に
どさり。
あまりの衝撃に両手に抱えていた書類が重力に従って地面に落下した。
というか、衝撃的すぎて言葉が出ないのって本当だったんだね。
「……おい、落としたぞガキ」
「……は。す、すみません…」
存外乱暴な物言いに多少意識は戻ってきたけれど、依然として私の目線は彼に釘付けである。拾った傍から書類が腕からすり抜けていく…
「チッ」
ビャッ…!!つ、ついぞ舌打ちが飛んできた…!!
きっと別人なのは頭ではわかっているんだけど、あの顔で舌打ちとかされたら……あー…!!なんか涙出てきたんだけどぉおおお…!!
「ぅ…ごめん、なさい…」
「…………はぁ」
「うッ…」
もう、だめ……早くここから去りたい…。知らない人の目の前で泣き出すとか、いくら子供でもめんどくさいに違いない…
ぼろぼろと溢れてきた涙をそのままにできるだけ急いで書類を掻き集める。……ようとした時、腕にかさばっていた書類がサッと引っこ抜かれた。
「え…?」
「いつまでも泣いてんじゃねぇ。それに、泣きながら集めたって前が見えてなきゃ意味ねぇだろうが」
そう言いながら彼は、未だぽかん、と呆ける私をそのままに散らかった書類をさっさかと集めてくれた。
「ほら」
「あ…ありがとう」
「ん、いい子だ」
ぽすん。彼の大きな手が私の頭に乗り、そのまま左右に揺れた。なんだか胸があったかくなって、引っ込んだはずの涙がまた溢れそうになって、頭から離れていく温もりに思わず縋るように掴んでしまった。
「あッ…!ご、ごめんなさい…つい…」
気付いて、そっと手を離す。
ただ顔が似ているからと、代わりにしようとした自分の愚かさに心底反吐が出そうだと思った。
あの時死んで、みんなと一緒にいられなくなったのは、ただただ私自身が弱くて生き残る力がなかっただけなのに。
「……お前、名前は?」
不意に彼がそう聞いてきた。
勢いよく顔を上げて彼を見上げると、最初と同じ仏頂面のままだけど、なんとなく纏う空気が柔らかくなったような気がした。
「私、シュエ…」
「そうか…。いい名だな」
「!えへ、そうでしょ?冬生まれの私にお母さんが付けてくれたんだ。…ねぇ、お兄さんの名前は?」
「…バーダックだ」
そう言ってお兄さん…もといバーダックさんはこの場から去っていった。
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