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はち




「…落ち着いたか?」


ぽんぽんと優しく頭をなでてくれるクリリンさんに、エマの肩に埋めていた顔を上げて頷いた。


「ん…ごめんなさい、急に泣き出しちゃって…」

「気にすんなよ。可愛い妹分なんだ、多少甘やかしてもバチは当たんないさ」

「えへ。エマも、ずっと抱き締めててくれてありがとう。服びしょびしょになっちゃった…」

「これくらいどうってことないわ。ほっときゃすぐ乾くもの」

「……で、なんたってあんたはそんなボロボロになってんだい?」


18号さんの言葉にぴくり、肩が跳ねる。いち早くそれに気付いたらしいエマが18号さんを咎めるように見るけど、「どうどう」肩をとんとん、と叩くとほんの少し目じりを和らげた。





「はぁぁあああ!!?!?ベジットにいきなり殴りかかられたぁ!?」


クソでかいクリリンさんの絶叫に危うく耳が臨終するかと思った。
めっちゃキンキン言ってんだけど鼓膜破れたりしてないよね…?


「普段からどうしようもない奴だとは思ってたけど、ここまで救いようのないアホだったとはね。大丈夫よシュエ。私があのパッパラパーの大事なところ再起不能にしてあげるから。二度と子孫が残せないようにしてやる」

「怖ッ…!!」


え、エマがいつもに増して怖いんだぞ…!!お母さんやブルマさんも怒ったらめちゃくそ怖いけど、それとはまた違った恐ろしさ…
精神的にくるやつだわ。


「落ち着きな。…てことは何?あんたは殴られ蹴られしたことにショックだったって事?」

「ううん、そうじゃないんだ。ただ…ベジットさんからあんな風に本気で敵意を向けられたのがさ、思いのほかグサッと来たというか…胸が痛いというか…」

「………やっぱりあいつぶん殴ってくる」

「待てい!!」


あんたいつから過激派になったの!?今日はマジで怖いんだけど!!


「…ベジットさんは理由もなくあんな事しないよ。多分理由か何かがあって…」

「てゆーか、どう考えてもそのナオとか言う女が一枚噛んでるじゃないの」

「でもなぁ…ナオさんなぁ…」


どうにも、私はあの人が悪い人には見えないんだよね。例えば?と聞かれたら返答に困るけど。うん…まぁ、女の勘?みたいな?
そう濁すとエマたちは心底呆れたように深く息を吐いた。

なんで。


「あんたって…」

「そういうところだよ、シュエ」

「え」


今さり気なくけなされた気がしたんだけど気のせいですか。


「シュエねーちゃーん!!!」


じっとり、3人を睨めつけているとカメハウスの外からめっちゃでかい声で呼ばれた。揃って入り口に目を向けると、そのタイミングでばーんッ!とドアが蹴破られんばかりに開け放たれる。
ちょ、壊れる壊れる!!


「いたッ!!シュエ姉ちゃんいたー!!」

「もっと静かに開けな。マーロンが起きちゃうだろ」


マーロンちゃんいたのか。ここにいないってことは、きっと2階なんだろうな。…そう言えば私さ、さっきめっちゃ喚き散らかしたんだけど大丈夫だったの?

転がるように入り口を潜ったゴテンクスとトランクスと悟天の3人は、私を視界に入れるなり猪の如く突進してきた。


「ごふッ」

「姉ちゃんお願い!兄ちゃんとベジットさんを止めて!!」

「俺たちどうしたらいいかわからなくて…!このままじゃあの人が殺されちゃう!」

「ちょ、ちょっと待った!まずは落ち着きなよ!」



矢継ぎ早に喋りまくるから何言ってんのかさっぱりなんだけど!


「俺たち、聞いちゃったんだ」

「聞いたって…」

「昨日トランクスの部屋で3人で遊んでて、俺がトイレに行った時にたまたま通りがかった部屋でベジットさんと悟飯さんが深刻そうに話しているのを見つけたんだ。2人があんな顔してるのが珍しくて面白半分で聞き耳を立てたら、そしたら……」





びゅんびゅんと次々に景色が後ろに流れていく。これ自己最速記録が出ているんじゃなかろうか。


「あいつら、ほんっとどうしようもないわね!!」


耳元でエマが叫ぶ。今回ばかりはエマに賛成だ。まさかあの2人がそんなことを企ててたなんて信じられない。


「シュエがあの女に取られないように殺してしまおうだぁ!?バッカじゃないの!?おもちゃ取り上げられて泣き喚く子供か!!」


…エマがご乱心してるのがかなり気になるところではあるけど、多分これ突っ込んじゃダメなやつ。


「つまり、ベジットさんは全部計画した上で私に殴りかかってきたって事だよね。私があの場から逃げ出すようわざと恐怖心を煽らせるようにして…」

「そーよ!」


あれほど殴りかかってきた理由が知りたかったのに、今では知らなければよかったと心底後悔している。だって、まさか原因が私だとは思わないじゃん。
しかも私がナオさんの事が大好き過ぎて常にそばにいるとか…
勘違いも甚だしいわ!……いや、待てよ。確かにここしばらく、私はナオさんに会いに行ってたよな。けどそれは、ベジットさんがナオさんの事を好きになっちゃったから手助けしようとあれこれ聞き出していただけで…


「バカね。あいつらのシュエに対する執着心を舐めちゃダメよ」

「………………」


エマからの追い討ちに項垂れる私であった。
…けど、本心でベジットさんが消えろだなんて言ってないことに少し安堵する自分もいる。

まぁ、とにもかくにも、今はナオさんを助ける事が先決だ。

エマを背負い直し、私は飛ぶスピードをさらに早めた。






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