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ありふれてる大切なこと




買い物から帰ってきたお父さんとお母さんは、家に入るなり早々に私を追い出したのだった。え、何これどういうこと。


「シュエちゃーん!後はおらたちに任せて遊んでくるだ!悟飯ちゃんやクリリンも近くにいるはずだべ、行って探して来い!」

「え、お母さん一体それはどういう…」

「いーからいーから!ほれ、早く行って来い!」

「ちょ、お父さん押さないで危ないから」


ばたん、と閉じられたドアが虚しく響く。…なんだろ、これ。この謎の虚無感。私なにかしたっけ。いやむしろ貢献したでしょ。悟飯たちが帰ってこないうちに飾り付けまでやったっていうのになんだこれ。


「……ま、いっか」


なんかいろいろめんどくさくなってきたよ。とりあえず、言われたとおり悟飯たちを探そうかねぇ。合流したらどうしよう。特に何もないんだけど。そうだなぁ…

ぼんやりとてくてく山を歩く。木々の隙間からの木漏れ日が眩しくて、少し目を細めた。


「…ここは…」


7年前お父さんが切り倒した、もとは立派な大木だった大きな切り株。うっわぁ、懐かしいなぁ。昔はこれがとても大きく感じたのに、今じゃ腰丈の高さだ。時間が経つのはやっぱり早い。
切り株に腰掛けて、ぼーっと遠くを見ていると視界の隅をひらひらと何かが横切った。


「あ、オビクジャクアゲハだ」


赤い帯のような模様が特徴の大きくて綺麗な蝶々。
そう言えばあのとき、悟飯が迷子になったときもこのへんで同じようにオビクジャクアゲハを見た。何だこの奇跡の連鎖は。

思い出の場所を辿るのが楽しくなってきた私は切り株から離れて再び歩き出した。

この川は悟飯が溺れたところ。あの花畑は悟飯とこっそり抜け出したときに一緒に遊んだところ。あの果物のなる木は勉強を頑張る悟飯にと私がよく採ってきてあげてた木。この湖は私と悟飯だけの秘密の場所。
あの穴のあいた大きな大木は…


「…小さい悟飯があけたもの」


そっと表面に手を当てて目を瞑ると、鮮明に思い出すその記憶。あのときは本当に肝が冷えた。お父さんってば手押し車の持ち手を離すんだもん。焦るわ焦るわ。
大事に至らなかったからよかったものの、もしものことがあったらどうしてたんだろう。…まぁ、万が一にでもお父さんがそんなことさせやしないだろうけどね。

そこではた、と気付いた。私ってば、さっきから悟飯のことばっかり考えてる。思い出の場所だなんて、お父さんやお母さんが連れていってくれた場所だっていっぱいあるのに、なのになんで悟飯と一緒に遊んだところばかり…
ふと1つの可能性が頭に過るも、それを霧散させるように首を振る。いやいやいや、そんなまさか…ありえないって。だって私たちは姉弟だもの。そんなの…


「ありえないし…」

「なにが?」

「のぁああああああ!!!」


突如として背後から聞こえてきた声に思わず変な叫び声をあげてしまった。な、なに、今の…まじビビったし。確実に私1人だと思ってたからおもっくそ独り言ぶちかましてたよ。恥ずかし。


「ご、悟飯…!あんた今気配消して声かけたでしょ!ま、まじビビったんだから!」

「え、なんか…ごめんね」


しょんぼりと眉を垂れさせる悟飯になぜだか凄まじく罪悪感を感じた。いや、待って。そもそも今の私悪くないし。だからチワワみたいなうるうるおめめで見られる筋合いも…ぅ…ないん、だから…あぁ…


「かわえぇ…」


堪らず抱きしめた私に罪はない。可愛いは正義だと信じてる。悟飯可愛い。さすが私の弟。可愛すぎてすべてが尊い。


「…あれ、そういえばクリリンさんは?一緒じゃなかったっけ」

「あぁ、クリリンさんなら先に戻ったよ。僕もいったん家に帰ったんだけど、お姉ちゃんがまだ帰ってきてないってお母さんが言うから、僕だけ出てきて探してたんだ」

「それはそれは…ご迷惑をおかけしまする」

「ふふ、いーえ」


あはん、にっこり笑う悟飯が天使じゃ。君に後光が射し込んでるよ。デレデレと緩みそうになる頬を必死に引き締めてる私超えらい。



「お姉ちゃんはこんなところまで来て、なにしてたの?」

「んー?いんや、対したことはしてないよ。ただ、懐かしいなーって思って」

「この木が?」

「うん」


穴のあいた大木を不思議そうに見上げる悟飯。きっと覚えちゃいないだろうね。生まれてまだ数ヶ月だったし。

2人して木を見上げる。沈黙が訪れ、さわさわと風で葉っぱが揺れる音だけが聞こえる。少し目を閉じて、開く。しばらくそれを繰り返していると、不意に袖をくいっと引っ張られた。誰かだなんてわかりきっている。


「悟飯?どうしたの?」

「…ううん、なんでもない」

「そのわりになんでもなさそうな顔してないけど?」


ちょん、と小さく額を小突くと、悟飯はぎゅっと下唇を噛み締め、俯いた。本当にどうしたんだろうか。お腹でも痛いのかな。


「どうしたの?お腹痛い?」

「…違う。あのさ、お姉ちゃん」

「ん?」

「……………お姉ちゃんの、前世」

「前世?」

「うん。その話を聞かせてよ」


何かをぐっと押し込めたような笑みに思わずたじろぐ。けど、悟飯自身がどこか察してほしくなさげな雰囲気を出すから、私は何も気付かないふりをして笑った。


「あんまり聞いてて気持ちのいい話じゃないよ?」

「いい。お姉ちゃんのこと、もっと知りたいから」

「十分知ってるでしょーに」

「もっと知りたいの。それに、聞くだけしかできないけど、お姉ちゃんが背負ってるものを僕も背負いたいから」

「、…」


悟飯は昔からそうだった。私がうまく毛皮をかぶっていても、ふとした瞬間の綻びを見つけ、知らない内に中に入ってくる。そして同じものを小さな体で背負おうとするのだ。
それが嫌で、姉として情けなくて…でも、なによりも嬉しくて。
ぎゅーっと私を離さまいと握る手に視線を落とす。本当、適わないなぁ…こういうとこ、お父さんそっくりだ。
じわりと目元に滲んだものを見られないように俯いた。


「お姉ちゃん…?」

「…たは、まいったなぁ…悟飯には助けてもらってばかりだ」

「そんなことないよ。僕だって、ずっとお姉ちゃんに助けられてきたから」

「そうだといいなぁ。…よし、じゃあどこから話そうかな。前世って一言で言われても思い出いっぱいあるし」

「前世のお姉ちゃんを教えて?それと、お姉ちゃんが大切にしていた友達の話も」

「わかった。前世での私はしがない学生だったんだよ?茜…あぁ、親友の名前ね。茜は中学からずっと一緒の幼馴染みで、高校、大学とずっと一緒だったの」

「それで?」

「それでね…」


話していると気付けば太陽がほとんど見えなくなっていて、心配して探しに来てくれたのであろうお父さんに呼ばれるまで大木の下でずっと話をしていたのだった。

そして、家に入ったときに響いたクラッカーの音は多分きっと忘れない。
なんのためにお母さんが私を家から追い出したのかわかったから。私と悟飯の誕生日パーティー。思わず泣きそうになったのは私だけの秘密だ。






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