×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



なな






衝撃にそなえ、少しでも氷山にぶつかる恐怖が和らげばとキツく目を閉じたものの、一向に痛みはこない。
代わりになにか温かいものが体に巻きついているようないないような…


「あッ…ぶね……!」

「お、お父さん…!?」


なんと、氷山にぶつかる寸でのところを超サイヤ人ゴッドの超サイヤ人(青色サイヤ人と呼称)になったお父さんが受け止めてくれたらしい。
ぽかん、と呆ける私だけど、つり上がってるお父さんの眉に気付いてお父さんの腕の中で体を縮こませた。


「う、あの……」

「…シュエ」

「あぅ…………ごめん、なさい……」

「謝るなら、最初っからすんじゃねぇ。…………って、言いてぇところだけど」

「…?」

「はぁ…。おめぇは昔っからそうだもんなぁ」

「わッ」


ぎゅーッとお父さんは私を抱きしめながら頭をぽんぽんなでてくる。かく言う私は何がなんやらちんぷんかんぷんだ。
と、とりあえず、怒られないってことでいい、の…か…?


「助かった。サンキューな」

「……うん」

「ほら、危ねぇからベジータんとこ行っとけ」


体を離し、ぽん、と背中を押される。


「……お父さん」


少し考えてから振り返った。お父さんの目線はすでにブロリーさんに向いていた。


「ん?」

「…ブロリーさん、今はすごくめちゃくちゃしてるけど、きっと悪い人じゃないよ」

「…そうだな」


そう言って今度こそお父さんはブロリーさんへ向かって行ったので、私は大人しくベジータさんたちの元へ戻ることにした。

ブロリーさんのあの目に入ったもの全てを破壊せんとする感じ、どこかで見たことあると思ったら、大猿に変身した悟飯に似ているんだ。
生身のままで大猿の力を使えるようになるのかはわからないけらど、それならブロリーさんの強さにも多少説明がつく。…何より、もしあの状態が大猿だったのなら、彼を正気に戻す術はきっとあるはず。


「貴様…!!そんなに死に急ぎたいか!!少しはあの悪癖もマシになったかと思えば思い出したかのように先走りやがって!!」

「そうよ!!あんたそれで1回チチさん泣かせてんだからね!!忘れたとは言わさないわよこのお馬鹿ッ!!」

「はは……」


まぁ、戻ったら戻ったで目が死ぬんだけどね。


「あらあら、随分過保護ですねぇ」


ギャンギャンと怒鳴り散らかすベジータ夫妻を右から左に聞き流し、やっぱりベジータさんは2児のパパになってから私にまで過保護度が上がったなと再確認するのだった。









ブロリーさんがアホほどのエネルギー波を撃ち込んだせいで氷の大陸が灼熱の大陸へと変貌した。
いや、マジでなんの冗談よこれ。

すっかりいらなくなってしまったウィンドブレーカーを片手にクソ暑い中戦うお父さんとブロリーさんを見つめる。
ふと、何の気なしに2人から目を逸らすと、フリーザがパラガスさんに向けていつぞやに見た事のある紫色の閃光を撃ち放った。それは一直線にパラガスさんの胸を貫く。


「んなッ…!?あいつ、なにやってんの!?」


あまりにも突然すぎる出来事に絶句。そうしてあろう事か、フリーザは言った。


「ブロリーさん!!これを見なさい!ブロリーさん!!お父様が殺されてしまいました!!」


はぁぁああああああ!?

いや、あんたが今殺したんだろうが見てたぞ私は!!
後ろで一部始終を同じように見ていたらしいウイスさんが「はぁ?」みたいな顔してんだけど!
物見事な自作自演のクソしょうもない三文劇場だけど、ブロリーさんの精神を揺さぶるのには絶大な効果をもたらした。


「があぁぁあああ…!!あぁぁああああ!!!!」


悲しげな雄叫びを上げるブロリーさんの周りを風と炎が吹き荒れる。まるで空間がひしゃげてしまいそうな程の力に当てられた私は、今度こそ膝が地面に着いた。
なん、だあれ…あんなんもう大猿どころの話じゃなくね…?てかあれ…


「超サイヤ人…!」


膨大なエネルギーの柱の中からちらりと見えた黄金の髪。お父さんであるパラガスさんの死を目の当たりにしてブロリーさんのタガが完全にはずれてしまったらしい。暴走車両もいいところだ。

そのせいで、青色サイヤ人になったお父さんが押され始めた。


「くそッ!何をグダグダしてやがる馬鹿め!!」


さすがのベジータさんも、1対1で戦うこだわりを捨てお父さんに参戦しに行った。
本当は私も行きたいところだけど、青色サイヤ人になれない私はきっとおじゃま虫だ。


「ブルマさん、ここから離れた方かいいよ。せめていつでも脱出できるように飛行機の傍にでも
…」

「そ、そうね…このままじゃあたしたちまで死んじゃう」


すたこらと急いで飛行機の傍まで戻る私たち。お父さんたちが気になって後ろを振り返るのだけれど、超サイヤ人になってしまったブロリーさん相手に苦戦を強いられているようだった。

ベジータさんの腕を引いて逃げるお父さん。フリーザが佇む岩山をギリギリのところで避けたら、ブロリーさんは今度は目の前にいたフリーザに狙いを変えたらしい。

…完全にとばっちりやん。

お父さんはお父さんたちで瞬間移動でどこかへと行ってしまったし…


「だぁあああああ!!」

「ちょっと!!私はフリーザですよ!?」

「…………」


なんか…さすがにフリーザが不憫に思えてきたんだけど。いや、自業自得なんだけどね!?大方、ナメック星でクリリンさんを殺されて激怒したお父さんが超サイヤ人になったのを思い出して、ブロリーさんにもそれやってみたら成功したけどみたいな感じだと思うけど!


「あー、もう!!」

「あ!こらシュエちゃん!さっきベジータに言われたばっかりでしょ!!」

「ブルマさん!お父さんはきっと何か考えがあってベジータさんと瞬間移動したんです!なら、それまで少しでもブロリーさんを止めないと!」


お父さんは戦いの最中に敵前逃亡なんてしない。何よりも強い人と戦うことに生き甲斐を感じているある意味戦闘狂だもの。青色サイヤ人になってもなお押されるブロリーさんに対抗するために、何か企みがあるのかも。
だったら…


「私は、私が今できることをやるだけ!」


超サイヤ人に変身し、ブロリーさんと巻き込まれたとはいえ半分ボコボコにやられているフリーザの間に割り込む。

両腕を胸の前でクロスし、ブロリーさんが繰り出した拳をどうにか受け止める。


「そ、孫悟空の小娘…!」

「何ぼさっとやられてんの!?あんたはこれくらいでやられるタマじゃないでしょ!」

「ふんッ、あなた程度に助けられるほど落ちちゃいませんよ!!」

「だったらさっさと切り札出せよ!」

「やかましいですね!!」


はぁあ!と私がブロリーさんを食い止めている間にゴールデンフリーザに姿を変えたフリーザ(ややこしい…)。

ブロリーさんの拳を弾き返したのと入れ替わるように今度はフリーザがブロリーさんに向かって行く。フリーザが下がれば今度は私が、逆に私が下がれば今度はフリーザが。
かつてフリーザと戦ったことがあったからか、フリーザの動きが徐々に思い起こされてくる。フリーザも私の動き方を知っているのもそうだけど、持ち前の高い戦闘スキルも相まってタイミングが絶妙すぎて怖いほど戦いやすい。


「「はぁぁあああ!!!」」

「がぁああ…ッ!!…ぅぉおおおおお!!」

「ぎぃやぁあああ…!!」

「うぁぁあッ!!」


けれど、私が超サイヤ人になろうがフリーザがゴールデンフリーザになって私と2人がかりになろうが、歴然な力の差にあっという間にぶちのめされた。


「うわぁああああ!!」

「フリーザ…!!」

「だぁああああああ!!!」

「ッ…!!がッ…」


一瞬でもよそ見をしたせいで、ブロリーさんが至近距離で放ってきたエネルギー波がモロに直撃し、背中から岩山に突っ込んだ。
息が詰まり、咳き込むと吐き出される血に舌打ちする。
何より…


「(やばい、今ので右肩が外れた…!)」


この期に及んで関節が外れるという不手際に本気で泣きそうになった。うん年生きてきて初めて関節抜けたんだけど…!私自分で入れれないのにー!!

けど、肩が外れていようが血を吐こうがお父さんとベジータさんが戻ってくるまで堪えなければいけない。
ハンデが生じてしまったけど、これが諦める理由にはならないのだ。

どうにか埋もれた岩山から抜け出し、気を貯める。これやるのだいぶ久しぶりだけど…!!


「散画龍…八岐大蛇ー!!」


今あるだけの気を全部練って、8頭の龍へ姿を変える。私を中心に蠢く青い8頭の龍は、猛々しい雄叫びをあげブロリーさんへ突っ込んでいった。


「ぐぅうぅ……!がぁあああああああああ!!!」


だというのに、ブロリーさんはそれを上回るほどの膨大なエネルギー波を放ち、龍たちをまるで塵かのように吹き飛ばした。

嘘やん……即席とはいえ私の気プラス元気玉も兼ねてんのに、あんな蝋燭の火を消すみたいに……


「マジ、かよ…」


かくん、体の力が一気に抜け落ち下降する。もはや空を飛ぶ気力も気も残っていないわけだけど、これ地面にぶつかったら痛いんだろなぁ…。なんで岩肌になっちゃったんだか。雪ならまだ何とかなったのに。

迫り来る地面に衝撃に備え、固く目を閉じた。






prev next