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どこからともなく現れる鬼を斬っては捨て、斬っては捨てをすること2日。
あの後、善逸くんが静かなのは最初だけで、ひとたび鬼と遭遇しようものなら絶叫、懺悔、言葉にならない汚い高音のオンパレードだった。


「イィヤァァアアアアー!!!!」

「、」


……ずっと、こんな感じ。
いやまぁね?善逸くんを守りながら鬼を蹴散らすのくらいはなんてことないんだけど、問題はそれじゃないんだ。この子のこの絶叫。これにつられて鬼が集まってくるんだわ。


「きひッ、叫び声が聞こえて来てみれば、小娘と小僧がいるじゃないか!久しぶりの人肉だなぁ!」

「ギャーーッ!!ふ、増えた…!!しかも異形じゃねぇかよ…!」


私の背中に隠れるようにしがみつく善逸くんに半目を送る。
…けど、彼が怯えるのも無理はない。なんせ、やって来た鬼は今まで退治していた人たちとは比べ物にならないほど大きくて、爪は長く鋭い。口裂け女のようにがばり、と避けた大きな口からはとめどなく涎が地面に滴り落ちる。そしてさらには、その唾液に酸でも混じっているのかじゅうじゅうと煙を上げながら地面が溶けている。

うーわー…マジか…

ため息を1つ吐き出して異形の鬼に向けて刀を構え直す。
…その時に、腕に嫌な痛みが走った。


「…善逸くん」

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ無理ッ!今度こそ無理死んだ詰んだ!」

「善逸くんッ!!」

「ひゃいぃッ!?」

「悪いんだけど、もう君を守って戦えないかも」

「えッ!?そそそそんな…!俺今シュエちゃんに見捨てられたらマジで死んじゃう!お願い見放さないでぇえ…!」

「違うそうじゃなくて!今の私、両手の握力がほぼないんだよ」

「え…」


この2日間、ほぼ休みなしでの連戦で思いのほか腕に疲労が蓄積されているらしいのだ。体力的には問題はない。ただ、扱い慣れていない刀を握りっぱなしだったから正直刀を掴む力がない。今はほぼ気力で握っているようなものだ。
おまけに鬼はじっちゃんから借りた日輪刀なる特別な刀でしか殺せない。だから刀を手放すわけにはいかない。

…けど、このまま善逸くんを庇ってあの異形の鬼と戦えば、確実に私たちは喰われる。


「だから逃げて。今すぐ。振り返らずに」

「で、でもシュエちゃんを置いて行けない…!」

「いいから行……ッ!」

「おわッ!?」


咄嗟に善逸くんを抱えてその場を飛び退いた。さっきまで私たちがいた所は大きく抉れていて、あのままあそこにいたら間違いなく死んでただろう。


「喰われる寸前だってーのにお喋りたァ、随分余裕じゃねぇか!」

「チッ…!」


次々と繰り出される爪をほぼ紙一重で避けていく。相変わらず善逸くんは叫びまくっているが、抱えたままじゃこの子がかわいそうなのと、ハンデが大きすぎてこのままじゃいつか取り返しのつかないことになるような気がして…


「善逸くんごめんッ!」

「えッ…うわぁああ!!」


私と鬼から離れた場所に向かって彼を投げた。


「そのまま走ってッ!!どこか、できるだけ遠くに逃げろ!!」

「でも…!!」

「行けッ!!」

「お前中々やるなぁ!おもしれぇ、俺に怯えず面と向かって立ち向かうお前はじっくりゆっくり喰ってやる!!」

「ぐぁあ…!」


鬼から吐き出された酸の唾液(恐らく血鬼術)が右腕に降りかかる。咄嗟に上着を脱ぎ捨てインナー1枚になるが、私が思っている以上にあの唾液は強力らしい。動かせないほどじゃないけど、物見事に爛れてしまった。

そのせいでいよいよ限界を迎えたらしい私の手から、じっちゃんの日輪刀がすっぽ抜けた。


「し、しまっ…うぐッ…!」

「へへ、捕まえたぜぇ?人間風情がよく頑張ったもんさ。けどもう諦めな。てめぇはもう俺に喰われるしか道はねぇんだよ。それに、せっかくてめぇが逃げ道作ってやったのに、かわいそうに、震えて動けないらしい」

「なッ…!?」


鬼の言葉に振り返ると、善逸くんはさっきと同じ場所で死人のように顔を真っ白にさせて立ち尽くしていた。ま、まだおったんかい!!さっさと逃げろって言ったのに…!


「善逸くん何やってんの!?馬鹿なの!?」

「ッー、ー…!」

「あっはっはっは!捕らえられてなおてめぇはやくあいつの心配をするか!!だが残念だったな。そいつがどこに行こうがどこへ逃げようが、てめぇを喰ったあとに必ず見つけだして喰ってやるよ!」

「ふがッ…」


不意に、善逸くんがフラァ…と後方に倒れていった。やけにゆっくり倒れるのを呆然と見送る。どうやら恐怖のピークに達したらしく、気絶した模様。

…嘘だろ。

てゆーか、え?気のせいだろうか、よく見たら鼻ちょうちんが出てるような…え?嘘マジか。マジなのか。この状況で寝るのか。やべーなあいつ。


「女はなァ、生きたまま頭から喰うのがいっちばんうめぇんだよなァ…」

「ちょッ…離せ…!」


鬼の裂けた口ががばり、と私を食べるべく大きく開いた。ずらりと並ぶ鋭い歯にさすがの私も恐怖がせり上がってきて、自然と呼吸が早まる。目の前に迫る。

もう、ダメかもしれない…

“諦め”の文字が脳裏を過った瞬間。


「雷の呼吸…壱ノ型、霹靂一閃」


僅か一瞬。視界の端を稲妻が走る。気付けばすぐ目の前にあった鬼の口は消えていて、力の抜けた鬼の手から地面へと落ちた私は断面から吹き出る血飛沫を呆然と見上げていた。

鬼の向こうには、低い姿勢で構える善逸くん。

…一体、何が起こったのだろうか。
サイヤ人の私でも一瞬を捉えるのがやっとだった。抜刀も納刀もしているのがわからなかった。稲妻の一閃。残る軌跡の残像を見つめ、不覚にも抜けた腰を引き摺って地に伏せる善逸くんの所まで這う。



「善逸くん…善逸くん、大丈…夫……」

「ぐがー、ごぉー、ごごー」

「…寝てる」


なんか、めちゃくちゃ気持ちよさそうに寝てる。さっきまでのあれは何だったのかってほど寝顔が安らかだった。…ほんと、あんたって奴は…


「……あれ、」


不意に視界がぐるん、と回る。な、なんだこれ…目の前がぼやけるんだけど、フラフラするし…
どさり。体が吸い寄せられるように地面に倒れた。目の前に善逸くんの寝顔がある。夜が明けたのかゆっくりと周りが明るくなってきた。


「…も、だめ…」


意識が遠のく寸前、最後に見たのは優しく私たちを包み込む太陽の光だった。






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