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なな




「さて…説明はしてくれるんだろうな」


何を、なんて。きっとこいつには愚問なのだろう。
全てをわかりきったような顔をして俺を睨み付けるベジータにおどけたように肩を竦めてみせた。


「まずは場所を移そうぜ。話はそれからだ」

「…いいだろう」


突き出した腕にベジータの手が乗ると同時に、俺たちはカプセルコーポから瞬間移動した。

そうして俺たちが飛んだ先は、ずっと前にシュエがお気に入りだと言っていたパオズ山の奥まったところにある湖。
あいつが勉強で行き詰った時や1人になりたい時は必ずここにやって来る。そして、そんなあいつのお気に入りの場所に俺を連れてきてくれた時は本当に嬉しくて思わず押し倒しちゃったっけか。

クソ怒られてボコボコに殴られたけど。


「貴様がここに俺を連れてきたということは、あれは全部演技か」

「色々事情があんだよ。クソ…演技でもシュエ殴っちゃった…あ"ー…ぜってぇ嫌われたよなぁ…ツラいわぁ…」

「…話すのか、話さないのか。さっさとしろ」

「ったく…急かすなよ。…数日前にカプセルコーポに異世界から来た女がいるだろ」

「…あぁ、そんなのもいたな」

「あいつがシュエをやたら目の敵にするもんでな。ちょっとばかし脅かしてやろうと思って」


ある日突然やって来た不思議な女。きっと誰もが振り返るであろう容姿を携えた彼女から、その容姿からは全く正反対の性根を垣間見た。

外面はきっといい。誰一人としてナオを嫌う人間はいない。
ただ、時々、さり気なく、媚びを売るような仕草には心底反吐が出る。
他の奴らは気付いていない。俺と…不本意だが、悟飯だけが気付いたナオの本性。ただ1人、シュエだけをひたすらに愛している俺たちだからこそ気付いた事象。

別にそれだけならよかったんだ。ナオが誰に媚びを売ろうが何をしようが、シュエが俺を見てくれるのならどうだってよかった。


…なのに。


「あの女はシュエの心を奪った」


あいつだけはダメだった。他の誰の心を奪おうが興味はなかったが、シュエだけは許せない。許せるものか。ナオが来てから、シュエはつねにナオのそばにいるようになった。
ただでさえ悟飯というハンデがシュエの近くにいるのに、それを凌駕する思いの丈をシュエが抱いてしまったら。


だから俺は考えた。
俺からシュエを奪うあいつに、俺と同じ絶望を与えてやろうって。

与えて。施して。絆されて。

そうしてナオはついに本性を見せた。

あいつがやたらシュエを見て怯えた振りをする理由。聞けば、シュエから嫌がらせを受けていると。

今まではずっとシュエが俺たちのそばにいたのに、急にぽっと出できたナオに俺たちを取られたから報復としてナオに嫌がらせをしているのだと。

そう宣ったのだ。

腹を抱えて笑いそうになったぜ。シュエが無意味に誰かに対して嫌がらせなんて、するわけないだろ。
シュエの何を見ていたんだ。散々俺からシュエを奪っておいて、それしきの認識しか得られなかったのか。


「そこで俺は悟飯に持ちかけた」


シュエを陥れようとしたらしいナオを、逆に陥れる作戦を。
悟飯は二つ返事で承諾してくれた。伏線を貼り、手を回し、使える人間は遠慮なく使う。

都合よく、ナオは俺たちに好かれていると信じて疑っていないらしい。だからそれを大いに利用させてもらってる。
信憑性が増すようにいけ好かないゴジータにも協力してもらった。

シュエにはすごく申し訳ないと思っている。なんせ、身に覚えのない事で一方的な暴力を振るわれたのだから。

あいつが瞬間移動する寸前に見せた顔。戸惑い。困惑。怒り。そして、悲しみ。

これで本当にシュエに嫌われてたら、俺は心底ナオを許せそうにない。


「この俺からシュエを奪ったんだ。このくらいの報いは当然だろうさ」

「…呆れて物も言えんな。何を企んでいるのかと思えば…」

「ベジータにはわからんだろうよ。俺にはシュエしかいないんだ。シュエだけが俺の手を握ってくれた。隣で歩いてくれた。もしシュエが俺に見向きもしなくなったら、俺はきっとあいつを殺してでも手の届くところに閉じ込めるだろう」

「…気色悪い野郎だぜ」


なんとでも言うがいい。
シュエさえそばにいてくれれば、俺は何もいらないんだ。
だから、これは俺への試練。シュエのために、シュエと一緒にい続けるために、俺はシュエを騙すのだ。






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