向日葵を目印にして
四次試験が始まって早3日。未だに僕のターゲットは見つかっていない。とゆーか、人っ子1人いない。あぁ、初日のキルアくんは別として。
鬱蒼としている森を歩く。川から随分離れたけれど…
「いないですね…」
こうも見つからないとなると、僕としてはげんなりしてくるんですよね。僕、こう見えて案外せっかちなんですよ。顔さえわかれば他の受験生と取引なりなんなりで来たのだろうけど…うまくいかないものだ。しかも道中餌を上げないでくださいなんて書かれた看板の下に干されている約2名を発見してしまったし。あれはさすがに見て見ぬ振りしましたよ。僕だけじゃ処理しきれないんだもの。しかもうち1人がトンパさんだったって言う…
僕何も見てませんから。
あぁ、そう言えばさっき197番のプレートを拾ったんですよ。拾ったというか、突き刺さったと言うか…。しゃがみこんだ瞬間目の前の木にぶっ刺さったんですよね。驚いたのなんの。なぜプレートが飛んで来たのかは定かではありませんが、これで今の僕の持ち点は4点。こうなれば残りの2店分を地道に集めるしかなさそうだ。どうにも面倒だが、頑張るしかない。
……そう思ったのが数分前。
「………」
「………」
「………」
「………」
今はなぜか頭の眩い方と無言で見つめ合っていると言う何とも奇妙な事態に出くわしております。てゆーか、あなた誰ですか。
「…なぁ」
あ、しゃべった。
「俺、あとプレート1枚で6点分集まるんだよな」
「はぁ……で?」
「いや、で?じゃねーよわかるだろ察しろよ」
「僕そんな高度な技術身に着けていないものですから」
なんなんだろうこの人。早く立ち去りたい。適当にあしらってどこか行きたい。こう見えて僕忙しいのに。でもこの人5点分のプレート持っているんでしたよね。僕的にはなるべく穏便に済ませたいのですよ。かといって僕の所持しているプレートを彼に譲るのかと聞かれればそれは否ですけど。
つまるところさっさとぶちのめしてプレートかっぱらいたいです。おっと本音が。
「心の声ダダ漏れだし」
「えぇ…。あなた、僕のプレートがほしいんですか?」
「聞けよ」
頭を押さえて項垂れた瞬間、彼の名誉とあれこれのために言いませんが、頭の何かが太陽の光に反射して非常にまぶしかった。危うく目が眩むかと思いましたよ。
「俺は忍者だからな、お前みたいな女子供を拷問するのは気が引けるが、それでも痛い目見ることには変わりねぇぜ?」
「…あなたの所持プレートは5点分なんですよね?」
「だから聞けって…。あぁもう…そうだ、そうだよ」
ついに疲れ切ったように両手両膝を地につけて項垂れる彼。一体何に打ちひしがれているのかは定かではないけれど、まぁいいや。放っておこう。
5点分…。つまり彼自身のプレートとその他1点分のプレートが合わせて3枚か、1点分のプレートが5枚か。多分前者だと思うけれど。そうなれば彼はターゲットのプレートを手に入れれてないと言うことになる。僕のプレートは197番と自分の406番。
…取り換えっ子してくれるでしょうか。
「あの、あなたの持っているプレートの中に198番はありますか?」
「あ?あぁ、あるけど…」
「ください」
なんて幸運だろう。まさか198番とこんなところで巡り合えるだなんて思ってもみなかった。嬉々として近づこうとした僕に彼から牽制の眼差しを寄越された。
「おっと、誰もやるだなんて言ってねぇぜ?」
「なぜ?」
「なぜってそりゃ…俺が損をするに決まってるからだろ!?」
「じゃあこのプレートと取り換えっこしましょう。はい、どうぞ」
「だからお前人の話をだな……って」
197番のプレートを彼に突き出すと、彼はまじまじとそれを見つめた後198番のプレートを差し出した。それには僕も思わず目が点である。なぜなら引ったくられてそのまま逃げられてしまう覚悟があったから。
戸惑ってばかりで受け取ろうとしない僕にしびれを切らせたのか、彼は197番のプレートを引ったくり、代わりに198番のプレートを僕に押し付けた。
「えと…いいの、ですか…?」
「はぁ?お前が取り換えっこしようって言いだしたんだろ。言い出しっぺが何言ってやがる」
「いえ、本当に取り換えてくれるとは思わなかったので…驚いたと言うか、その…」
「197番、俺のターゲットなんだ。だからそれはもういらねぇ」
彼のターゲットは197番…。つまり、お互いがお互いのターゲットのプレートを偶然持っていたと言うことか。合点の行った僕はポンッと手を叩いた。
「とんだ偶然ですね」
「本当だな。これでお互い無事に6点分を集められたと言うことだ」
「はい」
「あとは期日を待つだけか。うん、取り換えっ子ってやってみるもんだな」
「そうですね。せっかくの6点ですから、頑張ってプレート守り抜きましょうね」
「おうよ!」
プレートありがとな。お前も取られないよう頑張るこった。んじゃな!
そう言って音もなく去って行った彼はとても忍者をしていた。あ、そう言えば名前知らない…
まぁ、いいか。
それにしても、いい人だったな。案外見かけによらないらしい。
*****
《ただ今をもちまして、第四次試験を終了いたします。受験者の皆さんは、速やかにスタート地点へお戻りください》
木の上でうたた寝をしていると、そう遠くない場所からそんな放送が聞こえた。ぐっと背伸びをすればポキポキといろんなところの関節が鳴った。やっぱり長時間同じ体制でいるのは辛いですね。それにしても、今から一時間以内にスタート地点に戻らなければいけないのか。僕が拠点にしていた川は割と離れた場所にあるからなぁ。まぁ、走れば間に合うでしょう。
木から飛び降りて森を歩く。やはりと言うかなんというか、他の受験生はさすがにこの付近にはいないようだ。僕だって6点分を集めた時点で、スタート地点の近くで隠れていようと思ったのだけれど、一度だけ僕がターゲットだと言う男性に襲われまして(問答無用で返り討ちにしましたけど)、以来ずっと川の近くで過ごしていました。恐らくスタート地点付近には、すでに6点分を集めた他の受験生もいたはず。万が一交渉用にとプレートを取られてしまっては元も子もないのだから。
まぁ、かくいう僕は7点分持っていますけど。
「あ、ヘリオだ!」
ようやっとスタート地点にたどり着くと、そこにはもう他の受験生たちが集まっていた。どうやら僕が一番最後だったみたいだ。横から飛びついてきたゴンを受け止めつつ、駆け寄って来た受付のお姉さんにプレートを見せた。
「406番ヘリオさん。6点分確認しました、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「遅かったじゃないか、ヘリオ。何してたんだ?」
「そうだよ!もしかしたらプレート取られて失格になっちゃったんじゃないかって心配してたんだから!」
「それは…すみませんでした。別段何かをしてて遅れたと言うわけではありませんよ。少しのんびりとしていたと言うか…」
「マイペースだな、お前」
「わッ」
僕にへばり付くゴンを剥がしていると突然わっしわっしと頭をなでくり回された。レオリオさんに。おかげで髪の毛がボサボサである。やり返したかったけれど、彼の頭は僕より遥か上にあったがために届かなかった。解せない。そしてさらに僕の頭を押さえつけるようになでてくるレオリオさん本当に解せない。低身長をもてあそぶだなんて万死に値します。
さっと縹を構えればすごい勢いで後ずさって行った。心なし顔が青い気もするが僕は知らない。
「なんだ、お前生き残れたんだ」
「キルアくん。えぇ、まぁ…なんとか」
「やるじゃん。ま、次はどうなるかわかんないけど?」
「…ここまで来たら合格して見せますよ。頑張りましょうね」
「、……うっせぇ、バカッ!!」
ぴゃーッ!!と船に駆け込んでいったキルアくん。…僕、なぜ彼に暴言を吐かれたのかいまいち理解に苦しむのですが。そしてクラピカさん、なぜそんな仏のような顔をして僕の頭をなでるのですか。
「…ところでゴン、体中のその穴はなんですか?」
「え!?えーっと…ちょ、ちょっと転んでさ!!あは、あははは!!」
「……………」
「あは…は………ごめんなさい」
レオリオさんにもあるこの穴は蛇に噛まれまくった跡らしい。全てゴンが白状しました。しかもただの蛇ではなく、ツチハブという微量の毒を持った蛇に噛まれたと…
もちろん拳骨はしましたよ。なんでもかんでもぽんぽんと自分の身を投げ出していいと言うわけではないのです。
飛行船に乗って次の試験会場へ向かっている最中、僕は飛行船の窓に張り付いて眼下を眺めていた。すごいですね、こんな丸っこい船が空を飛ぶだなんて。空を飛べるのは魔導士やマギ、魔法道具だけかと思っていた。あぁ、あと金属器使いと。部屋やトイレ、シャワー、食堂までもがこの飛行船に丸々おさまっていると思うと、これはどういう原理で動いているのか非常に気になる。もし元の世界でこの飛行船を開発できたとしたら、海路や陸路だけでなく、空路でも物資の運搬ができるようになる。この世界はどれも興味深いものばかりだ。
「…魔装でもこんなに高く飛んだことない。見て、ハーゲンティ。この世界はすごいですね」
縹の八芒星を窓に向けると、まるで景色に興奮しているみたいに2度点滅した。この世界に来てからというものの、金属器に宿っているハーゲンティが時々僕の言葉に呼応するように八芒星を点滅させる。ジンを具現化させることができるのはマギという莫大な魔力を持つ者だけ。けれど、今ならもしかすると、僕が八芒星に触れてもハーデンティは具現化されるのではないかと思う。確証はないけれど…やってみる価値はある。
八芒星にそっと指を近付けた。
「ヘリオいたー!!」
「ッ!!」
瞬間、背後から叫び声が聞こえて思わず指を引っ込めた。振り返るとぶんぶんと手を振るゴンと、それに引き摺られるように手を引かれるキルアくん。なん、だろう…犬に好き勝手される飼い主みたいな図…に見える…
さり気なく袖に縹を隠し、彼らに向き直る。
「…どうか、しました?」
「さっきからずっと放送で呼ばれてるよ?ネテロさんの面接、ヘリオで最後だから早くーって言ってた」
「何ぼさっとしてんだよ。早く言かねぇと落とされるかもよ?」
「それは困りますね。教えて下さって感謝します。では」
「場所わかんのか?」
「…多分。二階の第一応接室、ですよね?こっちだった気が…」
「反対だよ?」
「………」
別にわざとですけど。知ってましたけど。そう言ったらキルアくんに「早く行けバカ」とお尻を蹴り飛ばされた。けしからん子供だ。
「失礼します。遅くなって申し訳ありません」
「いや、気にするでない。ワシもちょっとのんびりしてたところじゃったからな」
「…すみません」
「まぁ座りなされ」
示された座布団に正座すると、会長、もといネテロさんがごっほんと咳ばらいをした。面接って何を聞かれるのでしょう…。もしかすると、これが最終試験、とか…?
…そんなわけないか。
「………」
「ほっほ、そんなに硬くならんでよい。参考までにちょこっと質問したいだけじゃ」
「はぁ…」
「まず、なぜお主はハンターになりたいのかな?」
「…帰り道を探すために」
「故郷がわからんのか?」
「いえ、そういうわけではないのです。ただ、単純に帰れなくて…その手立てを見つけるべくハンターを志望しました。僕はなんとしても、帰らねばなりません」
「…なるほど。では次の質問じゃ。お主以外の9人で一番注目しているのは?」
僕以外で一番注目している人物、か…。考えたことなかった。あまりそう言うのは興味がないから。でも、あえて言うとしたら…
「405番のゴン、ですかね…」
「ほう、なぜじゃ?」
「単純にすごいから。それに、彼にはいつも助けてもらっていますし」
「ふむ…では最後の質問じゃ。9人の中で今一番戦いたくないのは?」
「…404番のクラピカさん、です」
「なぜ?」
「なんだか、兄と戦っているような気がして嫌だから…」
「お主、兄弟がおるのか?」
「いえ。兄のような人はいます。なんというか、動作が似ていると言うか…戦うのであればやりにくい相手だとは思います」
「そうかい」
さらさらとネテロさんがメモをするのを横目に部屋を見渡してみる。変わった造り、ですね…。なんだか煌帝国にいるような気がしなくもないからか、いささか落ち着かない。そわそわとしているとネテロさんからの視線に気付いた。
「…なにか」
「いんや。お主の眼は不思議じゃのーって思うてな」
「……そうですか。もう用はすみましたか?それならば僕は失礼します」
「うむ。ご苦労じゃったな」
応接室を出てすぐに歩き出す。行くあてはない。ただ今は少しでもネテロさんから離れたかった。あの何でも見透かしたような目……とても気に入らない。あの人自身なにを考えているのかわからないし、なぜあのタイミングで僕の眼のことを言ったのか。本当、食えない爺さんですね…
「おわぁ!!」
「ッ、す、すみません」
俯いたまま駆け足をしていたせいか、角からにゅッと現れた人物に気付かずに突っ込んでしまった。尻餅をつくのは回避したけれど。
「こっちこそすまねぇ…って、ヘリオじゃねぇか」
「レオリオさん」
ぶつかったのはレオリオさんだった。僕よりはるかに背の高い彼は、僕の目線に合わせるように屈んで頭をなでてきた。もちろん払いのけたけど。僕の頭にご利益なんてあるものか。
「子供扱いしないでください」
「さっきは抵抗しなかったのにいきなりなんだよ…。顔色悪いけど、なんかあったのか?」
咄嗟に俯いてしまったのはきっと間違いだったのだろう。レオリオさんはこういうとき変に鋭いから、あまり悟られたくはなかった。
「…別に、大したことはないんです。ちょっと気持ち悪くなったって言うか…慣れないものには乗るなってことですよ」
「…ま、そういうことにしといてやるぜ。それより、会長の質問なんて答えたんだ?」
「ゴンとクラピカさんです」
「えぇー!!なんで俺入れてくれなかったんだよ!!俺ちゃんとお前入れたのに!!」
「知りませんよ。てゆーか、必ずしも最終試験がトーナメントと決まったわけじゃないんですから。泣かないでくださいよみっともない」
「なんかいつもより辛辣だな…」
「ほらほら、早く行きましょう。ゴンたちが待ってますよ」
未だ文句を垂れるレオリオさんの背中を押し歩く。全く。これじゃあどっちが年上かわからないじゃないですか。
…とか思いつつ、僕自身も頬が緩むのを止められないのですけどね。
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