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ろく




「おいおい、邪魔すんなよ」


灰になる覚悟で体を固くしていたけれど、衝撃は一向に来ず、代わりにベジットさんの腕を捻り上げる誰かの手が見えた。


「ふん、いよいよ頭のネジが全部抜け落ちたか。貴様、誰に手をあげているのかわかっているのか」

「ベジータさん…」


なんと、ベジットさんの気弾を阻止してくれたのはベジータさんだったらしい。よくよく彼の後ろを見ると、肩で息をしているブルマさんが見えた。
あぁ、ブルマさんがベジータさんを呼んできてくれたんだ。

ベジータさんはベジットさんを蹴り上げ、私から彼の手が離れたのを確認すると素早く私を肩に担ぎあげた。

ぐぇ…お腹にベジータさんの逞しい肩が突き刺さって内臓飛び出そう…


「おい、動けるか」

「ど、どうにか…。ありがとう、ベジータさん…」

「礼なんぞいい。さっさとカカロットのところなりなんなり行け」

「でも…」

「グズグズするな!!」

「ひゃ、ひゃいぃい…!!」


こえぇええ…!!そんな怒ることないじゃんよ!!
ぺいッと放り投げられた私はそのままカメハウスに瞬間移動した。

私が飛ぶ寸前、カプセルコーポのベランダに笑いながらこっちを見下ろすナオさんが見えた気がした。





どしゃり。見慣れたカーペットの上に落ちる。


「あだだ…」

「お、おま、シュエ…!?なんでずぶ濡れ…てか、どうしたんだよ!傷だらけじゃないか!」

「エマ、タオルを持ってきてやんな」

「は、はい!」


たったかたと洗面所に走るエマの背中を見送る。てか、なんでエマがここにいるのさ。シュエたんそっちの方がびっくりなんだけど。
しかも馴染んでるし。


「おいシュエ、どうしたんだ?何が………お前…泣いてんのか…?」

「え?」


クリリンさんは何を言ってるんだろうか。私別に泣いてないよ。ほら、よく見てみなよ。
ぱちり、瞬きを1つ。そうしたら、ほっぺを何かが伝う感覚。手を当てると指先がしっとりと濡れていた。


「あれ、なんで…私、悲しいことなんてなにも…」

「シュエ…」


袖で涙を拭うけれど、一向に止まる気配がない。挙げ句嗚咽まで漏れ出るしまつ。
止まれ、止まれよ…涙はお呼びじゃないんだ。私は別に悲しいことなんてなにもないのに。

一生懸命に涙を止めようと躍起になっていると、ぱさりと頭からタオルが被せられた。同時に体に巻き付く細い腕が、冷えきった私の体にじんわりと熱を移していく。


「…あんたは、器用なのか不器用なのかわからないわね。誰かのために泣けるのに、自分のためには泣けないんだもの」

「エマ…?」

「何かあったんでしょ?シュエは誰にも何も言わずに、全部1人で何とかしようとするから。悪い癖よ。…大丈夫、シュエは1人じゃないわ。あの時シュエが私を1人にしなかったように、私もあなたを1人になんてさせないわ」

「う…うぅー…!」


エマが柄にもなく優しいから。ほしい言葉をくれるから。年甲斐もなく叫ぶ様に泣いた。

そうして泣いてるうちに気付いた事がある。
私は、ベジットさんからあんなに露骨な敵意を向けられて、思いのほかショックを受けていたらしい。
おどけたり、ふざけたり、セクハラだってしてきてそれがすごく嫌だったのにも関わらずだ。

なんて都合のいい女だろうと自分がすごく嫌になった。

そんな、少し涼しくなった夕暮れ時の話。





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