ろく
お父さんとブロリーさんの戦いは依然激しさを増し、空間どころか大地も揺るがすほどであった。
超サイヤ人へと姿を変えたお父さんだが、存外短いスパンで超サイヤ人ゴッドとなった。お父さんの気で押さえ込まれ、動きが止まったブロリーさん。
うわ、あれ私もやられたことある。めっちゃ屈辱なやつだ。
「…奴の気が落ち着いてきた」
「お父さんのある意味得意技だよね、これ。言い聞かせてるんだと思う」
まぁ、大体失敗に終わってるんだけどね。
どういうことだ、と私に視線を投げかけてくるベジータさんだけど、次の瞬間に再び爆発的に膨れ上がったブロリーさんの気を感じて察したらしい。
「詰めが甘いな」
「あはは…」
圧倒されそうになっているお父さんはブロリーさんを押さえ込もうとするけれど、代わりにさっきお父さんがした事を逆手に取られたようで、今度はお父さんの気がブロリーさんに押さえ込まれた。
「や、やばい…!フラグ建てた…!」
どうにかブロリーさんの気から逃れたお父さんは合気道の要領でブロリーさんを背負い投げる。その時の振動がまるで地震のようで大きく大地を揺るがした。
割れる大地。転げそうになるのをどうにか踏ん張った私は、次に見た光景に思わず絶句した。
「ぐぁぁぁああああああああああ!!!」
ブロリーさんはお父さんの足を掴みあげ、あろう事かどっかんどっかんとめちゃくそ地面に叩きつけていたのだった。その度にお父さんの口から悲痛な叫びが鼓膜を揺らす。
「そんなッ…超サイヤ人ゴッドのお父さんをいとも簡単に…!?」
「チッ…何してやがる、カカロット…!」
ベジータさんもお父さんも超サイヤ人ゴッドにまで変身して、かく言うブロリーさんはニュートラルのまま。だのにあの圧倒的な力は一体どこから来ているのか。…いや、きっとあれがブロリーさんの持つ潜在能力なんだろう。あの悟飯のような。
……何はともあれ、あのままじゃお父さんが殺されてしまう。
「…ブルマさん、私の上着預かってて!」
「へ!?ちょ、シュエちゃん!?どこに行くのよ!」
「何寝ぼけたことをしてやがる!!戻ってこい小娘!!」
「おやおや」
ウィンドブレーカーをブルマさんに押し付け空を翔る。後ろでベジータさんの怒鳴り声が飛んでくるが、それをひたすら無視をして私はついにブロリーさんの前に降り立った。彼の視線が私に向いた。
「ぐぬぬッ…」
「ッ…なんつー圧力…」
面と向かったからこそわかる、ブロリーさんの力。ただ目の前にいるだけなのに、それだけで気圧されそうになる。今にも地面に着きそうな膝を叱咤してブロリーさんに向き直った。
「あは…そう怖い顔しないでよね…」
「うぅ…!!」
「シュエ、よせ…!おめぇじゃ相手になんねぇぞ…!!」
「そんなのわかってる!けど…!」
私じゃブロリーさんに叶わない事くらいわかってる。けどそうじゃない、そうじゃないんだよ、お父さん。
誰にでも、譲れないものってあるんだよ。
「…私さ、力こそあなたに叶わないけれど、逃げ足だけは早い自信があるよ」
「ぐぬぅ…」
「……私を捕まえてみろよ!」
地を蹴り、空に飛ぶ。そんな私を追いかけてくるブロリーさんにほくそ笑んだ。
そう、それでいい。少しでもお父さんからブロリーさんを離して、体力を回復してもらうんだ。仙豆がない分無茶はできないけど、ガチンコ対決じゃなければ私にも勝算はある。
勝てる気はしないけど、負ける気もしないよね!
「こっちだよ!」
できるだけブロリーさんを煽って私しか視界に入らないようにする。
結構フルスピード出してるけど、それでも徐々に追いつかれそうだ。
「だぁあああああ!!」
「ッ!?」
飛んできたいくつもの気弾を寸でで避ける。するとほんの真後ろに気配。頭で考えるよりも先に体を動かして避けると、すぐ鼻の先を丸太のような腕が風を切った。
「うぅぁああああ!!」
「チッ…!どりゃぁあああ!!」
繰り出される拳を全部ギリギリで避ける。ブロリーさんが振り抜いた拳の後に一瞬だけできた隙を見逃さず、渾身の蹴りを背中に入れた。
しかし、よろけもせずにすぐさま追撃を寄越してくるあたり、本当に私の攻撃が通用してないことが証明されてしまった。
散画龍を撃ち込んで目くらましといきたいところだけど、そんなわずかな時間もブロリーさんはくれない。
もはや感覚だけで全ての攻撃を避けきった私は、昔に精神と時の部屋で習得した瞬間移動をした。
「うぉ…!?」
「こっちだよ!」
「!!」
再びブロリーさんの注意が私に向き、猛スピードで飛んでくるブロリーさんに背を向け、氷山の上を翔け回る。
…けど、しばらくまともな戦闘なんてしてこなかった私の体力はすでに限界だ。スピードも落ちてるし、このままじゃ煽りに煽ったブロリーさんにぶちのめされ…
「うぉおおりゃあああああああ!!」
「がッ…!」
どごーん!
不意に右側部にとんでもない衝撃が走る。あまりの痛さに息がつまり、咳き込むと内蔵が傷付いたのか、少量の血を吐いた。
どうやら追いついたブロリーさんにぶっ飛ばされたようだ。どうにか氷山から抜け出し、逃走を試みるものの今ので完全に私のスイッチが切れてしまったらしい。
足を鷲掴まれ、いつぞやのお父さんのように投げられた。
体力の限界を迎えた体は受け身さえとることができない。氷山にぶつかる衝撃にそなえ、少しでも恐怖が和らぐよう目をきつく閉じた。
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