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ひとりで生きたいわけじゃない




「そうか…お前さんの前世にそんなことがあったのか」


あれからしばらくぼぅっとしていると部屋に神様が入ってきて、私は途切れ途切れながらも前世であったことを話した。私が前世を忘れていたわけ。何より神様が怪訝な顔をしたのは茜のことについてだった。


「その茜とやらは一体何者なのか…」

「…わからないです。あの子は出会った時から不思議な子でしたから。よくわけのわかんない魔方陣を描いて楽しそうに私に見せてきたりしてましたよ」

「…なるほどな」

「え、なんですか」

「いや…こっちの話だ」


それっきり神様は、私がいくら追及しても口を割ろうとはしなかった。まぁ、いいけど。でもなーんか釈然としないなぁ。めっちゃくちゃ気になる。


「…時にシュエよ」

「はい?」

「お主が夢幻層に入ってからというものの、こちらでは2年がたっていると言うのを知っておるか?」

「…………は!?え、に、2年…えッ!?」

「感覚的には比較的短時間に感じていただろうが、体の成長はこちら側と同じように進んでおるから安心しろ。あぁ、そういえば一度ここにピッコロや悟空の息子が乗り込んできたこともあったか。早めに帰った方がいいのではないのか?」


開いた口が塞がらない、というのはまさしくこのことで。いけしゃーしゃーと知らこくのたまう神様に軽い殺意が芽生えた。私的には1、2時間程度しか夢幻層にいなかった気がするのだけど、どうやらこちら側では2年の歳月が流れていたらしい。何それ意味わかんない。お母さんに殺される。
てゆーか…


「そういうことは早く言ってよねッ!!!」


ばびゅんッと神殿を飛び出し全速力で空を翔る。やばいやばいやばいやばいッ!!今度こそ本当に死んだッ!!殺されるッ!!お母さんは怒るとこの世に生きるどんなものよりも恐ろしいんだッ!!超サイヤ人?まるで子供だよ!!形無しだよ!!なんて言い訳しよう…


「…別世界の神龍、か」


私が飛び去った神殿で、神様がぽつりと漏らした言葉は知る由もない。





*****



「…入りにくい」


現在地、自宅前。さっきからドアノブに手を伸ばして、引っ込めて、をずっと繰り返してます。このドアを開けた瞬間、私は死ぬ。わかるんだ私。まだ死にたくない。


「どうしよ…」

「ぐあぁああああッ!!!!」

「!!?!??」


中から聞こえた突然の叫び声に思わず飛び上がった。な、なに、なんなの…!なんなの今のッ!!中で一体何が…!?えッ、えッ!?
そこではた、と気付いた。そういえばあの青年が言ってたな。お父さんは心臓病になって死ぬって。ってことはさっきのはお父さんの…!?理解した瞬間、今まで開けるのを躊躇していた玄関を勢いよく開け放った。


「お、お父さんッ!!」


ぽかん、と私を見つめるお母さんと台所越しに目が合った。


「シュエ、ちゃん…?」

「おか、さん…」

「〜ッ!!!!」


ばちぃいんッ!
凄まじい音をたてた私の頬。床に倒れ込んだ私はじんじんと痛む頬を押さえて呆然とお母さんを見上げた。わなわなと震えるお母さんの表情は俯いててよくわからないけど、とてつもなく怒っていると言うのは痛いほどわかった。だって背後に鬼、いや鬼神、いいや阿修羅…それらをぜーんぶ背負っている幻覚が見えるもん。


「ち、チチさん!?どうしたんだって…シュエ!?」

「や、ヤムチャさん…」


ビンタの音を聞きつけてか奥の部屋から現れたヤムチャさんは、私を見て驚いたように目を瞬かせた。


「お、前…!今までどこにいたんだ!!チチさんや悟飯が一体どれほど心配してたと思って…!」

「ちょっと黙っててけろ」


私に詰め寄ったヤムチャさんを手で制したお母さんは座り込む私に近づいてきた。その姿が夢幻層で見た包丁を持った姉さんと重なって見えて、怖くなって、そのままの体制でずりずりと後ずさった。


「ッ…」

「シュエ」

「あ…」


ゆっくりと私に伸ばされた手に思わずぎゅっと目を閉じた。瞬間、ふわりと温かいぬくもりが私の体を包みこんだ。


「お母さん…?」

「こんの…バカ娘ッ!!おらがどんだけ…どんだけ心配したかわかってるだかッ!!?2年だ!!何も言わずいなくなって…2年も連絡を寄越さねぇでどこほっつき歩いていただ!?おらはおめぇをそんな不良なんかに育てた覚えはねぇ!!勉強だってちっともやってねぇんだろ!!他の子よりも随分遅れだってあるし、塾の友達まで心配かけて…!!おめぇは…ッ!!」

「……」

「無事で、本当によかった…ッ!!」

「ッ…ごめ、ごめんねお母さん…!私、わたし…ッ!!うわぁああああああああああああッ!!!!」


痛いくらい抱きしめられる温かい腕に耐え切れず泣き叫んだ。お母さんには今まで何度も抱きしめてもらったことがある。けれど、前世の記憶を取り戻したあとでは感じ方が全く違った。このぬくもりがどれほど尊くて愛おしいものなのか、改めて思い知った。


しばらく泣きじゃくった私が落ち着いた頃、今まで何していたかをお母さんたちに話した。私の前世の記憶について。それを知るために神様の神殿にある夢幻層に行っていたこと。その中とここでは時間の流れが違うこと。そして、私の前世の名前も。
長い沈黙を破ったのはヤムチャさんだった。


「なんか、俄かには信じがたい話だよな…前世って言われてもピンとこないし、ただの夢じゃなかったのか?」

「…夢なんかじゃない。あれはちゃんとした私の中の記憶。絶対に忘れてはいけないものなの。だから…」

「だから…それがどうした」

「え?」

「雪だかなんだか知らねぇが、おめぇはおらが腹痛めて生んだ大事な子供だ。確かに聞いた話じゃとんでもねぇだか、それがなんだ。前世がどうであれ今のおめぇはシュエって名前があんだろ?それとも、シュエにとっておらたちはその程度だったのけ?」

「ち、違う!!私はお母さんもお父さんも、もちろん悟飯も大好きだ!!心の底から!!とても大事だと思ってるよ!!」

「なら、それでいいんじゃねぇのか?」

「、」

「茜ちゃんだったか?その子だってきっとおめぇのことをそう思ってるに違いねぇだよ。いい加減逃げるのはやめるだ」


結局のところ私は”前世”という名のしがらみにとらわれていただけなのかもしれない。罪を償うだのなんだの言って、でも心の奥のどこかでは逃げたい逃げたいと叫んでいた。まだ自分自身を許せたわけではない。けれど、お母さんの言葉で少しは自分を許せた気がした。
茜。大好きな私の親友。あの子が何を思って私の傍にいてくれたのか、今なら少しわかる。


「…お母さん」

「ん?」

「私ってば自分勝手だから、自分の言動に責任なんて持てやしないし、これからもお母さんを困らせるようなこといっぱい言うかもしれないよ…?」

「構わねぇだ。子供はそうやって成長していくもんだ」

「、…私、お母さんの子供でもいいのかなぁ…!」

「あったりめぇだろ!?今更何言うだか!!たかがちょっと思い出した記憶だけで家族やめられちゃ、たまったもんじゃねぇべッ!!」

「…ふ、あはッ…そう、だね。うん、そうだよね…」

「…ようやく笑っただな」

「?」

「シュエ、帰ってきてからずっと俯いてるか眉間に皺寄せてるか泣きそうになるかのどれかだったからな。おめぇは笑った方が可愛いべ」


むんぎゅっと再び抱きしめられた私。あぁ、うん。やっぱり私、お母さんが大好きだなぁ。前世があれだったからって言うのもあるけど、それを抜いてもお母さんは大好き。


「さ、暗い話はここまで!シュエ、悟空さに顔見せてあげるだ。今は病気で苦しんでるけども、きっと悟空さはシュエが帰ってきたことわかるだ。ほら、おいで」

「…うん!」


お母さんに手を引かれ、壁に寄りかかって苦笑いするヤムチャさんを見て人知れず笑みを零した。私の新しい夢。それは、この大好きな人たちと一緒に年を取って行くこと。





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話がいろんな方向に逸れた挙げ句まとまりがなくなった件について。




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