いち
ふと気付いたら、目の前にめっちゃでかいおっちゃんがいた。
「え…」
「ふむ、孫悟空の娘か。まだ年端もいかないのに可哀想に」
「あの…」
「しかしどういうわけか、お前さんは裁判の対象外だ。よってお前さんの魂は天国にも地獄にも行くことができない」
「………」
「本来ならば然るべき裁判をうけなければならないのだが、そうだな……。お前さん、このまま地獄で働かないか?」
なんて、かの閻魔大王様にヘッドハンティングされて幾数年。ナメック星にてうっかり死んでしまったらしい私は、獄卒としてせっせと地獄で働く日々を送っていた。
「おはようシュエ、今日も早いオニねぇ」
「あ、おはよう田中さん。えへへ、私が一番下っ端だからね。頑張らないと」
「うんうん、まだ小さいのにえらいオニ。飴ちゃんあげるオニよ」
「あ、ありがとう」
頑張るオニよー!
ぶんぶんと大きく手を振りながら田中さん(仮)は去っていった。
地獄の鬼には名前がない。それを知ったのはつい先日で、名前がないと何かと不便だと感じた私が鬼さんたちに適当に(田中やら中村さんやら)名前をつけて呼んでいるのである。
そしてさっきの田中さんは子供好きなのか、私と顔を合わせる度に何かしらお菓子をくれるおじちゃん鬼なのだ。
なんか、親戚のおっちゃんみたいだよね。
こんな子供の姿の私が地獄でやっていけてるのは、みんながみんなやさしいからなのである。
「…さて、手に大量に乗せられた飴をどうするべきか」
まぁ、とにもかくにも今の問題はこれである。
思いのほかたくさんもらったんだけど、なんせ量が多すぎてポッケに入り切らないのだ。かと言って今すぐに量を減らせるかと言えば、否。
「まいったなぁ………お?」
おー!?あの見覚えのある長髪と尻尾はもしかしてだけどー!?
両手の飴ちゃんを落とさないよう気をつけながら走った。
「おーい、叔父さーん!!」
「叔父さんと呼ぶなと何度も言ってるだろ!!」
そう言ってぷんすこ怒る叔父さん、もといラディッツさん。
初エンカウント時はそれはそれは驚いたものの、どうやら驚いたのは私だけではなく、彼も私が地獄で働いていることに大層びっくりしたらしい。
「まぁまぁ固いこと言わずに。それに実際、ラディッツさんがお父さんのお兄ちゃんなら、私は姪っ子ってことになるんだし」
「それとこれとは話が別だ」
「えー」
「えー、じゃない」
なんせ、当初はお互い警戒しまくりだったけど、今では普通にお話できるくらいにはなったと思う。こうやってつっけんどんしてくるけど、この人は意外と優しいということがわかった。
「ねぇねぇ、ラディッツさん」
「なんだ」
ほら、呼んだらちゃんと返事してくれるし、なんなら私の目線にまでしゃがんでくれるんだよ。
「さっき田中さんからめっちゃ飴ちゃんもらったの。少しわけてあげるね」
「…ふん、仕方ないからもらっといてやる」
私の叔父さんはどうやらツンデレのようです。
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