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いち






カプセルコーポレーションに空から女の子が落ちてきたらしい。

どこぞの天空の城やねん、と思った。まぁ、その話の発生源は悟飯なんだけど、心底どうでもいいと言いたげに言われてしまってはこっちとしては「あ、そうですか…」と引き下がる他ないよねっていう話。
ちなみに受け止めたのは、お父さんとベジータさんと修行するべくカプセルコーポに来ていたベジットさんらしい。


「その人が妙な事をずっと口走っているらしいんです」

「妙な事とは」

「何だったかしら…確か、トリップ?とか異世界がどうとか…」


通信端末片手に唸るビーデルさんに人知れずぎくり、と肩を揺らした。
トリップて…。もんのすごい聞き覚えのある言葉…というか、実際私が(不可抗力で)体験してしまったアハ体験じゃないか。
まぁ、私の場合茜のおかげでもう一度生をやり直したって感じだけど、悟飯やビーデルさんの様子から、カプセルコーポに落ちてきた彼女は転生とかではなさそうだ。


「一応様子を見に行った方がいいのかな…」

「別にいいよ。それより姉さん、昨日ベジットさんと会ってたでしょ。ダメだよ。あの人は姉さんの事をそういう目でしか見てないんだし、簡単に隙を見せる姉さんなんて一瞬で食べられちゃうんだから」

「そうですよ。シュエさんの優しい所は美点でもあるけれど、あの猛獣たちからするとただシュエさんに付け入る好きでしかないんだから」

「おう…」


というか、それをお前が言うな。ビーデルさんはともかく、悟飯に対して声を大にして言いたい。
腰に回ってきた悟飯の腕を叩き落としつつため息を吐く。「そういえば、この近くにクレープ屋ができたんだって。シュエさん行きましょ!」嬉々として私の手を引くビーデルさんが眩しくて仕方がない。

なんで女の子ってこんなに可愛いんだろう。さっきの黒笑は見なかったことにして。


「…姉さんはビーデルさんばかりにそういう顔する。こんなにも姉さんを愛しているのに僕には笑顔すら見せてくれないなんて、もう生きてる必要なんてないんじゃ…」

「あ…あー…!!なんだかとっても悟飯を抱き締めたい気分だなぁ!抱き締めさせてくれないかなぁー!?」

「ッ!ね、姉さん…!姉さんはやっぱり僕を一番愛してくれているんだね!」

「ぐほッ…」


がばちょ!遠慮なく広げた腕に飛び込んできた悟飯だけど、生憎私より悟飯の方が背が高いから抱き締める、と言うより抱え込まれるみたいになった。
ちょ、おま…!誰が腰をなでまわしていいと言った!?金とるぞ!





* * *


なんだか知らないけど、気が付いたら私はどこぞのラ○ュタ姫よろしく空中ダイブをしていた。
あまりにも唐突すぎて現実逃避をしていたけれど、地面に激突する寸前で誰かに受け止められた感覚がした。

恐る恐る目を開けると、現実世界では絶対にいないはずの私の大好きなキャラ。


「びっくりした…。お前、大丈夫か?」


小さい頃からずっと大好きで、何度も何度も読み返した漫画、ドラゴンボールに出てくる私が一番好きなキャラであるベジットが私を受け止めてくれていた。


「え…えッ…!?」

「おーい、ブルマ。空から女が降ってきた」

「はぁ?バカ言ってんじゃないわよ。どうせどっかから連れてきたんでしょ」

「バカはお前だ。俺は昔からシュエ一筋だっつーの」

「はいはい、そーだったわね」


混乱が混乱を呼ぶ。とは、まさにこの事。ベジットだけじゃなく、ブルマまでもがいる。ここは超クオリティの高いコスプレ会場なの?それとも…

そこまで考えて、私は不思議な空間で出会った自称神様の事を思い出した。





そう、あれは学校帰りの事。いつもと同じ通学路をお気に入りの夢小説を読みながら帰っていたら、ふと私が全然違う場所にいることに気付いた。


「え…!?な、何ここ!どこ!?」

「パンパカパーン!君は歓迎すべき100人目の迷い人!おめでとぐぼぁ!」

「ちょっと!私をここから出しなさい!今日は待ちに待ったドラゴンボールのDVDが届く予定なんだから、早く家に帰らないといけないの!」

「ちょ、まッ…話を…!」

「ポストに不在届けが入ったいたらどうしてくれるの!?」

「だから…!話を聞いて!」


がっくんがっくん見知らぬ青年の襟首を振り回していると、降参と言いたげに私の腕をタップしてきた。仕方なしに解放してやると青年は「なんて乱暴な女子なんだ…」とボヤくから睨みつけてやった。


「で、話ってなによ」

「ふっふーん。実は僕、神様なんだ」

「…やっぱり掴み回すだけじゃダメね」

「待って待って!暴力反対!あのね、さっきも言ったけど、君が過ごす世界と今僕たちがいる世界って隣合ってはいるけど、実は全然違う世界なんだ」

「ふーん。で?」

「本来なら決して交わったりしない世界なんだけど、たまーにその境界線が曖昧になる時があるんだ。そんな時に、今の君みたいにこの世界にうっかり迷い込んでくる子がいるんだけど、そう言う子たちには特別に期限付き異世界旅行をプレゼントしているんだ」

「異世界旅行…?」


なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。
反応した私に露骨に目を輝かせてくる青年が鬱陶しいけれど、ぐっと我慢して次の言葉を待った。


「気になるだろ?気になってしょうがないだろ!?異世界、それはつまり君たちの言葉で言うと“異世界トリップ”になるのかな?それを体験してもらおうってことさ!それに、君は記念すべき100人目の迷子!特別に特典を2、3ほどつけてあげようと思うんだけど、どうする?」


どうする、と聞かれて否と言えるような性格ではない。
なんせ、あの夢にまで見た異世界トリップ!特典まで付けてくれるって言うんなら、行くしかないじゃない!?
ごめんねDVD…!トリップを優先させてしまう私を許して…!


「行くわ…」

「ん?」

「私を異世界に連れて行って!」





そうだ、あの後自称神様にせっかくだから逆ハー補正と、一人で身を守れるくらいの運動神経と、誰もが振り返るような可愛い容姿を特典としてつけてもらったんだった。


「あ、あの…!」

「ん?おぉ、悪いな」


ゆっくりとベジットに地面に下ろしてもらう。わ、わ、私…!ベジットにお姫様抱っこされちゃった!!きゃー!!もう体洗えない…!
なんでベジットが普通にブルマとお喋りしているのとか、色々疑問に思ったことはあるけれど、悟空やベジータとは別人として存在している夢小説とかあるものね!
つまりここはそういう世界!なんて素敵な世界に来ちゃったの、私!


「(てことは、逆ハー補正をつけてもらってる私はベジットたちに…!?)」

「なぁブルマ、シュエは今日来ないのか?」

「残念ね。あの子が来るのは明日よ」

「えー…」

「ていうか、付き纏うのも程々にしないと本気であの子に嫌われるわよ」

「何言ってんだ?シュエが俺を嫌うなんて、億が一にでも有り得ねぇよ」

「どうだか」


…さっきから気になっていたんだけど、シュエって誰かしら。ドラゴンボールを愛して幾数年、ゲームやカードゲームにも手を出した私はシュエと言うキャラの名前を聞いたことがない。

新しいシリーズの新キャラ?でも公式でそんな情報出てなかったし…

というか。


「(ベジットに私の逆ハー補正が効いてない…?)」


夢小説の逆ハー補正なら、顔を合わせるだけで逆ハー主に惚れるというのに、ベジットはそんな素振りすら見せない。
照れてるだけ…?でもまぁ、そうよね。ベジットの性格上、クールだしあぁやって照れ隠しした方が彼らしいというか、こっちも燃えるというか。
それなら、なんとしてもこのカプセルコーポレーションにいさせてもらわなければ、私がこの世界に来た意味がない。


「あ、あの…」

「あ、ごめんなさいね。こいつったらいつもこんな感じで…。あなた、空から落ちてきたみたいだけど、大丈夫?」

「あ、はい。彼が助けてくれたので…」

「不思議なこともあるもんよね。私、ブルマよ」

「東雲ナオと言います」

「ナオさんね。それで、どうして空から降ってきたのかしら?」


…まぁ、そう来るよね。けど、ここで嘘なんて言っても仕方ないのだし、私は正直に全部ブルマに話した。

私が自称神様に異世界に飛ばされたこと。この世界では戸籍がなくて、私は天涯孤独なこと。
神様からの特典と期間限定でのトリップ以外の事を話した上で、ブルマにここに置いてほしいことを頼んだ。

ブルマは私の申し出に一瞬考え込む仕草をしたけれど、次の瞬間には快く快諾してくれた。


やった…!これで心置きなくドラゴンボールのキャラたちと関われる…!
一番好きなのはベジットだけど、ファンとしてはやっぱり悟空や悟飯、ベジータにも会いたいよね!

シュエが誰だか知らないけど、私の異世界ライフを邪魔するのならこっちにだって考えがあるわ!

内心うきうきと胸を弾ませる私をベジットが見ていたなんて知る由もなく。






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