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とあるKさんの見解
「よ!元気か?」
「あ、クリリンさんだ!」
「こんにちは!」
訪れた孫家でまったりしている親子を見て、やっぱりというかなんとなくこんな雰囲気だろうなと思っていたことが予想通り過ぎて思わず苦笑した。
俺の手を引いて、早く早く!と急かすシュエ。相変わらずせっかちなんだから、こいつは。
「クリリン!遊びに来たんか?」
「まぁな。カメハウスにいても暇だったし、どうせなら来ちゃおって思ってよ」
「はは!そっかそっか!」
「なんもねぇだが、ゆっくりして行ってけれ」
「あ、どうも」
チチさんから差し出されたお茶を飲んでほっと一息つく。シュエはチチさんと台所で何か作業をしていて、悟空と悟飯とでテーブルを囲んで世間話に花を咲かせた。
こうやってると、もうすぐセルゲームが始まるってのが嘘みたいだ。なんというか、こいつら親子ののほほん、とした空気にこっちまで気が抜けるというか。妙な安心感があるというか…
まぁ、そんな感じだな。
「あちゃー、しまっただ…」
「チチ?どうかしたのけ?」
「砂糖を切らしてしまって…どうしよう、これじゃ作れないだ…」
「私が行ってこようか?ちょうど街まで用事があったし」
「あ、なら僕も一緒に行くよ」
「…うんにゃ、おめぇたちはお留守番だ。おらと悟空さで行ってくるべ。シュエちゃんは、おらたちが帰って来るまで下準備を頼むだ」
「わかった」
「そうと決まれば!ほら悟空さ!早く車出してけれ!」
「えぇ!?ま、まじか…わりぃなクリリン、せっかく来てくれたのに。ちょっくらシュエたちと留守番しててくんねぇか?」
「俺は構わないけど…」
「サンキュ!」
バタバタと慌ただしく出ていった悟空とチチさん。留守番は別にいいんだけど、この面子でかぁ…正直ちょっと気まずいんだよな。シュエや悟飯が何かしたってわけじゃないんだ。ただ…
「ごめんねクリリンさん、せっかく来てくれたのに…」
台所から振り返ったシュエが、申し訳なさそうに眉を垂れさせた。
「気にすんなって!それより、お前は何作ってるんだ?」
「あー…ちょっとね」
いたずらっ子のように笑うシュエに首を傾げる。見た感じ食材は山のようで…あぁ、それはいつものことか。そしてその脇に微妙に隠してる感がある生クリームのパックやら果物やら。あぁ、なるほどなぁ。なんとなく察しのついた俺は1人納得した。砂糖が必要になるわけだ。
「お姉ちゃん、僕も手伝うよ?」
「いいよ、悟飯はクリリンさんとお話しててよ。今日はお客さんなんだから」
「でも…」
「大丈夫だって!クリリンさん、悟飯とそのへん散歩してきてよ。ずっと座ってるのもしんどいでしょ?」
「そんなことはないけど…」
ごにょごにょ。俺の耳元に口を近付けて内緒話するようにシュエが囁いた。瞬間、ちらっと視界の隅に入った悟飯の顔が思いっきり歪み人知れず滝のように冷や汗をかいた俺だった。そんなことは露知らず、シュエはにこにこと人懐っこい笑みを浮かべて手を振った。し、死刑宣告されたみたいだな…
「よし、行くか悟飯。せっかくだしなんか魚でもとってこようぜ」
「…わかりました」
「いってらっしゃい!」
川べりを歩く俺たちの間に会話はない。そりゃそうだ。なんたって俺は、前々から悟飯にずっと聞きたいことがあったのだから。今までは確信を持てなかったけど、さっきのではっきりした。やっぱりこいつは…
「…ねぇ、クリリンさん」
不意に悟飯が口を開いた。心の準備も何もできていない俺は大いに焦った。せめて俺から切り出したかった…
「な、なんだ悟飯?でっかい魚でも見つけたか?」
「知らばっくれないでください。…本当は気付いてるんでしょう?僕がお姉ちゃんをどういう目で見ているかなんて」
「……」
妙な静けさをたたえた青い双眸が俺を射抜く。こいつはわかっている。俺が、悟飯がシュエをそういう目で見ているという事実を知っていることに。
「…なんとなくだけど、薄々そんな気はしてた。これでもお前らがガキの頃から面倒見てきたんだ。気付かない方がおかしいさ」
「そうですか…」
「初めは姉弟にしてはすこぶる仲がいいと思った。そりゃあ仲が悪いよりかはいいと思うけどよ」
最初の違和感はベジータたちが地球に襲来した時。目に見えない小さな小さな違和感を感じた。その次が宇宙潮流に巻き込まれた時、湖に沈むシュエを助けに行った時の悟飯のとった行動。そしてフリーザと戦う時。最後に、マロンちゃんと行った川でお前らと遭遇した時のシュエの挙動不審さと、悟飯の妙に凪いだ目。
そして今日、今までの違和感の正体に気付いた。
ふっと嘲笑を浮かべた悟飯はぽつりぽつりと話し出す。
「おかしいでしょう?実の姉に恋愛感情を持つだなんて。親愛の間違いではないのかと言われるかもしれませんが、僕はちゃんと、心の底からお姉ちゃんを愛しています。どうしようもなく、好きなんです…。姉ではなく1人の女の子として。だから、お姉ちゃんが知らない男の人なんかと話していたら嫌で嫌で仕方がないんです。お姉ちゃんの手前顔に出すなんてことはしませんが、内心はらわたが煮えくり返りそうなくらい嫉妬してるんですよ」
こんな僕、気持ち悪いと思いますか?
そう問いかける悟飯が、まるでどこかに迷子になってしまった子供のように見えた。正直俺はきょうだいなんていないし、例えいたとしてもそういった感情を持つことはないだろう。だから悟飯がシュエを想う気持ちはわからない。だからと言って、俺は悟飯が抱くそれを否定しようとは思わない。なんたって、好きと言う気持ちには変わりないのだから。
「…悟飯が決めたのなら、貫き通せばいいんじゃないのか?」
「え?」
「ぶっちゃけ俺にはわかんねぇ。こんな展開初めてだし、好きになったとしても相手は赤の他人だからな。けど、本当に悟飯がシュエのことを好きなら、例え誰がなんと言おうとそれに耳を貸すんじゃない。姉弟だからなんだって、そんな枠組み俺には関係ないんだって。ぶち破るつもりで構えとけ」
「く、クリリンさん…」
「ま、まぁなんというか、うまく言えねぇけどさ…」
つまるところ、もし悟飯がシュエに恋愛感情を抱き続けるのなら世間体と言う名の壁が立ちはだかると思う。それをお前がどうするかってことだ。
俺は応援してみようと思う。バカにしてるわけじゃない。ガキの頃から見てきたこいつらだからこそ、俺はできる限りフォローしたいんだ。
「…ありがとうございます。気付いてくれたのがクリリンさんでよかった」
「頼りないかもしんないけどな。…よし、そろそろ帰るか。いつの間にか結構時間たってるし」
「ふふ、そうですね」
遠くの空でうっすらと夕日が顔を覗かせている。結局魚もなにもとれずじまいだ。まぁ、いっか。
どこか吹っ切れたような悟飯の横顔を見ながら思った。
どうかこの弟の想いが成就してくれますように。
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