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「シュエーーーーーッ!!!!」


ごちぃいいんッ!!!!


「いっでぇえええええええええ!!!!!!!」


出会って早々脳天に振り落とされたものっそい強烈な拳骨に私は床をのたうちまわった。し、視界が…ッ!視界が揺れる…ッ!!激痛がぁああ…ッ!!
私を殴った元凶をお母さんがすんごい形相で睨み付けた。


「クリリンッ!!!シュエちゃんになんてことするだッ!!」

「チチさんは黙って!シュエお前ー!!アホ!!バカ!!間抜け!!すっとこどっこい!!」


なんて酷い罵倒の数々。
私の肩を掴みゆっさゆっさと揺さぶるクリリンさん。その後ろであの未来からの青年がドン引きした顔で突っ立っている。おっふ、は、吐き気がぁああああ…!脳がぁああああ……!!!


「俺たちがどんだけ心配したと思ってるんだよ!!お前のことだから心配いらないって悟空は言うけど!!心配しないわけないだろ!!バカ!!」

「ふ、ぎゅぅう…ッ」

「聞いてんのかシュエ!!」

「聞けるわけないでしょ!!ちょ、死にますからッ!!その子窒息死しますからッ!!」


ようやっと解放された私は再び床に沈む。なんだ、今のは。新手のいじめだったのか。確かに心配かけたのは申し訳ないと思ってるけど、今のはダメでしょーよ。私結構リアルに渡っちゃいけない川が見えたんだけど。
私の呼吸が落ち着いた頃、お母さんとヤムチャさんに話したことをクリリンさんたちにもう一度話したわけで。案の定どこか釈然としなさそうな顔を約1名はしていた。


「前世なぁ…不思議なこともあるもんだ」

「別に信じなくてもいいよ、クリリンさん。私平気だし」

「バカ言えよ。妹分のことを兄貴分が信じないわけないだろ?何年一緒にいると思ってるんだよ。てゆーか、今まで散々ハチャメチャな展開に遭遇してんだぞ、俺たち。今更前世の1つや2つ、どうってことないさ。それに、俺はお前をその程度の存在だっただなんて微塵も思ってないからな!」

「…そう、ですか」

「照れんなよー」

「照れてないし」


ぐりんぐりんと私の頭をなでくり回すクリリンさん。この人はいつだって変わらない。クリリンさんの言葉に私自身救われたことはたくさんあった。本当、この人には敵わないなぁ。


「…あの」


うりうり、とされるがままにしていると控えめに声がかけられた。それはあの青年で、ちらちらと訝しげに私に視線を移しながら口を開いた。


「事情はなんとなくわかりました。けれど、俺はやっぱりあなたのことは…」

「ねぇ、お兄さんは何て名前なの?」

「え?と、トランクスですけど…」

「トランクスさん。私はシュエだよ。トランクスさんの未来に私はいないかもしれないけど、れっきとした孫悟空の娘で、今年で12歳になります。信じてだなんて言わないよ。けれど、私はこの世界でちゃんと12年間生きてきたことを否定しないでほしい」

「ッ…すみま、せん」

「謝らないでよ。ね、私はトランクスさんの名前を知ってる。トランクスさんも私の名前を知った。ほら、これでもうお互い知らない者同士じゃなくなったでしょ?」

「…そうですね。酷いことを言ってすみません、シュエさん。改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ」


とりあえずお互いの誤解的なものは解けたわけで。今までの成り行きを見守っていたヤムチャさんがこほん、と咳ばらいをしたのち本題を聞いた。


「ところで、お前たちはどうしてここへ?」

「詳しいことは後で話す。チチさん、今からみんな揃って武天老師様のところへ行きます。新手のもっと恐ろしい人造人間達がここにやってくるんです。見つかる前に移動しないと」

「そ、それは大変だ…!」

「わかっただ。すぐに用意するべ、手伝ってけろ」

「はい」


トランクスさんが用意してくれた大型飛行機にクリリンさんとヤムチャさんがお父さんを運んでいく。その後ろを、お母さんがまとめた荷物を抱えた私がついて行く。着替えや日用品でこれほどまでに多くなるものなのだろうか。よその家の基準がわからないからあれだけど、多分これは多い方だと思う。まぁたくさんあるに越したことはないけど。


「人造人間ってどんな感じなの?」

「そっか、シュエは知らないんだな。実は、トランクスが言ってたやつと実際に俺たちが戦った人造人間とは全くの別物だったんだ」

「別物?」

「あぁ。トランクスのいた未来とここでは少し違うみたいで、最初に出会った人造人間もドクターゲロ本人だったり…それに、ドクターゲロが起動させた人造人間もバカみたいに強くて、超サイヤ人になったベジータやトランクス、ピッコロが束になってかかっても敵わないほどの強さだった…」

「えッ!?べ、ベジータってば超サイヤ人になれたの!?」

「この2年の間になれたみたいだぞ」

「へぇー。あのベジータが…」


前々からの目標だったもんねぇ。なれた理由は定かじゃないけど、結果に出たんだからいいじゃない。よかったね、ベジータ。


「シュエさんは、その…父さんと仲がいいのですか?」

「父さ…んッ!?はぁ!?父さん!?」

「あッ…」

「あー…言い忘れてたけど、トランクスってベジータの息子なんだ。ブルマさん、赤ん坊抱いてるんだぜ?」

「ベジータがお父さん…!?に、似合わねぇ…」


あの怖い顔で赤ん坊を高い高いするんだろうか。やべ、想像したら笑えてきたんだけど。シュールすぎにもほどがある。


「てゆーか、ベジータと仲がいいって…なんで?」

「いえ、父さんのことを呼び捨てにしているので…」

「あー、やっぱりダメだよね。子供が大人を呼び捨てにするのって。私も前々からどうなんだとは思ってたんだけど、今更変えるのもなぁって。気になるようなら親しみを込めてベジータさんって呼ぶけど」

「別にいいんじゃないのか?ベジータ自身あんま気にしてないみたいだし。いきなり呼び方改められたらあいつもびっくりすると思うぞ?」

「うーん…難しい…」

「こらおめぇたち!口を動かす前に手を動かすべ!急げって言ったのはどこの誰だ!」

「は、はいぃいッ!!」


ベジータについては結局保留となった。うーん、確かに子供が大人を呼び捨てだなんてあれだよねぇ。ベジータが初めて地球に来た時からこの呼び方だったからなぁ。言われてみれば、聞く人によったら呼び方に悪意を感じるかもしれない。しかもトランクスさんは息子なんだから気にするか。よし、今度会ったときはベジータさんって呼んでみよう。
そう決意した瞬間、お母さんが叫んだ名前にびしり、とフリーズした。


「あの、シュエ…?」

「あれ、どうしてみんなが…うごッ」

「あぁよかっただ!!よく無事に帰って来れただな!!」


あぁ、悟飯の声だ。そそくさとお父さんが寝ているう布団の中に隠れようとする私の首根っこをヤムチャさんが引っ掴んだ。


「ちょ、何するんですか離してくださいッ」

「せっかく2年ぶりに弟と会うのに逃げる必要はないだろ?会いたくないのか?」

「私は2年も会ってないなんて感覚ありませんけどね。会いたいですよ、悟飯大好きだもん。でもそれには深い深いわけがございましてなのでどうかわたくしめをお離しになっていただけませんか」

「会いたいなら会ってやれよー!」

「ちょ、人の話をだな…」


「悟飯ちゃん、おめぇに会わせたい人がいるだ!こっちおいで!」


ななななんてことをしようとしてるんだお母さん。確かに悟飯には会いたい。けれど不可抗力であれ何も言わずに悟飯をほったらかしにした罪悪感というものが…


「会わせたい人?」

「んだ!ほれ、こん中入ってみろ!」


あぁあああああああああちょっとぉおおおおおおおおおおおッ!!!!
こつりこつりと近付く足音。待ってねぇ待って私心の準備が…!


「おねえ…ちゃん…?」


オ ワ タ \(^o^)/
ぎぎぎ、とまるで錆びついたブリキ人形のような音を立てながら首を後ろに向けると、最後に見たときよりぐんっと身長が伸びて大きくなった悟飯が限界まで目をかっ開き私をガン見していた。あー…うん…


「や、やぁ悟飯くん今日もいい天気dぐぶぉおおおおおッ!!」

「シュエー!!?」


ほんの一瞬悟飯から目を離した刹那、私は腹にとんでもなくバカげた衝撃を受けながら床に倒れ込んだのだった。なに、今の。ベジータが遠くからギャリック砲でも放ったの?そんなわけないか。
私を締め付ける悟飯の腕力に骨がミシミシ言ってますはい助けて誰か。


「ごはぁ゛あ゛…!!じ、ぬ゛…ッ!!」

「待て待て待て悟飯ッ!!!シュエが死ぬ!!本気で死ぬから!!落ち着け!!な!?」

「…死ねばいいんです」

「ファッ!?」

「悟飯!!おめぇ何てこと言うだ!!シュエが帰ってきて嬉しくないのけ!?あんなに毎日毎日探しに行ってたのにそったらこと…」

「お姉ちゃんなんか死ねばいいんです!!」

「ごは、」

「僕本当に…お姉ちゃんがいなくなって死にそうだった…死ぬほどつらかった…!ようやく会えたと思ったらへらへらしてさ!この2年、僕がどんな思いでお姉ちゃんを探していたかわかる!?わかんないよねきっと!だってお姉ちゃんは自分勝手だから!だからお姉ちゃんも、僕と同じ気持ちを味わえばいい!!お姉ちゃんなんか…お姉ちゃんなんかぁ…!」

「……」

「ごめん、ごめんなさいお姉ちゃん…死んじゃえなんて言ってごめんなさい…やっぱり死なないで…どこにも行かないで…僕お姉ちゃんが大好きだよ…大好きだから、だから…僕を置いて行かないで…!」


ぎゅううッと抱き着いて離れない悟飯。言ってることがめちゃくちゃだったけど、悟飯の言い分はちゃんと理解しているつもりだ。あの日の私の行動が軽率だったって言うのは今はすっごく反省してる。
ここの世界でこんなに私を思ってくれる人がいる。うん、なんて幸せなんだろう。悟飯の背中に腕を回してぽすぽすと頭をなでてやると、さらに力が強まった。この子本気で私を殺しにかかってるんじゃないのだろうか。内臓口から出そうなんだけど。


「あー…うん、私こそごめんね。まさかこんなに日が経っているとは思ってなくてさ…みんなに心配かけるつもりもなかったんだよね…夜明け前には帰って来るつもりでいたし…」

「…どういうこと?」


本日3度目の説明。省きますよもう。この鬱になりそうな堂々巡りの件もういいでしょ。ね?てことで割愛。

現在、ヤムチャさんが飛行機にて空路を移動中。私の背中にへばりついたまま勉強をすると言う器用なことをやってのける悟飯に恐れおののいています。


「こ、こんなのはどうでしょう…俺がタイムマシンでもっと昔に行って、あいつらが動き出す前に壊してしまうんです。ドクターゲロの研究所の場所はもうわかったし」

「なるほど、そりゃあいいんじゃないか?」

「…多分それ、意味ないですよ」

「なぜそう思うんです?」

「あの、僕思ったんですけど、もし過去の人造人間を壊してしまったら、この時代の人造人間は消えちゃうんでしょうか…むごッ」

「悟飯ッ!!よそ見すんな!!」


お前もう私から離れてやれよ。
さっきの悟飯の言葉に何かに気付いたトランクスさんは声を張り上げる。


「そ、そうか…!確かに、俺が過去に行って人造人間を壊しても、その世界の未来は助かるがすでに人造人間が動き出したこの世界では何も変わらないんだ…!」

「…ど、どういうことだ?」

「えっと…」

「パラレルワールドってわかります?」

「ぱられる…なんだって?」

「パラレルワールド、またの名を並行世界。ある世界から無限に分岐し、それに並行して存在する世界のこと。世界は無限にあるとされ、量子学的には四次元や五次元が実在していると考えられています」

「り、量子学…?」

「はい。例えばそう、ここにリンゴが1つあるとします。それをクリリンさんが見つけました。クリリンさんはどうしますか?」

「え?ひ、拾うと思うな…」

「つまり、この世界のクリリンさんはリンゴを拾った。けれど、今言ったみたいにクリリンさんがリンゴを拾った未来もあれば、拾わずに素通りした未来もある。いい例が私だね。トランクスさんのいた世界では、悟飯に姉なんて存在しなかったんでしょ?」

「え、えぇ…」

「つまりそういうこと。トランクスさんの世界には存在しないものもあれば、この世界のように悟飯の姉というイレギュラーも存在する世界もあるわけで…ちょっとした出来事でいろんな結末に分岐した未来があるってことだよ」

「じゃあつまり、この世界の人造人間を破壊したとしても、トランクスの未来では人造人間は変わらずに存在してるってことか…?」

「そーゆーこと」


私説明下手っぴだから上手く伝えられたかわからないけど。きつい言い方になるんだけど、ぶっちゃけた話トランクスさんがこの世界に来ても彼の未来は何ら変わりないのだ。ぽかん、と私を見上げる悟飯のおでこをぺちり、とはたいた。


「いてッ」

「悟飯、手がお留守になってるよ」

「お姉ちゃんまでそういうこと言う…」


「…でもまぁ、気にすることなんてねぇだよ」


あっけらかんと言ったお母さんに全員の視線が向いた。


「おめぇが来てくれなかったら、悟空さ死んでたもんな。それに多分、シュエちゃんにも出会ってなかったかもしれねぇ。…おら、すっげぇ感謝してるだよ」

「お母さん…」


私の鼻先をちょんとつつくお母さんと、むんぎゅっとにこにこしながら抱き着いてきた悟飯に照れくさくなった。家族ってやっぱいいね。前世でもこうだったらよかったのに。まぁ、今となっては悔やんだって仕方のないことだけれど。


「とにもかくにも、多分何とかなりますよ!…多分」


クリリンさんの言葉に全員がずっこけた。
うーん、先行き不安だなぁ…






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