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さん






鬼殺隊とは、この世界の政府から正式に認められていない鬼の討伐部隊。だけど古くから存在しているようで、日々鬼狩りを生業としている。

しかし、誰がこの鬼殺隊を率いているのかはわからないらしい。
まぁ、こういうのって下っ端より上層部の人間が詳しいって言うのは鉄板なんだけどね。


「ふぁ…めっちゃ咲いとる…」


見渡せど藤、藤、藤。あまりに幻想的で思わず足が止まる。こんなに藤が満開になる季節じゃないから、そこはちょっと気味が悪いって思ったり思わなかったり。けど、何か特殊な育て方があるんだろう。
再び足を動かし、今度こそ階段を全部登りきる。そこはちょっとした開けた場所になっていて、すでに大勢の人たちが集まっていた。


「(へぇ…鬼殺隊に入りたいって人は結構いるんだなぁ)」


ぽけぇっとその辺の柱に寄りかかって眺める。いろんな人がいるんだなぁ。あ、あの赤みがかった髪の子、珍しい色だ。うお、めっちゃ目つき悪いぞあいつ…。あ、女の子。めっちゃかわいい。あんな子も鬼殺隊になりたいんか。…てか、あの金髪の子、今にも死にそうだけど大丈夫なんだろうか…

なんかブツブツと言ってるような気がする金髪の子を若干引きながら横目で見ていると、白髪と黒髪のおかっぱ頭の子が2人やって来た。

こ…こけし…?


「皆様、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます」

「この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込められており、外に出ることはできません」

「山のふもとから中腹にかけて、鬼どもの嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」


へぇ、鬼って藤の花が嫌いなんだ。だからこんなにたくさんの藤があるんだね。納得。


「しかし、ここから先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。この中で七日間生き抜く」

「これがこの最終選別の合格条件でございます」


2人の説明を聞く限り、藤の花が咲いていないこの中で七日間生き抜かなければいけないらしい。ただ生き抜くだけなら簡単な話だけれど、さっきも言ったようにここは鬼が普通に跳梁跋扈しているところである。その中で七日間、いつ襲い来るかわからない鬼に警戒しながら生き永らえなければいけないのだ。
けれど、逆に言えばここで七日間生き残れないようじゃこの先鬼殺隊に入れたとしても生きていけないということだ。

これは…


「めっちゃ精神に来る奴じゃん…」

「「では、行ってらっしゃいませ」」


そうして始まった最終選別。私は皆が進む後に続き、山の中へ足を踏み入れたのだった。





鬱蒼としている木々のせいで、月明かりが地面にまで届かない。視界は不良。けど、私は山育ちなのだ。こんな暗闇くらいどうってことない。それに…


「(あっちに1人…向こうに…3?いや、2人は鬼で1人は人間だ)」


気を探る力は健在なのだ。おまけにじっちゃんとの修行のおかげで鬼か人間かの判別もつくようになったから、本当にあの人には頭が上がらない。

とりあえずは早く日が昇るであろう東に向かって進む。が、目の前に現れた1人の鬼。


「久方ぶりの肉だぁ…!しかも女!やった、女の肉は柔くてうまいんだ!」

「へぇ、そうなんだ」

「そうさ!あぁあああもう我慢できねぇ…!喰わせろぉおおおお!!!」


みっともなくだらだらと涎を垂れ流したまま突進してくる鬼に全力で顔を顰めた。うぇ、マジか…涎はちょっと勘弁だなぁ…
鎌のようになっている腕を振り上げた鬼。私はその腕をつかみ上げ、握りしめる。


「いでででで!!腕ッ!!折れる折れる!!てか、え!?お前人間だろ!?力強ッ!!」

「単純な力比べなら鬼になんて負けないよ。だって私…」

「ぐぎッ」


鬼に足払いをかけ、倒れた横っ腹を上に蹴り上げる。呼吸を整え、刀を抜き、下から上に向かって一閃。


「宇宙最強の戦闘民族なんだから」


―風の呼吸、陸ノ型 黒風烟嵐


「ま、半分ではあるんだけどね」


ぼとり。地面に鬼の頸が落ちる。瞬く間に黒い灰になって消えていく鬼を見つめて、思った。
…やっぱり、鬼だろうが何だろうが、気持ちのいいものじゃないな。セルとかフリーザって、こんなことの何が楽しかったんだろう。

…まぁ、一生わかることはないと思うけど。

消えゆく鬼に軽く会釈をして、私はその場を去った。





「イ"ィ"ィ"ヤ"ァ"ァ"アアアアッ!!!!」


3、4日ほど経った頃だろうか。木の上で休息をむさぼっていた私の耳に何やら濁点の付いたひどく汚い悲鳴が飛んできた。てか、え、マジか。悲鳴に濁点付いてんの初めて聞いたわ…じゃなくてよ。


「聞こえちゃったもんなぁ…」


耳に届いてしまったからには、見捨てるだなんてそんな薄情なことはできない私であった。
深くため息を吐いて、軽く刀を確認してから木から木へ飛び移る。

気を辿って行けば、1人はきっとさっきの悲鳴の人、後は…


「げ、3人に追いかけられてんの…?」


一体鬼に何をしたんだ。果てしない疑問である。
悲鳴の根源に辿り着けば、入り口のところで死にそうになっていた金髪の子が3人の鬼に追いかけまわされている場面に遭遇した。うぉ…リアル鬼ごっこ…やだなぁ…


「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!絶対死ぬ無理もうダメ死んじゃうぅぅうううう!!!!」

「待ちやがれクソガキ!」

「すばしっこい奴め…!絶対に喰ってやる!!」

「イヤァァアアアアアアッ!!!」


え、何あれ面白いんだけど。
無理だとか死ぬとか言ってる割に、逃げ足は速いのか悉く鬼の攻撃を避けている。多分本人は文字通り死に物狂いだから気付いていないんだろうけど、逆にすごいよね。


「おぼぼぉ…!」

「(あ、こけた)」

「へ、へへ…やっと追いついた…!手間かけさせやがって!!」

「ヒェッ」

「観念しろやぁあああああ!!」


おわあああまずいまずい!!面白くて見てたら追い込まれてるんだけど!!
咄嗟に突き出した手から鬼たちと金髪少年の間に向かって気弾をぶっぱなす。三方向に吹っ飛んでいった鬼たちの隙を見逃さず、地面に降り立ち踏み込む。まずは目の前の1人!


―風の呼吸、壱ノ型 塵旋風・削ぎ


「がぁああああ…!」

「くそッ…舐めやがって!」


左右から飛び掛かって来た2人の鬼。頸の位置をしっかり確認して、呼吸を整える。


―風の呼吸、参ノ型 晴嵐風樹


狙い通りにすっぱりと切れた鬼たちの頸が降ってきて、間もなく灰へと帰す。儚いなぁ…世知辛いなぁ…この人たちは、元々人間だったんだろうに、不幸にも鬼になってしまって…
人間に戻せる方法とか、ないのかな。


「あ…そうだ。ねぇ君、大丈夫?怪我とか…」

「結婚してくださいッ!!!」

「………え」


がっしり、私の両手を握りしめながら顔の穴という穴から全部出ている金髪少年は、どうやらさっきのでとち狂ってしまったらしい。
私も何がなんやら頭が現実逃避をしているので、とりあえずにっこり笑っておいた。


「出直せ」

「なんでだよぉおおおおお!!!」


薄暗い藤襲山に悲痛な絶叫が響き渡った。夢に出そう。







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