どうにかしたい
「いたッ」
後頭部が何かに引っ張られる感覚がして思わず振り返ると、何がどうなってそうなったのか、私の髪の毛が面白いくらいに椅子の脚に絡まっていた。なんじゃこりゃ。
はぁ、と溜息を吐いて解きにかかるものの、なかなかとれてはくれないらしい。ちくしょう、これで何回目だよ。まあ確かにアホみたいに髪の毛長いけど、何度もこんがらがるのってすんごい腹立つのり。
「ふぐッ…と、とれない…!」
「シュエ?おめぇ何してんだ?」
悪戦苦闘していると玄関からひょっこりとお父さんが顔を出した。床に座り込んで髪の毛をどうにかしようと奮闘する私を見てなんとなく察したようで、あー…、と苦笑した。
「また解けんくなったんか」
「うむ。いつもはすぐ解けるんだけど、今回は手強くてさぁ。…いっそこのままちょんぎってやろうか」
「待て待て早まるなって!しょーがねぇなぁ…ちょっと待ってろ?」
そう言って上半身を戸棚に突っ込んであさりだしたお父さんの背中をぼうっと見つめる。そして目当ての物が見つかったのか、「あったあった!」と言いながら戸棚から這い出てきた。一体何を持ってきたのか。じゃーん!と掲げられたそれ。
「ハサミとカットクロス…」
「おめぇが切ったら大惨事になるのは目に見えてるからな。オラが髪切ってやる!」
「切ってやるってお父さん…」
「いーからいーから!任せとけって!悟飯の髪だってオラが切ってやったんだからな!」
「あ、さいですか…」
喜々として私にカットクロスを装着したお父さんは、座り込む私の背後に腰を下ろしてハサミをじょきん、と鳴らした。なにこれめっちゃ怖いんだけど。
「んー、どんくらいまで短くしたい?」
「…まぁ、いっか。この際だからバッサリいこうかと思うんだけど。そーだなぁ、肩につかないくらい?」
「そんなに短くすんのけ?前みてぇに2つで結べるくらいでいいんじゃねぇか?」
「お風呂上がりに髪の毛乾かすのめんどくさいから」
「わからんでもねぇけど…もったいねぇなぁ、せっかくきれいな髪してんのに」
「……いいから早くしてよ」
「はいはい」
しょき、しょき、と静かな空間に髪を切る音だけが響く。ちゃんと切れるのかとお父さんを疑っていたけど意外と器用なもので、特にこれと言って大きな失敗などせずハサミを動かしていた。
はらはらと落ちていく髪の毛を一房摘んで眺める。なにこれ縄跳び級に長い。私ってこんなに長かったのか。
「ほれ、できたぞ」
ぽん、と手鏡を手渡され覗き込む。普通にきれいな短髪になっててビックリした。
「お父さん、意外と器用だね…」
「まぁな。そんな感じでいいか?」
「うん、ありがとう」
カットクロスを畳みながら笑うお父さん。うーん、新たな一面を垣間見た瞬間だなぁ。床に散らばる髪の毛を箒で掃きながら思った。にしても、超サイヤ人の髪の毛って切り落としたらもとの色に戻るんだね。どういう原理でそうなるんだろう。なんか、魔法がとけた瞬間を垣間見たような、そんな感じ?
とにもかくにも、頭がさっぱりしたことには変わりないのだ。これで風呂が楽になるよ。
けど、外から帰ってきたお母さんと悟飯が私の髪を見て絶叫したのはまた別の話。
「シュエちゃんの…!シュエちゃんの髪がぁあああ…!!!」
「え、お母さん?一体何を…」
「お姉ちゃん!?なんで髪がないのぉおおおお!?」
「悟飯、私ハゲてないから」
「ち、チチも悟飯も落ち着けって!あまりにもシュエの髪がいろんなとこに絡むもんだから可哀想でよ…」
「だからってこんなに短くしなくなってよかったべ!?」
「私がお願いしたんだよ、お母さん」
「髪が…お姉ちゃんの髪が…!」
「悟飯、あんた私の髪になんか未練でもあるの?」
なんか納得いかないんだけど。
▼ ◎