ベジットは決して焦ってはいなかった。


「まさかシュエが来るなんて思わなかったぜ。こういう件に関して一番動かなそうなエマもいるし……ったく、どうなってんだよ、悟飯」


がさり。茂みから青年…もとい、悟飯が姿を現すと、悟飯は悪びれた様子もなく肩を竦めてみせた。


「僕の予定では姉さんはクリリンさんのいるカメハウスに飛んで、そのままそこで落ち込んでいるはずだったんですけどね。どうやら昨日僕たちが話した事をゴテンクスが聞いていたらしいんです」

「はぁ…ってことは、あいつがシュエに言ったんだな。あのいたずらっ子め…」

「そもそもカメハウスにエマさんがいたこと自体予定外ですけどね。…どうします?姉さん、かくれんぼがすごく上手だから探し出すのにはだいぶ骨が折れますけど」

「それなら問題ない。俺に心当たりがある」


そう言って歪んだ笑みを浮かべるベジットを心底訝しげに睨みつける悟飯。あんたに姉さんの何がわかる。と言いたげに細められる目。
けれど、彼は彼でどれほどベジットが本気でシュエを思っているか知っているため、口に出すことはせず、ただ息を吐き出したのだった。





ざぱり。水面に顔を出し、途端に入り込んでくる空気に噎せながらもどうにか岸にあがった。


「げほッ、げほ…!」

「ごほ…ナオさん、大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃ…ない、わ、よ…!てか、どこよここ!」


叫んだナオさんの声が反響する。
ぽっかりとあいた岩肌の丸い空間。天井には縦長の小さな穴が空いていて、そこから太陽の漏れ日が洞窟の中をきらきらと照らす。
あの湖、実は水の中に小さな水路があって、そこを潜りきるとここに辿り着けるようになっている。

もっとも、ここを知っているのは私とエマだけなんだけどね。


「私の本当の秘密基地…かな」

「…それより、どういうつもりよ。私を助ける?バカじゃないの?あのまま放っておけば、あんたは今まで通りみんなに愛され続けられるのに、みすみす手放すなんて…」

「バカはあんたよ。寝ぼけてんの?それとももう死んだ?」

「はぁ?」

「ちょ、ちょっとエマ…」

「散々引っ掻き回したくせに都合がよすぎるのよ。助けてもらったくせに礼のひとつもなし?それとも何か。助けてもらって当たり前だとか思ってる?ふざけんじゃないわよ」

「ちょい…!ストップストップ!ごめんけどエマ、火焚いてくれない?このままじゃみんな風邪ひいちゃう」

「…わかったわよ」


渋々、エマは私たちから離れていった。隠してあった薪を引っ張り出しているのを横目に改めてナオさんに向き直る。
ぶっすーん、とハムスターよろしくほっぺを膨らませる彼女がなんだか微笑ましくて、思わず口元を緩めてしまった。


「気にしてない、と言えば嘘になる。私、理由もなくベジットさんに殴りかかられたの、結構ショックだったよ」

「でしょうね。……私も、そうだったもの」

「…ナオさんはさ、異世界から来たんでしょ?」

「そうよ。自称神様とか言う奴に、期間限定でトリップさせてやるって言われたから、私は迷わずにこの世界を選んだわ。ずっと好きだったの。みんなは少年漫画だからって言うけど、そんなの関係ないわ。熱くて、ドキドキして、展開一つ一つに胸が踊った」

「うん、それで?」

「たくさんのキャラが動く中で、彼は一際目を惹いたの。登場するシーンこそ少ないけれど、強くて、かっこよくて、圧倒的で、好戦的かと思いきや意外と策略家で…」

「…ナオさんはベジットさんが大好きなんだね」

「そうよ、悪い?」

「うーうん、全然!」

「………あんたは、」

「ん?」

「あんたは、どうなの」

「私?私はねぇ………うん、大好きだよ」

「………そう」


そう言って黙り込んだナオさん。前髪で表情は見えないけれど、さっきまでのトゲトゲしい雰囲気はすっかり消えた。
立ち上がり、エマがおこしてくれた火に当たりながらため息をひとつ。

このまま事が落ち着いてくれればいいと、心底思った。






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