さん
「ところで、なんでブルマはドラゴンボールを集めてたんだ?」
フリーザより先に最後の1つのドラゴンボールを手に入れ、なおかつパクられたものを取り返すために氷の大陸に向かっている私たち。だけどその道中、デリカシーがない代表のお父さんがブルマさんにそんなことを聞いた。
「……別になんでもいいでしょ」
「えー、教えろよー」
「……若返ろうとしたのよ。…5歳くらい」
「そんなくだらねぇ事でドラゴンボールを!?」
「やかましい!あんたたちサイヤ人にはわからないわよ!シュエちゃんなんてもうすぐ30って言うのに、見た目ただの女子高生じゃない!詐欺よ!!」
「えぇぇー…」
なんつー理不尽。
「なんで5歳なんですか?どうせならもっと…」
「一気に若返ったら不自然でしょ?」
ブルマさんいわく、一気に若くなりすぎるとご近所さんたちに整形をしたのでは?なんてドヤされるのが嫌なのだそう。
まぁ、女の人って周りの目とか気にするよね。サイヤ人は年齢の割には全然老けたように見えないし、かく言うお父さんやベジータさんだっていい歳のくせして見た目めっちゃ若いしね。
……………あ。
「ん?どうしたシュエ?」
「い、いや…何でもないけど…」
「そーか?」
一瞬でも、もしかしたらフリーザもブルマさんみたいに若返りたいだか身長を伸ばしたいだかのしょうもない願いのためにドラゴンボールを集めているのでは?なんて思ってしまった。
*
氷の大陸に行く前に事前調達をするらしい。道中立ち寄った街で防寒着を購入するべく、私たちは近場の服屋に駆け込んだ。
「氷の大陸っつーことは、すっげーさみーんだろ?でもってフリーザがいるとなると…」
「動きやすくて、且つ温かいのがいいね。これなんてどう?」
見つけたのは丈の長くて裏起毛のウィンドブレーカー。裾の左右に短い切れ込みがあるから、大きな動作をしても動きやすいと思う。私これの紺色にしよーっと。
「シュエちゃんはそれでいいの?」
「はい!安いし、もし戦うようなことがあってボロボロになっても大丈夫そうなのってこれかなって思ったから」
「ちゃっかりしてるわねぇ」
「えへ」
「ふーん…じゃあオラもこれでいいや!」
そう言って手に取ったのは、私と色違いの青いウィンドブレーカー。お父さん、洋服に頓着ないもんね。
「ねぇ、それよりベジータを見てやってくれない?あいつ、あっちへうろうろ、こっちへうろうろして一向に決まらないのよ」
びッ。ブルマさんが指さす方向に目を向けると、ゴソゴソとあちこちの棚を物色しているベジータさんがいた。
「てか、そもそもあそこレデースしか置いてないし…」
「あたしも自分の見繕ってくるから、決まったらこのカゴに入れといてね」
「私とお父さんのは自分で買いますよ」
「今更遠慮なんてしないでよ!わかった?」
「ふふ、ありがとうございます」
ブルマさんといったん別れ、私はベジータさんのところへ足を向ける。
相変わらず頓珍漢なもの選んどるな。
「ベジータさん、決まったの?」
「………お前には関係ない」
「どうせ悩みすぎて自分で決められないんでしょ。私知ってんだから」
「……………」
はーい、睨みつけてくるってことは正解しましたー。「ちなみにここは女物しか置いてないよ」「………………」ベジータさんの腕を引っ張ってさっきまで私とお父さんが見ていたエリアに向かう。何着か適当に見繕ってベジータさんに当てたりしている間、彼は思いのほかされるがままであった。
「んー、ベジータさん的にはやっぱ動きやすさ重視の方がいいんでしょ?」
「…あぁ」
「どうせ脱ぎ捨てるんだか破くんだかするから、高いのはやめようね。あ、これとこれならどっちがいい?」
「………」
ぴッ。と指さしたのは私が先程選んだウィンドブレーカーの色違いだった。なんやねん、3人お揃っちみたいになったやん。仲良しか。決して口には出さないけども。
「ブルマさんが、気に入ったのがあればこのカゴに入れてていいって言ってたよ。そろそろブルマさん探しに行こ」
「…………」
………………なんか、さっきからベジータさんが怖いほど黙りなんだけど。普段やかましい人ほど急に静かになったら余計に怖い。ほんとやめて。
人知れず静かなベジータさんに戦慄いていると、急に手を伸ばしてくるから条件反射で目を閉じてしまった。
こーいうところが鈍ったなって思うわ。
「…………でかくなったな」
ぽん、と頭に乗せられた手。
私がギリ聞こえるくらいの声量で呟いたベジータさんは、放心する私からカゴを引っ手繰ってさっさと歩いて行ってしまった。
「……………………………………え?」
今のは夢か幻か。
▼ ◎