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戦う理由




最終試験会場は貸切ホテルだった。全ての試合が終わるまで僕らの好きにしてもいいらしい。すごいですね。
外装がバルバッドにあるホテルに似ていて思わず凝視した。あの屋根が丸い感じとか、似てると思いませんか?え?僕だけだって?いやはやそんな。

ホテルの片隅にある訓練場のような広間に集められた僕たち受験生は、ネテロさん直々に試験の内容を聞いていた。


「では最終試験じゃが、一対一のトーナメント形式で行う!」


なんだかレオリオさんからの視線が痛いのですが。彼の目はこう語っている。「やっぱりトーナメントじゃねぇか!!」と。いえ、知りませんよ。てゆーかいつ僕が最終試験がトーナメントではないと言いました?決まったわけじゃないとは言いましたが、僕は確定した覚えはありません。ぷいっとそっぽを向くとレオリオさんから歯軋りが聞こえた。折れちまえ。
なんだかんだクラピカさんが制裁していたけれど。

試験官が転がしてきたホワイトボード。それにかかっている布をネテロさんが剥がした。


「…なんともまぁ不公平なトーナメントですね」

「てことは、勝ち残った一人が合格ってわけか…」

「いや…たった一勝!勝てば合格じゃ。勝った者が次々と抜けて行き、負けた者が上に上がるシステム。つまり、この表の頂点は不合格を意味するのじゃ」

「要するに、不合格はたった一人ってわけだ」

「さよう。…そして、その組み合わせはこうじゃ!」


べりっと剥がされた表の一番下にあるテープ。それはトーナメントでの自分が誰と戦うかを示したもので、一番左から294、405、53、99、301、191、406、404、44、403。ギリッと奥歯を噛み締めた。あの狸爺め…質問の意味なんてないじゃないですか。何が力作じゃろ?だ。
ちらりと彼を盗み見るとばっちり目が合った。

ちなみに、この組み合わせはハンター試験での成績順となっているらしく、成績の優秀な人ほど勝つチャンスは多く与えられている。まぁ、そう考えれば妥当だと思うし、納得できる。


「…それって納得いかないな。もっと詳しく点数の付け方とか教えてよ」

「…ダメぇー!!!」

「なんでだよ!!」


びっくりした。本当にびっくりした。いきなり叫ばないでくださいよ、心臓が飛び出るかと…
どきどきとうるさい心臓を押さえて深呼吸をした。

試合のルールは武器あり、反則なし、相手に「まいった」と言わせた方が勝ちとのこと。ただし、当然ながら殺したりしたら即失格である。


「それでは、試合を開始いたします。第一試合、ハンゾー対ゴン。前へ」


あ、あの頭が輝かしい方はハンゾーさんと言う名前だったんですね。今初めて知りました。


「ゴン、頑張ってくださいね」

「うん、ありがとう!」


広間の真ん中でハンゾーさんとゴンが向き合った。…と、不意にハンゾーさんが審判を務める試験官のマストさんに声を掛けた。彼はどうやら四次試験の間ずっとハンゾーさんの後をつけていた方らしい。
…なんとなく誰かに見られている気はしていたのですが、まさか試験官の方でしたか。どうりで何もしてこないなと思いましたよ。


「あえていう必要もないかと思ったのだが…」

「……おい、ヘリオ。お前知ってたか?」

「…いる気がした程度ですが」

「ぐぅ…」


どうやらレオリオさんは気付いていなかったらしい。何やら顔が青い。別に気付かなかったことが悪いわけではないと思うのですけど。男性ってこういう時面倒ですよね。意地を張りたがると言うか。どこぞのシン様然り。





「へっくしょーいッ!!」

「うわ、きったな」

「ひどい!!それより、誰か俺の噂してるのか…?」

「はいはい寝惚けたこと言ってないでとっととそれ片してしまいなさい。まだまだたくさんあるのですよ」

「………ハイ」





ゴンとハンゾーさんの試合はそれはそれはえげつないものだった。ハンゾーさんは隠密部隊なだけあって拷問の仕方は的確だ。見てるこっちが吐きそうになるくらいには。意識を飛ばさない程度に、しかし確実に脳を揺らし、痛みを与える。


「ぐッ…」

「ぅ…ゴン…」


かれこれ3時間はああやって一方的な攻撃を受けている状態だ。床は血まみれ、吐瀉物が乾いた跡だらけ。


「起きろ」


それでも立とうとするゴンに思わず顔を逸らした。


「ッ…いい加減にしやがれ…!!ぶっ殺すぞてめぇ!!俺が変わりに相手してやるぜ!!」

「見るに堪えないなら消えろよ。これからもっとひどくなるぞ」

「なんだと…!?」


割り込もうとしたレオリオさんの前に数人の試験官が立ち塞がった。マストさん曰く、一対一の試合にレオリオさんが手を出せば、失格するのはレオリオさんではなくゴンだと。割り込んだ人間が失格になるのならまだしも、試合をしている人間が失格になるとなれば話は変わってくる。お願いです、ゴン…ここは引いて、次の試合に賭けてくださいよ…


「だ、大丈夫、だよ…こんなの、ぜんッ、ぜん…平気、さ…」


まだ、やれる。

そう呟くゴンの瞳は諦めていなかった。ハンゾーさんは一瞬、本当に一瞬たじろいだのちゴンに足払いをかけ、左腕を背中に捻り上げた。


「腕を折る」


それにはさすがにゴンも肩を揺らした。


「…俺は本気だ。まいったって言えよ…」

「い…いやだぁあああああああああ!!!!」


ぼきり。
鈍い音が広間に響き渡った。全身に冷や汗をかき、あまりの痛みに叫び声すら出せないゴンは左腕を押さえて悶絶していた。


「ッ…」

「…ヘリオ、無理して見るな」


僕の右手に温かいものが触れた。どうやら無意識のうちにクラピカさんの服を握りしめていたようで、彼の手が僕の手をやんわりと包みこんだ。彼は、この光景を見て僕が奴隷の時に受けた暴力を思い出すのではと危惧しているようだけど、大丈夫。いや、大丈夫じゃないけど…大丈夫。ゴンに比べればこんなもの…


「…ご心配なく。僕は平気です」

「…そうか」

「…おいクラピカ、ヘリオ…止めるなよ…あの野郎がこれ以上何かしやがったら…ゴンには悪いが、抑えきれねぇ…!!!」


不意にレオリオさんがそんなことを言った。思わず顔を向ければ、今にも掴みかからん勢いのすごい形相をした彼がいた。止めるだなんて、そんな…そんなこと…
ぐっと僕の手を包み込むクラピカさんの手に力が入った。


「止める…?私がか?大丈夫だ。恐らくそれはない」

「止めれるけないじゃないですか…!!」


こう見えて私も、今にも極大魔法をぶっ放したい勢いなんですよ。ハンゾーさんは片手で逆立ちをしながら、忍という隠密集団について語り出した。生まれたときから過酷な修行を課された一族。ゴンと同じ年の頃にはすでに人も殺していたと。別段自慢することではない。


「…あ、」

「ぐふッ」


ハンゾーさんがぐだぐだと長話している間にゴンが多少回復し、彼の顔に蹴りをぶち込んだ。押さえているとはいえ、折れた腕をそのままに体を動かせばそりゃ痛いでしょうね。


「いってぇええええ!!!」


案の定ゴンは絶叫していた。


「へへ、痛みと長いおしゃべりのおかげで、頭は少し回復してきたぞ!」

「ぃよしゃぁー!!ゴンいけぇー!!蹴って蹴って蹴りまくれぇー!!」


なんて物騒なことを言うのだろうかこの人は。けれど、そのおかげでさっきまであんなに殺伐としていた空気がこんなにも和らいでいる。僕もクラピカさんも幾分かは落ち着いたみたいだ。


「…ま、わざと蹴られてやったわけだが」

「嘘つけぇえええええええええ!!!!」

「鏡で自分の顔をよく見てからものを言いなさい。みっともない」

「ヘリオ、なんか違う気が…」


ハンゾーさんは仕込み刀を出した。今度はゴンの足を切り落とすらしい。けれど、そんなことをすればゴンは出血多量で死んでしまう。そうなればハンゾーさんは失格となる。けれどゴンは言った。言い切った。いっそ清々しいくらいに。


「それは困るッ!!」


この場の時間がすべて止まった気がした。あのヒソカさんまでもが目を点にしている。あの、ヒソカさんがだ。


「足を切られるのは嫌だ。でも、降参するのも嫌だ。だからもっと別のやり方で戦おう!」

「…おい、てめー!!自分の立場わかってんのかッ!!勝手に進行するんじゃねーよ!舐めてんのか!?その足マジでたたっ斬るでコラァー!!」

「…それでもオレは、まいったと言わない!」


あぁ、もうゴンは大丈夫だ。完全に彼のペースだし、しかもハンゾーさんだけでなくこの会場全体をも巻き込んでいる。


「なんちゅー我が儘な…」


全くだ。でも、それがゴンのいいところでもあるのかもしれない。
ヒュンッとハンゾーさんは刀をゴンの額に突きつけた。一瞬にして固まった空気をよそにハンゾーさんはゴンに言う。実力が違うのだと。仮に彼がゴンを殺したとしても、また来年受ければいいだけの話。けれど、死んでしまったらそれは不可能だ。脅し、か…。けれど今のゴンにそれは効かない。なぜならゴンには確固とした意志があるから。


「親父に会いに行くんだ」

「…親父?」

「俺の親父はハンターをしている。だからオレもハンターになって、親父に会いに行くんだ!!……いつか、必ず。オレがここで引いたら、一生親父に会えない気がするんだ。だから…引かない」

「、……」


ハンゾーさんは深く息を吐くと、刀を仕舞い、きょとんとするゴンをよそに彼はまいったとやけくそに叫んだ。


「俺はお前を殺せねぇ。かと言って、お前にまいったと言わせる術も思い浮かばん。…俺は負けあがりで次に賭ける」

「…そんなのダメだよ。ずるい!!」


………は?


「ちゃんと2人でどうやって勝負するか決めようよ!!」

「…ふん、言うと思ったぜ…。バァカかこの!!テメーはどんな試合をしようがまいったって言わねぇよぉー!!」

「だからって!!こんな風に勝っても全然嬉しくないよ!!」

「じゃーどぉーすんだよッ!!」

「それを一緒に考えようよッ!!」


…なんだ、あの幼稚な言い争いは。緊張で身を固めた僕がバカみたいじゃないですか。
つまるところ、ハンゾーさんは負ける気満々だけど、もう一度勝つつもりで真剣に勝負をして、そのうえでゴンが気持ちよく勝てるような勝負方法を一緒に考えよう。…と。


「…バカじゃないんですか」


僕の呟きはハンゾーさんの「アホかぁあああああ!!」という絶叫によって誰の耳にも届くことなく霧散したのだった。そりゃあハンゾーさん怒りますよ。呆れてものも言えない。

…まぁでも、いろいろありましたがゴンが勝ったわけですよね。とにもかくにも合格おめでとうございます、ゴン。






 
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